エクストリームEが初の合同テストを完了。サインツJr.も「新しい挑戦」と父のマシンにチョイ乗り

 地球環境保全活動とその啓蒙、さらに男女平等と独創的な放映形態を採用する計画の新たな電動オフロード選手権『Extreme E(エクストリームE)』が、2021年3月の初年度開幕を前に大規模な合同テストを実施。スペインのモーターランド・アラゴンには全9チームの豪華スタードライバーが集結して2日間のセッションが行われた。その現場には、2021年にF1のスクーデリア・フェラーリ加入で跳ね馬ドライバーに抜擢されたカルロス・サインツJr.も姿を見せ、父の電動SUVをサンプリングした。

 WRC世界ラリー選手権王者でダカールラリー覇者でもあるラリー&クロスカントリー界のレジェンド、カルロス・サインツやセバスチャン・ローブを始め、WorldRX世界ラリークロス選手権チャンピオンの肩書きを持つヨハン・クリストファーソンやティミー・ハンセン、そしてWorldRX王者に加えDTMドイツ・ツーリングカー選手権タイトルも獲得するマティアス・エクストロームなど、現地には錚々たるメンバーが顔を揃えた。

 また、彼らとペアを組む女性ドライバーにも、ダカールで実績を重ねてきた有望な才能であるクリスティーナ・グティエレスやライア・サンズ、女性シングルシーター選手権Wシリーズの初代王者ジェイミー・チャドウィックに、オーストラリア・ラリー選手権チャンピオンのモリー・テイラー、そしてERCヨーロッパ・ラリー選手権のレディス部門覇者の経歴を持ち、それぞれ華やかな世界でも活躍する“クリスティーナGZ”ことクリスティーナ・ジャンパオリ・ゾンカやケイティ・マニングスらが、記念すべきシリーズ初のグループテストに臨んだ。

 シリーズに採用される電動SUV『ODYSSEY 21(オデッセイ21)』プロトタイプは、ABBフォーミュラE選手権でもシリーズ創生期に技術開発を担当したスパーク・レーシング・テクノロジーズ(SRT)と、ウイリアムズ・アドバンスド・エンジアリング(WAE)が設計・製造を担う。

 そのオデッセイ21はふたつのモーターがリヤに搭載され、最大出力は400kW(約544PS)を発生。最大勾配130%(約52度)の路面においても1650kgの車体を約4.5秒で62mph(約100km/h)まで加速させることが可能な性能を有する。

 3月に迫る開幕戦『X-Prix in Saudi Arabia』を前に、そのモンスターEVの本格的なテストに挑んだチームは、2種類のレイアウトが用意されたオフロードトラックで精力的な走り込みを完了。3.1kmのオープンコースとより高速な1kmのショートサーキットで、霧の状態や視界不良に対処しなければならない状況にもかかわらず、トラブルフリーでテストを完遂し、すべてのドライバーがその卓越したドライビング技術を証明する形となった。

ACCIONA Sainz XE Teamのリードドライバーを務める”エル・マタドール”ことカルロス・サインツ
Andretti Unitedのエースである2019年WorldRX王者ティミー・ハンセンも、マシンの限界を確かめる豪快なアクションを見せる
F1の7冠王者ルイス・ハミルトンのX44から参戦するセバスチャン・ローブ。ペアを組むクリスティーナ・グティエレスにドライビングを指南
2021年もダカールラリー参戦を決めているセバスチャン・ローブ。このシリーズでも優勝戦線に絡む筆頭候補となりそうだ

■「父はこの3~4カ月は本当に忙しそうだった」とサインツJr.

「今回は濃霧のコンディションで天候との戦いも加味されたが、全体的には成功裏に終えることができた。マシンは初モノとしては本当に信頼性が高く、常時フルパワーで走れていた。ドライバー全員が新しい技術にトライする様を見るのは、本当にエキサイティングだ。我々はまさに、臨んでいたとおりのことを達成したと言えるね」とテスト成功の喜びを語ったのは、シリーズのレースディレクターであるスコット・エルキンス。

「テストでは2種類のレイアウトを採用し、ロングコースはよりワイドな幅でオープンロードを模したものとした。実際のイベントではマーカーでコースレイアウトを作成するので、レースの形態に則した形だね」と説明するエルキンス。

「もう一方は一般的なトラックレイアウトで、マシンの素性把握やハンドリング評価に焦点を当てた。ともに来季のイベントに向け、あらゆる環境を想定したテストの良い機会が提供できたと思う」

 一方、アクシオナ|サインツXEチームとしてシリーズ参戦を表明したカルロス・サインツとライア・サンズの元には、サインツ家の“エル・マタドール2世”としてマクラーレンF1から移籍し、フェラーリ加入がアナウンスされているサインツJr.が合流。ゲストとして父のエレクトリックSUVを初体験した。

「父は兼ねてからこのカテゴリーに興味を持っていたし、エクストリームEに参戦すると決めてからのこの3~4カ月は本当に忙しそうだった」と、プロジェクトの準備を進めていた父の様子を語るサインツJr.。

「これはまったく新しい挑戦であり、チームは可能な限り競争力のある状態で開幕に挑むため、非常に懸命に取り組んでいることがわかった。シリーズが掲げる気候へのメッセージは、ショーと優れたレースを生み出しながら人々に世界で何が起こっているのかをより意識させる可能性があり、とても重要だと感じている」

 このテスト終了後、マシンは最終調整のためチームのワークショップに戻り、システムチェックや各部確認ののちにシリーズの“フローティング・パドック”となる元貨客船、RMS St.Helena(セントヘレナ号)に集結。

 2月中旬には世界中を航海するために出航し、初年度を構成する5つのイベントカレンダーは、3月のサウジアラビアに始まり、5月にセネガル、8月にグリーンランド、10月にブラジル、そして12月のパタゴニアと進んでいくことになる。

Andretti Unitedとともに、宿敵Chip Ganassi Racingも参戦。北米の雄が電動SUVシリーズでも火花を散らす
Andretti Unitedから参戦のケイティ・マニングスは、僚友のティミー・ハンセン同様レッドブルからの支援を受ける
ニコ・ロズベルグのRosberg Xtreme Racingも、ヨハン・クリストファーソンとモリー・テイラーの強力ペアで挑む
父のレクチャーを受け、電動SUV『ODYSSEY 21(オデッセイ21)』のシートに収まるカルロス・サインツJr.

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