2020年を振り返って(第3回/全3回)

コロナ禍を見据える覚悟

 東京商工リサーチ情報部は、2020年も上場企業や業界大手の経営トップにインタビューを重ねた。直接、トップの口から業界を取り巻く課題や展望を聞くと、様々な示唆に富んだ答えが返ってくる。そんな国内有数の経営者も、2020年はコロナ禍への対応に追われた一年だった。

 「星野リゾート」を展開する(株)星野リゾートホールディングス(TSR企業コード: 412115867)の星野佳路代表は2月のインタビューで、コロナ禍で消失したインバウンド需要に対し、「1つの国や地域に頼るのは危険」と警鐘を鳴らしていた。その上で、これまで政府がこだわってきた訪日旅行者の数よりも「満足度を意識した持続可能な観光施策が肝要だ」と説き、国内の若年層の観光需要の創出の大切さを強調した。

 テレビショッピング最大手のジュピターショップチャンネル(株)(TSR企業コード:293158452)の新森健之社長は、7月上旬のインタビューで、すでにコロナ禍による消費者心理のニューノーマルについて言及。在宅勤務の普及により空気清浄機やエアコン、食品類の販売は好調である一方、“巣ごもり”“三密回避”の定着により、高額のジュエリーやバッグが「苦戦を強いられている」と語った。

 オフィスビル、ホテル開発など総合デベロッパーである森トラスト(株)(TSR企業コード:291302319)の伊達美和子社長は7月下旬のインタビューで、開催延期となった東京オリンピック・パラリンピックについて、2021年の宿泊需要の寄与として「予算には一切計上していない」と明言した。

 商工組合中央金庫(TSR企業コード:299020045)の関根正裕社長は、今春の危機対応業務を振り返った。相談件数がピークだった4月は、一日に800件の相談が寄せられ、資金繰りに不安を抱える中小企業の支援に追われる日々だった。飲食や旅館・宿泊などのサービス業を中心に、当初は資金需要が旺盛だったが、インタビューした8月時点では「今後、この波は製造業など異なる業種にも広がるだろう」と予測した。

 業種は異なるがいずれの企業トップも、このコロナ禍が「いつまで」、「どのような規模」で継続するかを見据え、ケースに見合ったシナリオを描いていた。
 いつ終わるか先が見えない新型コロナの猛威のなか、経営トップの生の声はアフター・コロナに向けた指針を探るうえで貴重な提言が多かった。コロナの混乱が続くとみられる2021年も、その人にしかない“価値ある一言”を求めて注目の業界、経営トップに話を聞いていきたい。

2021年の展望

~支援効果が薄れ倒産増加の懸念、金融の動向にも注視~

 2019年9月以降は、深刻な人手不足で人件費が上昇し、中小企業が資金繰りに追われ、企業倒産が増加に転じた。しかし、新型コロナ感染拡大に伴う緊急事態宣言などで、2020年5月は裁判所が一部業務を縮小し、その後も国や自治体、金融機関による資金繰り支援効果も出始め、7月以降の倒産は5カ月連続で前年同月を下回り、抑制された。
 感染拡大の当初は、政府が「とにかく中小企業への資金繰り支援のために貸出を行うように」と指示し、信用保証協会の保証承諾で金融機関は中小企業向け貸出を推し進めた。
 こうしたことから全国信用保証協会連合会の保証承諾は、2020年4-6月の3カ月間で2019年度1年間(4-3月)の保証承諾件数を上回った。

 夏場以降は、政策支援は一巡し、企業の状況をチェックする余裕も出始め、信用保証協会の保証承諾でも「減額」や「拒否」が出始めた。「とにかく中小企業に資金の貸出を」から、「中小企業の実態に合わせた貸出」へと融資姿勢が変化したといえる。
 倒産は減少が続くが、金融機関からは「政策支援で中小企業は手元資金を残している」との声が多く聞かれる。とはいえ、「新型コロナ感染拡大の影響は大きく、中小企業の業績改善の見通しは立たない。制度融資でも多額の借入金を抱えており、過剰債務の企業には新たな貸出は難しい。時間とともに資金繰りは厳しさを増していくだろう」との見方が大勢を占めることを忘れてはいけない。
 政策支援で当座の資金繰り破たんを免れた中小企業は多い。だが、その支援も開始から6カ月以上を経過した。多くの中小企業は、信用保証協会の枠を使い切り、新たな資金調達が難しい局面にある。秋以降、リスケを申請する企業も増え始め、厳しい資金繰りが顕在化したことを実感する。企業倒産は、これから本番に近づく可能性が高まっている。

 なお、貸出ばかりに目を奪われてはいけない。金融機関はコロナ禍で、与信コストの積み増しに動いている。2020年9月中間期の国内銀行108行の貸倒引当金合計は3兆1,819億円と、9月中間期では2016年同期以来、4年ぶりに3兆円台に乗せた。108行のうち、貸倒引当金を積み増したのは79行(構成比73.1%)で、2008年に調査を開始以降、2009年3月期の67行を上回り、最多を記録した。
 日本銀行の「利率別貸出残高(国内銀行銀行勘定)」によると、2010年3月に金利が1.00%未満の残高は約2割だったが、2016年2月に日本銀行がマイナス金利を導入以降は、低金利競争が激化。2020年8月は約7割まで拡大した。こうした、低金利での貸出が金融機関の収益を悪化させてきた。
 与信コストの増大、低金利貸出の増加は、金融機関の将来に影響を及ぼす。2020年11月10日、日本銀行が「地域金融強化のための特別当座預金制度」の導入を発表した。同25日には、金融庁が合併や経営統合などに必要な経費の一部を支援する「資金交付制度(案)」をまとめた。同27日には独占禁止法の特例法が施行された。次々と金融機関の再編を促す下地が整いつつある。

 新型コロナ感染の再拡大で、事業環境は一段と厳しさを増している。後継者問題や将来性を見据えた時、企業倒産や廃業の増加は避けられない部分もある。これは金融機関も決して例外ではない。低金利による収益環境の低迷も加わり、2021年は金融機関の生き残り策にも目を離せない。
 2019年以降、SBIホールディングス(株)(TSR企業コード: 293749795)が地方銀行7行と資本提携を締結し、10行と「地銀連合構想」を推し進めている。銀行同士のアライアンスの締結などの動きも注目される。

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2020年1月17日号掲載予定「2020年を振り返って(第3回/全3回)」を再編集)

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