4週目に入ったNHK連続テレビ小説「おちょやん」で、ヒロイン竹井千代(杉咲花)にとって運命の人となる芸人・天海一平の成長後を演じる成田凌が登場した。
2人のモデルとされるのは、名女優・浪花千栄子(1973年に66歳で死去)と、劇作家で俳優の二代目渋谷天外(83年死去)。公私にわたるパートナーだった両者の自伝からは、愛憎を超えた深い思いがうかがえる。
幼くして母に死なれた浪花は、小学校に2か月しか通わせてもらえず、8歳で大阪・道頓堀の芝居茶屋へ奉公に。紆余曲折を経て松竹新喜劇の看板女優となり、巨匠の映画でも活躍した。同新喜劇を48年、浪花や藤山寛美らとともに旗揚げし、座長を務めたのが天外。浪花とは30年に結婚し、50年ごろに離婚した。
原因は、天外が一座にいた女優と交際し、子供が生まれたこと。浪花は夫を失うと同時に新喜劇も退団し、舞台から一時期離れて京都でひっそりと暮らしたという。辛苦を味わった末、NHKラジオ新番組への出演を機に復活。さらなる成功を遂げた。
先月、朝日新聞出版から復刊された自伝「水のように」で浪花は、離婚について「死を意味するほど、重大なもの」と回顧している。天外は72年刊行の「わが喜劇」で「四十四歳にしてはじめて我が子を抱いた夫君は(中略)、スキャンダルくそ喰えと愛人のもとに飛び込んで行った」と赤裸々につづった。
浪花は同書で、結婚生活で信頼と愛情を完全につかむことはできなかった「不幸な妻」かもしれないとした上で、女優としては「私の、今日あるのは、そのときの忍従と苦難の上に咲いた花だ、と思っています」。天外には「偽りないところ、心こめてお礼が言いたい気持ち」であることを明かした。
一方の天外は前出の著書で「あれだけの技量とキャリアを持った人気女優」と元妻の実力を記しつつ、「夫婦というものは2+2=4の公式でないものがあるらしい」と男女の機微に触れた。
ドラマでは2人の関係がどう描かれるのか。天外の息子・三代目の渋谷天外(66)も映画撮影所の守衛役で出演する。