[江口靖二のデジタルサイネージ時評]Vol.52 画期的な事例!通路の真ん中に設置された非接触タッチパネル

txt:江口靖二 構成:編集部

非接触タッチパネルの案内用インタラクティブサイネージ

池袋駅の自由通路に案内用インタラクティブサイネージが設置された。このサイネージは、今後の案内用サイネージの導入や開発を検討する際に、2つの点で非常に参考になり、画期的とも言える。それは通路の真ん中という設置場所と、非接触タッチパネルが超快適にチューンされていることだ。

池袋駅の自由通路の真ん中に設置されている

これまでタッチパネル端末の設置場所は、通行の邪魔になる、滞留が発生するなどの理由で、壁面や隅の方に追いやられるのが通常だった。そうなると端末の存在自体が目に入りにくくなり、結局使われない、だから必要ないという悪循環を繰り返している。

本件の設置場所は池袋駅の自由通路。人が減っているとはいえ、人取りは非常に多い場所だ。この場所に設置したのは英断であるといえる。さらに2台が背中合わせに設置されているので、片方が使われているとそれが呼び水になる。

また、コロナ禍をうけてモノに触れることへの忌避感が強まり、タッチパネルに逆風が吹くなか、空中映像や測距センサーなどを活用した非タッチ操作技術に一時的に注目が集まった。ただ、コストやユーザビリティー、メンテナビリティーの問題から、実装するに至ったケースは少ない。さらに非接触系のタッチインターフェースはいくつか存在しているが、非接触モノは操作している実感がなく心地よくないのだが、この事例ではこれをいくつかの方法で回避できている。

この端末では、枯れた技術である赤外線センサーを採用し、設置位置を工夫するだけで空中タッチを実現した。これであれば、コストをあまりかけることなく空中タッチが実現できる。操作性にも問題はない。コロナ禍が収まったとしても、公共の場でモノに触れることについてはしばらく忌避されることになるだろうが、券売機や食券機など、どうしてもタッチパネルが求められるところもある。そんな中で、簡単に「空中タッチ」を実現できるこの方式は検討するに値する。

フレームの外側に赤外線センサーが埋め込まれていて、ディスプレイ自体は5センチほど奥にある。指先を近づけるとターゲットスコープのようなグラフィックスが表示される

一番のポイントはディスプレイまでの距離だ。筐体に対してディスプレイは5センチほど奥に設置されている。指が近づくとターゲットスコープのようなものが表示される。これによってXY軸方向の指先の位置が自分でわかる。またこれが表示されるタイミングも絶妙である。

ディスプレイから5センチ手前に赤外線センサーがディスプレイを囲むようにつけてあり、指先がディスプレイに到達する前にこのスコープが表示されるので、指が空中をさまようような感覚が全くない。誤ってディスプレイを触ってしまうことがないのだ。注意点としては、赤外線方式だと、座標指定を正確にというか細かい精度が出しにくいので、画面のボタンデザインや配置もそれを考慮しておく必要がある。またスワイプ操作は事実上不可能なので、UI上の工夫も必要である。

根本的な問題としては、そもそもこの場所で果たして案内が必要なのかということと、音声も含めたユーザーインターフェイスがとても使い難いことだ。だがそこはソフトウェアでなんとかすればいい話で、今回は設置場所とタッチレスというインターフェイスという2点に置いて、本件事例は画期的であることは間違いないのである。

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