佐藤敬助さんの回顧展「土から生まれた生命の賛歌」  長崎の彫刻界けん引 県美術館で27日まで

佐藤さんが手掛けた女性像などが並ぶ会場=長崎市、県美術館

 長崎県美術界をけん引した彫刻家で、2017年に66歳で死去した長崎大名誉教授の佐藤敬助さんの回顧展「土から生まれた生命の賛歌~佐藤敬助の世界~展」が、長崎市出島町の県美術館県民ギャラリーで開かれている。27日まで。無料。
 佐藤さんは東京都出身。彫刻家だった父親の影響を受け、彫刻を始めた。東京教育大(現・筑波大)在学中の1971年、19歳で日展初入選。以後、同展や日彫展で入選入賞を重ね、注目を集めた。80年に長崎大教育学部講師に赴任。84年に日展特選、翌年に同展無鑑査特選を受賞。96年に同大教授に就任。県内外で活躍中の美術教育者らを育成した。
 長崎市の十八親和銀行長崎営業部(屋外)や佐世保市の中央公園、松浦市役所など県内の学校や病院、ホール、県外では東京や大阪などに計約30点の作品が設置されているほか、県美術協会副会長を務めるなど、彫刻界の発展に尽力した。
 同展は、佐藤さんの彫刻芸術や教育、人材育成などにおける功績を知ってもらおうと、教え子や県内美術関係者らでつくる実行委が企画。会場には、80年代から没年までの女性像を中心に約70点を展示。手を広げ、体全身で風を感じる女性像は2014年制作の「風の中で-明日への思い-」(樹脂)。体のフォルムが美しく、透明感があり、ワンピースが風になびく様子が本物のように形作られている。この作品のブロンズは、長崎大文教キャンパスにも設置されている。
 体育座りのような体勢で斜め下を見詰める女性像は「ゆれる心」(樹脂)。17年に制作された佐藤さんの遺作。佐藤さんは「時として思わぬ事象に見舞われ、人生の進路と価値の変換を迫られることがある。それでも不安と葛藤の中で生命の輝きは絶えることなく、むしろひときわ輝きを増す。その壮絶な生の輝きを追い求めてみた」と制作コメントを残している。
 佐藤さんと共に県内の彫刻普及に取り組んできた日展会員で、県美術協会副会長の馬場正邦さん(63)は「コスチュームを着た人物像の制作技術がとてもたけていた」と作品について語り、「長崎の彫刻活動の原点をつくり、美術教育に貢献した偉大な人物」と業績をたたえた。
 長崎市の彫刻家、嶋谷悦子さん(58)は佐藤さんの教え子。「佐藤先生は温厚で親しみやすかったが、彫刻制作については厳しかった」と思い出を語り、「先生の内面がにじみ出たきれいな作品を多くの人に見てもらいたい」と呼び掛けた。

佐藤敬助さん

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