米大統領選挙後の展望 笹川平和財団・渡部恒雄氏 米中対立へ懸念

渡部恒雄氏

 11月の米大統領選は共和党のトランプ大統領が7300万票以上、民主党のバイデン氏は8千万票で共に史上最多得票となり、米国の分断が示された。トランプ氏は投票に不正があったと言って敗北宣言をしていないが、明確な証拠はなく、バイデン氏が来年1月20日に大統領になるだろう。
 ひと言で言うと「コロナ選挙」だった。米国では新型コロナウイルスで1日3千人、合わせて27万人を超える死者が出ている。トランプ氏は経済を優先しマスクを着けず、コロナ対策もやる気がなかったが、バイデン氏や民主党の支持者は着けていた。
 バイデン氏は若い頃に妻と娘を交通事故で失い、息子もがんで失った。身内を失う苦しみをよく分かっているのも支持を得た要因ではないか。ただ、既に反マスク同盟みたいなものができており、今後も感染者は増えるだろう。
 人種を巡る分断もあった。白人警官による黒人暴行死事件に伴う抗議デモへの対応だ。トランプ氏は6月にホワイトハウス近くの教会で聖書を掲げた写真を撮るためだけに平和的なデモを排除した。マティス前国防長官が、キリスト教右派向けの選挙対策で「おかしい」と批判した後、急にトランプ人気が落ちた。
 選挙では、ヒスパニック(中南米系)が増えているアリゾナ州など、共和党が強かった所で民主党が強くなったことが分かった。全体的に女性や黒人、ヒスパニックなどの声が大きくなり、民主党の支持が増え、危機感を持つ白人男性がトランプ氏の下に固まっている。長期的に見て、勝負は見えている。
 日本にとっては米中対立が課題だ。尖閣諸島問題を含め、ナショナリズムが高まる中国への懸念は、米国の共和党だけでなく、民主党にも広がっている。バイデン氏が大統領になってもしばらくは対抗的にならざるを得ない。
 日本も米国も経済面では中国のマーケットに依存し、安全保障と経済のバランスが難しい。中国には「国際ルールを守ることで中国も米国もみんな豊かになった。それを壊すと中国のためにもならない」と言っていくしかない。
 バイデン氏が大統領になると中国に寄りすぎるのではないか、という心配はしなくていい。上院外交委員長の経験もある外交のプロだ。同盟国を大事にし、バランスも取れている。米国の民主主義や戦略は立て直しの方向にいく。日本にとっても悪くない。

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