中国で社債のデフォルトが多発!新型コロナの次に中国経済が直面する課題とは

中国では今年、社債のデフォルト(債務不履行)が多発しています。中には、国策である半導体関連企業や暗黙の政府保障があるとされてきた国有企業も含まれており、中国経済の先行きを懸念する報道も多くあります。

しかし筆者は、足元のデフォルトの多発は中国当局の政策姿勢の変化を反映したものであり、中国経済に大きな悪影響を与えることはなく、むしろ痛みを伴う構造改革の進展により中国経済の発展に寄与する可能性もあると考えています。


2020年の中国企業デフォルト金額は過去最高となる可能性も

中国における社債のデフォルト(債務不履行)が急増しています。2019年には過去最高のデフォルト額となっていましたが、今年はその金額を上回る可能性が高いとみられます。

デフォルトを引き起こした企業の中には、これまで暗黙の政府保証が存在するとされてきた国有企業が多く含まれています。また、半導体関連の製造業企業や中国国内で最上級の格付けを取得していた外資系自動車メーカーとの合弁会社なども含まれています。

こうした比較的信用力の高いとみられていた企業のデフォルトが多発したことから、中国経済の先行きへの懸念が多く報じられています。

デフォルト多発の背景は中国当局の構造改革方針

中国におけるデフォルト多発の背景を整理すると、大きく2つの要因が浮かび上がります。1つはコロナ禍の景気と企業の経営環境の悪化、もう1つが当局の政策正常化と構造改革路線への転換です。

中国経済は、新型コロナウイルスの感染抑制と早期の経済活動の再開を受け、主要各国対比でいち早くコロナ禍から脱却し、通年で前年比プラスの成長となっています。しかし、年前半の景気の落ち込みは大きく、成長率自体は例年の伸びを下回っている状況です。

こうした中で企業の経営環境は悪化しており、業績の低迷や収益の悪化がデフォルト発生の大きな理由となっています。

さらに、中国当局は4~6月期の経済成長率がプラス転換したことを受け、7月の中央政治局会議において、政策スタンスをコロナ禍の対応から構造改革路線へと転換することを表明しました。こうした政策スタンスのもとで、当局は収益性がかなり低いものの、政策支援により存続し続けてきた、所謂ゾンビ企業の整理へと乗り出した格好です。

これらが足元で国有企業のデフォルトが増加した要因であると考えられます。

デフォルトが増加しても中国の金融環境の悪化は限定的

デフォルトの多発を受け、足元では金融システム不安や信用縮小の発生など中国経済の先行きへの懸念を示す報道等も多くあります。しかし筆者は、今回のデフォルト多発による景気への悪影響は限定的であり、むしろ長期的には中国経済の安定的な成長に資すると考えています。

そもそも中国当局は、構造改革路線への転換と共に、景気の安定化と金融的なリスクの低減を提唱しています。中国の金融環境を確認すると、2020年第3四半期までの商業銀行部門の不良債権比率の上昇は限定的なものに留まっている上、信用指標にも大きな影響は見られません。

つまり、デフォルトの増加が金融環境を損なうような状況ではなく、現状では景気への悪影響は限定的であると言えます。

今後も、中国当局は景気への配慮を示しながら構造改革を断行するとみられ、デフォルトの増加は続くものの中国経済への影響は限定的なものに留まると考えます。

中国当局による政策支援はハイテク製造業へ集中か

中国当局は、2021年から始まる第14次5カ年計画において、内需の拡大を主軸とした新たな成長モデルを示しました。内需の拡大に向けて、ハイテク製造業の内製化とその国内消費の拡大を目指し、政策支援の対象を半導体や通信インフラなどハイテク製造業・新型インフラへ集中させ、合理的な企業の投資を促す方針を示しています。

これは、これまで政策支援に支えられて存続してきた企業にとっては逆風が強まることを意味しています。伝統的な産業分野の国有企業の経営環境悪化とデフォルトの増加は、今後も続く可能性が高いでしょう。

一方で、政策支援は優先投資対象であるハイテク分野へ集中させることができるため、より効率的な政策支援に繋がり、ハイテク技術内製化と内需の拡大に寄与すると考えます。

中国におけるデフォルトの多発というとネガティブな印象を抱きやすいものの、その背景に目を向けると、構造改革の断行やハイテク製造業への政策支援拡大といった、質の高い成長を政府が目指すという大きな流れがあります。

こうした取り組みの成否については依然として不透明感が強いものの、痛みを伴う構造改革の実行や成長の源泉となる産業の育成は中国経済の持続的な発展に必要不可欠です。取り組みが中国経済の質の高い成長に寄与することに期待しています。

<文:エコノミスト 須賀田進成>

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