なぜ?アマゾンギフト券で寄付集め今も横行 規制及ばぬふるさと納税サイトが「代理戦争」

By 助川 尭史

米インターネット通販大手のアマゾンのロゴ

 「大感謝祭!アマゾンギフト券プレゼント」―。ふるさと納税で法改正により禁止されたはずのギフト券やポイントを贈る手法が横行している。自治体間の過度な競争への反省から規制が強化されたはずの制度で、なぜ射幸心をあおるような企画が再び繰り返されているのか。取材を進めると、国の規制が及ばないポータルサイトが、自治体に代わって寄付を奪い合う「代理戦争」の実態が浮かび上がった。(共同通信=助川尭史)

 ▽「広告費」がアマゾン券に

削除されたふるさとプレミアムのキャンペーンサイト

 その年の税控除の期限が迫り、駆け込みの寄付が集中する年末。自治体と寄付者を仲介するポータルサイト各社はテレビCMやサイト独自の特典に力を注ぐ。サイトの一つ「ふるさとプレミアム」では11月から、インターネット通販大手アマゾンのギフト券を寄付金額に応じて贈るキャンペーンを展開。通常は6%相当のところ、一部の自治体分は7~10%相当に引き上げられていた。

 引き上げ対象となったのは岐阜県池田町と愛知県幸田町、和歌山県湯浅町、沖縄県八重瀬町。これらの町に取材すると、サイトを運営する「ユニメディア」(東京)から話を持ち掛けられ、「広告費」として通常より数%高い手数料を支払っていたことが明らかになった。

 現在のふるさと納税の制度では、自治体の返礼品は「寄付額の3割以下の地場産品」に限られ、地域に関係のない金券を贈ることを禁止している。だが民間企業は規制の対象外で、サイトの運営会社が独自の特典を贈ることは黙認されている。今回の場合、自治体からの手数料の増額分が実質的にギフト券を提供する原資になっていたとみられ、町の担当者らは「年末に向け、競争力が欲しかった」「キャンペーンの詳細はサイトに一任していた」と釈明した。

 幸田町は11月中に「適切な寄付募集とみなされない恐れがある」と引き上げを中止。ほか3町も取材した12月1日に同様の理由でいずれも対象から外れた。ユニメディアはキャンペーンについて「オリジナルの企画で、サイトの裁量で実施した」とメールで回答を寄せた。一方で自治体との詳細なやりとりについては「回答を控える」と明かさなかった。ふるさとプレミアムではその後もギフト券を贈るキャンペーン自体は続けている。

 上記の例のように特定の自治体だけを優遇していたケースはまれだが、返礼品に加えて金券や換金性の高いポイントを特典として贈る手法はもはや常識だ。所得に応じて決まる寄付額の上限の範囲内で自己負担額2千円を超える特典を受け取れば「寄付をするほどお得」となるためだ。背景には、ポータルサイトの発展とともに成長してきた制度の成り立ちと、熾烈(しれつ)な競争が続く業界の現状がある。

 ▽新規参入増加でお得さ強調

寄付額トップ10自治体の比較表(2008年度と2019年度)

 2008年の制度開始当初、返礼品を扱う自治体はわずかで、ふるさと納税をするには寄付先の自治体と直接やりとりして確定申告をする煩雑な手続きが必要だった。そのため利用は地元出身の有名人によるPR目的か、一部の高額所得者に限られていた。その結果、受け入れ寄付額の上位は知名度のある大都市の自治体が独占。本来制度の恩恵を受けるはずの地方の自治体には寄付が全く集まらないいびつな状況が続いていた。

 転機となったのは12年、寄付の手続きをネットで簡単に決済できる仕組みを構築し、返礼品を紹介して寄付を集めるスタイルを確立したポータルサイト「ふるさとチョイス」の登場だ。運営するトラストバンク(東京)は全国でセミナーを開催し、アピールできる返礼品の提案や手配のノウハウを提供するなどして圧倒的なシェアを築いた。14年には、アイモバイル(東京)が運営する「ふるなび」、ソフトバンクグループの「さとふる」(東京)がオープン、15年に楽天も専用サイトを開設した。同年に減税される寄付の上限が2倍に引き上げられ、寄付先が5自治体までなら確定申告が要らない「ワンストップ特例」が始まったことで「ふるさと納税ブーム」が巻き起こった。

 制度の盛り上がりに伴い、百貨店や航空会社など異業種からも参入が相次ぐ中、返礼品掲載数の少ない後発のサイトほど利用者を確保するために独自の特典を使ってお得さを強調する企画を開催するようになった。一方、ほとんどの寄付がポータルサイトを経由する中、自治体から是正を求める動きは鈍く、サイト間の競争に歯止めがかからなくなっていった。

さまざまなポータルのバナーのコラージュ

 ▽「直営サイト」で対抗も挫折

 そんな状況に対抗しようとしたのが大阪府泉佐野市だ。市の直営サイト「さのちょく」を作り、これまで寄付額の約1割を支払っていたポータルサイトの中間マージンの削減に成功した。19年には他の自治体の直営サイトを連携させたポータルサイトを立ち上げ、寄付がそのまま自治体に入る野心的な仕組みを目指した。同年2月には浮いた手数料を原資に、返礼品に加えてアマゾンギフト券を贈るキャンペーンも開催。発案した阪上博則理事は「ポータルサイトに払う手数料をアマゾンギフト券に還元すれば、返礼品をたくさん出せて地元の事業者の利益にもなるし、なにより利用者の方に喜んでもらえると思った」と当時を振り返る。

記者会見で厳しい表情を見せる大阪府泉佐野市の千代松大耕市長=2019年10月11日

 だがポータルサイトに募集方法や返礼品の発送業務を一括委託している自治体も多く、泉佐野市の動きに追随する自治体は少なかった。泉佐野市は18年度に約500億円近い寄付を集め、ダントツの全国一となったが、金券を扱ったことなどで総務省と対立。19年6月からの新制度では除外され、処分の取り消しを巡って最高裁まで争う泥沼の展開に発展した。

 新制度では返礼品や寄付の募集方法に細かい規制が加わり、自治体の裁量は大幅に狭められた一方、ポータルサイトは野放しの状態となった。サイトが乱立する飽和状態の業界で、運営各社は他社との違いを出すべく、寄付者に訴えかける魅力的な特典に注力する姿勢を一段と強めている。

 ▽ガイドラインまとまらず

 総務省は新制度の開始に先立ち、ポータルサイトを運営する業者に対して、特典の自粛を盛り込んだ業界共通のガイドラインを作成するよう要請している。だが事業者間の調整は難航し、現在も実現していないままだ。ある大手ポータルサイトの関係者は「特典を禁止すれば、競争力を付けたい後発の事業者からの反発は必至。大手の中でも制度への考えはそれぞれ異なり、方針がまとまらない。ガイドラインができたとしても強制力のない自主規制の延長のような内容になるだろう」と明かす。サイト運営会社のほとんどは東京に集中する。都市部に集中する税収を地方に還元するはずのふるさと納税が「逆流」し、一部が金券やポイントに変わる異常な現象は今もなお続いている。

総務省

 こうした状況にもかかわらず、総務省は「民間業者への指導権限がなく、不適切な業者を選ばない自治体の良識に頼るしかない」と是正に後ろ向きだ。担当者は「ポータルサイトには返礼品ではなく、あくまで自治体の理念や使い道に基づいた寄付につながる情報発信をしてほしい。ただ、民間業者は理念では動かない。同じ方向を向くのは難しいのかもしれない」とあきらめ気味につぶやいた。

 自治体への締め付けを強化する一方、規制の及ばない場所では野放しの競争が続くふるさと納税。制度が抱える矛盾は今もなお、解消されないままだ。

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