上場企業「雇用調整助成金」調査

 新型コロナウイルス感染拡大に伴う雇用調整助成金の特例措置は、4月の開始から8カ月を経過する。特例措置が開始された4月から11月までの期間で、雇用調整助成金の計上または申請をした上場企業は599社にのぼることがわかった。全上場企業3,826社の15.6%が雇用調整助成金の特例措置を活用した。
 上場599社の雇用調整助成金の計上額は合計2,414億5,420万円にのぼり、小売業、運送業などの労働集約型の業種を中心に、コロナ禍で雇用維持に苦慮する側面が浮き彫りになった。
 受給額の上位は、コロナ禍で利用者が激減した交通インフラ関連や、インバウンド消失に加え、4~5月の緊急事態宣言で休業を余儀なくされた百貨店が並び、新型コロナ感染拡大で減収が続く企業の苦境が浮き彫りとなった。
 2020(令和2)年度の雇用調整助成金の予算額は補正予算、予備費、雇用保険事業等からの充当額を含めると3兆5,882億円を計上している。業況によっては、今後上場企業で更なる申請増も見込まれており、計上額は年度末にかけて押し上げるものとみられる。

  • ※本調査は、雇用調整助成金の受給または申請を情報開示した上場企業を対象に集計した(対象期間2020年4月1日~11月30日)。
    金額、活用や申請の旨を開示資料に記載している企業を集計。

業種別 製造業がトップの237社、申請率は小売、サービスが高い傾向

 雇用調整助成金の計上・申請を記載した599社の業種別でみると、社数トップは製造業の237社(計上額526億7,390万円)。
 次いで、小売業の121社(同458億510万円)、サービス業の114社(同465億2,740万円)、運送業の41社(同741億5,500万円)と続く。
 一方、業種ごとの社数との比較では、小売業が33.9%でトップ。次いで、運送業が33.0%、サービス業が21.9%と続き、社数が最多だった製造業は15.9%だった。
 新型コロナが直撃したBtoCの業種で申請、受給している割合が高かった。
 今後もBtoC業種や受注急減や市場が縮小した業種では、年明け以降も受給の増加が見込まれ、特例措置が一部終了する2月以降の雇用環境に変化が生じる可能性を残している。

助成金

計上額別 1億円未満が約半数、業種によって今後増加が見込まれる可能性も

 計上額別では、最多は1億円未満で273社(構成比45.6%)だった。
 次いで、1億円以上5億円未満が173社(同28.9%)、10億円以上50億円未満が48社(同8.0%)で続く。
 中堅の製造業などは、製造要員を中心に期間限定の一時帰休などを実施したことから、この間の対応として雇調金を計上した企業も散見された。
 このほか、地方百貨店やチェーン展開の専門小売なども緊急事態宣言による休業を実施し、社数を押し上げた。

まとめ

 政府は当初、12月末期限だった雇用調整助成金の特例措置を、2月末までの延長を決めた。中小企業では最大100%、1日1人当たり上限1万5,000円、大企業でも従業員の雇用を維持した場合は休業手当の4分の3を助成することから、上場企業の利用も相次いだ。
 新型コロナの新規感染者数は第三波の襲来で、12月に入り曜日の最多感染数を更新する日が続いている。東京や大阪などでは、飲食業への時短再要請も行われ、年末年始の実体経済への影響はさらに深刻さを増すことが危惧されている。
 さらに、飲食だけでなく、各種イベントも開催自粛や人数制限、時節行事の相次ぐ中止など、従来の年末年始から様相が一変し、BtoCだけでなく幅広い業種に影響が波及している。
 11月の有効求人倍率は、全国で1.06倍と辛うじて1倍を上回るが、埼玉、東京、神奈川、大阪、沖縄など1倍を切る地域も続出し、労働市場は一段の悪化が懸念されている。

 東京商工リサーチの調査では、2020年に早期・希望退職を募集した上場企業は12月22日現在、91社に達する。募集対象者も、判明分で約1万7,700人を数え、リーマン・ショック直後の2009年(191社、2万2,950人)に次ぐ、高い水準に押し上げている。また、2021年に募集を実施する企業も16社が判明。募集人数も約3,300人と、社数・件数は急増している。
 雇用維持は中小企業だけにとどまらず、上場企業も大きな問題となっている。外食を含む小売と、交通インフラを含む運送業は、すでに上場企業の3割以上が雇調金を活用している。
 新型コロナの新規感染者数が全国で増え続け、ワクチン投与も来春以降とみられる中で、
2021年の景気の先行きは不透明感が漂っている。低調な消費マインドと雇用維持との板挟みは続き、業績改善が見込めない企業では再びレイオフに踏み出すことも懸念される。
 労働市場が縮小し、流動性も見込めないなか、特例措置の終了後も雇用維持を促す新たな施策が求められる。

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