ボタンの間から下着の検査「何でここまで?」 校則は誰のためにあるのか

 下着は白、靴下の長さは床から15センチ以上、ツーブロック禁止…。子どもの人権を尊重し、多様性を認め合うはずの学校で、髪形から下着の色まで厳格に定めた校則がまかり通り、「理不尽だ」と不満の声が上がっている。校則は社会の変化に合わせて柔軟に見直されるべきものだが、子どもの意見が反映されず、学校のお仕着せになっていることも多い。中には人権侵害だと指摘される規則も。

 そのルール、一体誰のため?

3回にわたって考えます。(共同通信=小川美沙、松本智恵)

 ▽ボタンの間から確認

  「先生たち、何でここまでするの?」。

  福岡市の中学1年の男子生徒(13)は、男性教諭数人による身だしなみ検査に戸惑った。 男子生徒によると、教諭は生徒を廊下に並ばせ、ボタンとボタンの間を開かせて下着の色を確認したという。同様の検査は入学から半年ほどの間に3回経験した。検査に先立ち、「下着は白・ベージュで華美でないもの」という新たな規則が追加されていた。意見を聞かれた覚えも、納得のいく理由の説明もなかったのに…。「生徒は何も言えない」。男子生徒はため息をついた。

 市教委によると、5月に市内の中学の校則を点検したが「明らかに人権侵害にあたるものはなかった」。下着の色を指定している学校はあるものの「華美な色では透けてしまうことや、経済的な理由から」だという。

 同市の公立中のPTA会長を務めた経験があり、校則問題に詳しい後藤富和弁護士は「下着の色の指定や検査はセクハラ。社会では許されないことがなぜ学校で起きるのか」と非難する。

福岡県弁護士会がまとめた、福岡市立中の全69校の校則の実態調査

 福岡県弁護士会は22日、福岡市立中の全69校の校則の実態を調査した結果を発表した。下着の色を指定する学校は57校。ある学校では「違反している下着を学校で脱がせる」と定め、「人権侵害にあたる行き過ぎた指導」だと指摘されるものも。調査を担当した弁護士会の佐川民弁護士は「規制自体に合理性、必要性がないのに、違反したら教室に入れないなど、学習の機会を奪うものもあった」と話す。

福岡県弁護士会の記者会見=12月22日

 ▽校外でも順守?

 そもそも、校則とは誰が定めるのか。根拠法令はないが、校長に制定の権限があるとされている。文部科学省の「生徒指導提要」(2010年)によると、校則は「児童生徒が健全な学校生活を営み、よりよく成長していくための行動の指針」。子どもの実情や時代の流れに沿って積極的な見直しを求めており、見直しに子どもたちも関わることで、主体性を培う機会となるとしている。

 佐賀県弁護士会は今年4月以降、県内計22の中学の校則を調べ、生徒らへのヒアリングも行った。調査によると、校則で下着の色を指定し、女性教諭が女子生徒の下着の肩ひもを出させて目視で検査していた例もあった。

 制約は校外活動にまで及び、友人宅への宿泊を禁じたり、校区外で原則制服の着用を定めたりする学校もあったという。校則の意義や成り立ちを説明しているケースはほとんどなく、改定や見直し手続きを定めたものも一切なかった。

 弁護士会は11月、県教委に提言書を提出。時代にそぐわない校則の見直しや、校則の策定、変更には子どもたちの意見を聞く仕組みを構築するよう求めた。校外の行動までルールを作り、保護者が許可していることまで一方的に律して、学校の責任を過度に重くすることも「妥当でない」などと指摘した。

佐賀県庁で担当者(右)に提言書を手渡す県弁護士会の富永洋一会長=11月

 ▽子ども中心に

 子ども中心のルール作りを模索する動きもある。熊本市教育委員会は8~10月、小学1~3年を除く児童や生徒、保護者、教職員を対象にアンケートをし、計約5万人が回答。結果、必要のない校則として「靴下の長さ、ピンの数、髪を結ぶ高さ」「日焼け止めの禁止」などが挙がった。子どもたちが校則を作り、考える場が「ない」と答えた子どもは72・2%、教職員は68・5%に上り、そうした場が必要だと回答したのは子ども、教職員ともに8割を上回った。

 一方、子どもたちが関わる場は必要ないとした人の回答を見ると「わがままな意見が出て、収拾が付かなくなる」(中学教職員)という意見や、「(考えても)反映されることがほぼないから。採用されないと思うから」(中学生)という、諦めとも取れる声もあった。

 市教委はさらに議論を深めようと、10月下旬に市内の中高生、教職員、保護者ら計約40人が参加するオンライン公聴会を開催。6グループに分かれて約1時間半、意見を交わした。遠藤洋路教育長がコーディネーターを務めたグループでは、中3の男子生徒が「校則に不満を持っていたが、これまで意見を言えなかった」と切り出し、「中学生らしい髪形」とは何かを問いかける形になった。

 女性高校教員は「社会に出る前、面接などで通用する身だしなみとはどういうものかを考えてもらうためだと思う」と回答。一方、高2の男子生徒は「奇抜すぎるのは良くないと思うが、ツーブロックがだめなのは分からない」。保護者の一人は「『中高生らしさ』がつかめない。なぜ推奨されるのか、理屈を伴わないものがある」とこぼした。

 公聴会の結果を踏まえ、市教委は今後、子どもたちが見直しに関われる仕組み作りを進める予定だという。(つづく)

関連記事はこちら

教諭も困惑、制服検査「あれはセクハラ」 校則は誰のためにあるのか(2)

https://www.47news.jp/47reporters/5644141.html

「校則なし」で区立中はどう変わったか 校則は誰のためにあるのか(3)

https://www.47news.jp/47reporters/5648698.html

© 一般社団法人共同通信社