離れに車を横付けでチェックイン、「絶妙なタイミング」と評論家が唸った温泉宿

完成された宿の隙の無いサービスは確かに魅力的。一方、高みを目指そうとトライする宿のワクワク感にも興趣が尽きません。後者の場合は開業したばかりの高級宿というケースが多いです。同時にこうしたケースでは、料金設定が高い宿ほど利用するのにはある種ギャンブル的要素もあります。印象に残ったホテルや旅館をレポートする本連載、三重県は湯の山温泉の開業間もない宿のレポートです。


湯の山温泉 素粋居にチェックイン

三重県菰野町にある湯の山温泉は、名古屋から近鉄特急で四日市へ、趣ある近鉄湯の山線でアクセスします。

東京からだと少々遠いイメージもありますが、車であれば新名神が開通し菰野ICができたことで格段にアクセスアップとなりました。筆者個人の話で恐縮ですが、湯の山温泉といえば公共の宿的な日帰り温泉に出向いたことはあるものの、宿泊経験はありませんでした。三重県で会社経営をする友人から「素晴らしい宿がある」という話を聞いたのが10月のこと。車で11月末に京都へ出向く用事があったので帰路宿泊してみることにしました。

そのお宿は「湯の山 素粋居」。京都からの帰路、新名神菰野ICを降りて向かいました。全て異なるコンセプトである12棟の離れで構成されていますが、到着して感動的だったのは離れに車を横付け出来ること。チェックインも客室なのでパブリックスペースを一切経ることなく、大袈裟にいうと自宅玄関から宿の客室へダイレクトアクセスできるプライベート感が嬉しいところ。

最先端のシステムを導入

登録楽々な顔認証キーも便利すぎて自宅玄関に取り付けようと思ってしまったくらいです。自動運転モビリティ送迎サービスを実施しており、客室のタブレットをタッチするだけで離れへお迎えに。

こんな場所で仕事のことは考えたくないのですが、仕方なく執筆仕事を持ち込んできたところ仕事に集中できるデスクの設えにも助けられました。ベッドのクオリティやリネン類も◎。時々聞こえる近鉄湯の山線のタタンタタンをBGMに、客室露天風呂での湯浴みは泉質も最高で癒し極まれりです。

秘密のベールに包まれたダイニング

湯の山 素粋居のディナーは焱(HINOMORI)にて。2020年、否約7年間のホテル評論家生活通してみてもかなり衝撃的な夜となりました。

薪や炭の匂いと共に荘厳な雰囲気に包まれたダイニング。たった7名のゲストが囲む巨大なアイランドはまさにステージ。ドクターコートに身を包む料理人に矜持を感じます。薪や炭などの直火を使った料理は、炎が消えて熾火になる瞬間の素材を芯からじっくりと熱する薪火や炭火で調理がなされます。

肉鮮海鮮の香りや食感が違うのは自然の火の力や熱の力の賜物。前菜から野菜、魚介類、黒毛和牛&経産牛、デザートまで計12品、約3時間に渡り新しい牛の美味しさを堪能しました。食事もそうですが、絶妙のタイミングという点でも唸りました。料理やワインが提供されるタイミングからエアコンの設定室温など変えるタイミングまで、欲することが実現されていく喜びがディナータイムを盛り上げます。

丁寧に準備される部屋での朝食

朝食は客室で供されます。おか持ちを携えたスタッフが来訪しびっくり。畳敷きの部屋にてひとつひとつ丁寧に準備をしてくれます。ラップに包まれた食器を確認するように並べセッティングしていきますが、トータルで15分くらいはかかったでしょうか。でも寝室は別室なので準備に気遣うことはありません。セッティングが終わった光景には、和室へ向かったゲストの感嘆の声が聞こえてきそう。魚の焼き加減からご飯一粒までここでも絶妙なタイミングを感じます。

手探りのサービス

絶妙なタイミングという点にもフォーカスした取材となりましたが、支配人としては「まだできたての宿ということで、ソフト面をひとつひとつ作り上げようとしつつ試行錯誤の日々」といいます。とはいえ、この試行錯誤の見え方が育つ宿か否かの分水嶺と考えるホテル評論家目線にはとても新鮮に映った宿でした。なかなか気軽に出向けない料金設定という点はありますが、次回訪れたときの進化が楽しみでなりません。

※新型コロナウイルスの感染状況により自治体ごとに往来の自粛を要請しているケースもあり、Go To トラベルキャンペーンについては全国で一時停止となりました。利用に際しては、施設や各自治体や施設等のホームページなどで最新情報を確認いただき、出向く際には感染予防対策と共に新しい旅のエチケットを守って行動しましょう。

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