勝利への条件

 江戸時代の出島オランダ商館医シーボルトは1823年に出島で子どもに種痘を試みた。だが、海外から持ち込んだ天然痘ワクチンが腐敗していたため失敗に終わった▲それから26年後。シーボルトの門弟・楢林宗建(ならばやしそうけん)が三男建三郎らを出島に連れて行き、商館医モーニッケの接種によって国内で初めて種痘が成功する。英国の医師ジェンナーが種痘を発明してから、約半世紀が過ぎていた▲新型コロナウイルスとの「闘い」にやっと光明が見えた。米製薬大手ファイザーなどが開発したワクチンの接種が英国や米国などで始まった。ウイルスが年初に拡大し始めてから1年に満たない猛スピードだ。科学の進歩に驚くほかはない▲ファイザーはワクチンを厚生労働省に承認申請した。早ければ来年3月にも国内で接種が始まるという。朗報には違いない▲ただ、人工遺伝子のRNAを利用した新しいタイプのワクチンだけに若干の不安も残る。副作用や持続性をしっかり見極める必要があろう▲人類を苦しめ続けた天然痘は種痘により地球上から姿を消したが、最後の患者はアフリカのソマリアにいた。ウイルスを制圧するには世界の隅々にワクチンが行き渡り、再拡大の芽を摘む必要がある。人類の勝利はワクチンを囲い込む「自国第一の病」も治すことが条件だ。(潤)

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