日本は民主主義の守護者の役割を担え/『見えない手』日本語版前書き 6万部突破のベストセラー『目に見えぬ侵略』の第二弾『『見えない手 中国共産党は世界をどう作り変えるか』が発売! アメリカ、イギリス、EU各国での中国の影響力工作を実名で暴露、前作以上の衝撃があります。さらに日本についても特別加筆があり、必読の書です。その日本語版前書きを特別公開! 「言論の自由と報道の自由は中国共産党にとって最大の敵であり、我々はこれを最優先事項として守らなければならない」(本文より)

日本の大学は中国との関係において並外れて脳天気だ

大部分の日本人、特に政財界のエリートたちにとって、中国共産党の日本社会への浸透はあまり関心を引くものではないのかもしれない。おそらく日本の民主主義への脅威にほとんど関心を払われていないことは、それほど驚くべきことでないのかもしれない。

なぜなら中国共産党は、長年にわたって正にこうしたエリートを標的とした影響工作を仕掛けてきたからだ。こうした影響工作が白日の下にさらされ、公の場で議論の焦点になるまでは、ほとんど何も為されないだろう。

この責任は、自分たちも中国共産党による影響力活動の標的にされてきた、日本のメディアにある。では日本でも本書と同じような中国の影響工作活動の広まりを暴くような本が、適切な資質を備えた学者たちによって書かれることになるのであろうか?

私たちはそうなることを願っているが、同時に中国政府が日本の大学の中で影響力を広めていることも知っている。

つい最近のことだが、内閣官房長官の加藤勝信(かつのぶ)氏は、日本の大学が知的財産の窃取(せっしゅ)において重要な標的になっていると警告している。軍事関連技術は高い価値をもつ標的だが、日本では農家が開発した果物の交雑種すら中国の農業研究者に盗まれている。

こうした窃盗は、日中の大学間の数多くの協定や交流事業によっても促進されているのだ。

オーストラリアと同様に、日本の大学は中国との関係において並外れて脳天気だ。アメリカは中国による軍事関連技術の流出を厳しく取り締まっているため、日本やオーストラリアのような同盟国は、アメリカが軍事協力について厳格な統制を求めてくる可能性があると考えていたほうがよい。

孔子学院は、中国政府の統一戦線工作にとって重要な出先機関の一つである。同学院にはスパイ工作への関与の疑いもある。アメリカやカナダ、オーストラリア、欧州諸国は同学院を閉鎖しつつあるが、日本は依然として歓迎している。これは危険だ。

中国の国民――それがビジネスマン、学生、学者、芸術家かに関係なく――が海外に行くときは、中国共産党から要請されたら必ず協力することを求められており、今やそれが中国共産党の政策となっているのだ。こうした義務は、中国の法律にも記されている。

習近平総書記は、これまで何度も国民による統一戦線工作への関与を期待していると強調してきた。この工作とは、中国政府が望むような物の見方をとって、中国政府の利益となる行動をしてくれる、「友人」たちと手を結ぶことだ。

華僑という存在は、中国共産党にとって、どこに住んでいてどの国籍であろうとも、何にも勝る忠誠心を祖国に捧げるべき、中国の息子や娘たちであることになる。もちろん中には強烈な圧力を受ける者もいるし、党から距離を取りたいと考える者もいる。

ドナルド・トランプによる政治に反感を持ち、同氏の振る舞いに拒絶感をもつ多くの西側諸国の人々も、彼が中国の増大しつつある影響力――これは秘密裏の、強圧的かつ腐敗した手段によるものだ――に反抗した最初のアメリカ大統領である、という事実は歓迎している。

バイデン政権に「対抗せよ」とサインを送れ

ところがここで最も重要な問題は、バイデン大統領がアメリカの反抗を続けるか否か、続けるとして、どのような形で反抗するのかという点だ。

もちろん民主党からは抵抗の続行へ強い支持があり、アメリカ国民も幅広く支持している。最大の違いは、同盟国をないがしろにした前任者と違って、バイデン大統領が同盟国を団結させるだろうという事だ。

しかし次期政権に対して中国との関係の「リセット」を求める圧力は、かなり大きなものになるだろう。よって日本や欧州諸国といったアメリカの同盟国たちは「バイデン政権と協力して中国の増大しつつある影響力に対抗することを望んでいる」という強力なサインを送るべきだ。

民主主義国家たちが、中国政府の取り込みや、脅迫、恫喝に団結して抵抗することになれば、習総書記は酷い頭痛の種を抱えることになる。同総書記はあまりに長期にわたって分断統治(ディバイドアンドルール)を実行できる立場にいた。そして従順な国には好都合な取り引きを提供し、それ以外の国を選んで懲罰を科してきたのだ。

2017年以来、オーストラリアは主権と民主主義を、中国共産党の干渉から守る対策をとってきた。中国政府がオーストラリアに対して科しているここ最近の懲罰の数々は、他国に強力なメッセージを送ることを目的としたものだ。

もし我々が世界を再形成しようとする中国共産党の目標の達成を阻止しようと考えるのであれば、自国は犠牲にならずに済んだと安堵の吐息をつくのではなく、オーストラリアと組んで脅迫に対抗するための同盟を形成すべきであろう。

共産党政権の中国との闘いは理念を巡る闘い

新型コロナウイルスの世界的な大流行は、戦略面で大きな不確実性を発生させた。たしかに中国政府は大流行の最初の数週間では深刻な後退を強いられたが、その後に何カ国かに対しては以前よりも大きな影響力を獲得することになった。

それは「マスク外交」を通じたものや、新型コロナに対する独裁的ではあるが明らかに効果的な対処と、それに比べてアメリカ政府が悲惨な対応しかできていないことを強調するものであった。ただし中国政府の新型コロナの隠蔽や、耳障りで多くの場合に刺激的な「戦狼外交」は、世界の中国への視線を一気に否定的なものにした。

次のフェーズは「ワクチン外交」に移るだろう。

西側諸国の研究所が最高のワクチンを開発し、そして人々に迅速に接種できるようにすれば、バイデン政権は欧州の同盟国と共に、民主主義に疑問を持っていた人々を再び魅了するという、この上ないチャンスを得ることになる。中国は政府による強烈な介入でパンデミックを抑え込むことができたのかもしれない。

しかし民主主義の西側諸国による技術上の優位性が、中国が世界に解き放った災厄を解決できるかもしれないのだ。こうしたチャンスを活かせるかどうか、西側の政府がどれだけ寛容に、又は利己的に、数に限りのあるワクチンを世界に供給できるのかにかかっている。

この状況は、私たちが本書で主張したことを強調している。それはつまり、共産党政権の中国との闘いは、何よりも理念を巡る闘いであるということだ。

世界は今、イデオロギー闘争に巻き込まれている。一方は強大な経済力を持つ一党独裁国家であり、もう一方は自らの自由を当然のものと見なしてきた民主主義国家の弱い同盟だ。

日本はアジア太平洋地区における最強の民主主義国だ。私たちは日本が同地区において最も活動的で強力な民主主義の守護者の役割を担うことを世界が求めていると考えている。

クライヴ・ハミルトン
マレイケ・オールバーグ
2020年12月

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