第3波に飲み込まれないために

知っておくべき感染対策

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西澤真理子

リスク管理・コミュニケーションコンサルタント

西澤真理子

リスク管理・コミュニケーションコンサルタント

リスク管理・コミュニケーションコンサルタント。リテラジャパン代表。インペリアルカレッジ・ロンドンでPhD(リスク政策・コミュニケーション)。厚生労働省などで委員を務める。福島での原発事故時には福島飯舘村アドバイザー。IAEA(国際原子力機関)パブリックコミュニケーションコンサルタント

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名古屋市の繁華街、栄の居酒屋「名古屋嬢の台所」の店内に張られた、新型コロナウイルス対策の張り紙=11月29日

 クリスマスから年末年始の会食、帰省…。人の接触がどうしても増える中、新型コロナウイルスの第3波をどう乗り切ればいいのか。自治体や医師会からは個々の行動変容を求めるメッセージが出ている。「勝負の3週間」「今が瀬戸際」。強い言葉は確かにインパクトがある。だが、今必要なのは、相手の目線で、人の行動を本当に変える言葉ではないだろうか。例えば「会食を自粛してください」という言い方。忘年会や新年会、とりわけ、年末年始の挨拶、家族や親戚知人でおせちを囲むことは社会の文化に根差している。人との温かい交流という、生活上大切な習慣を止めることは容易ではない。今、必要なのは「会食の自粛」ではなく、「会食の仕方の工夫」ではないか。

 感染症の予防と経済活動をゼロサムやトレードオフで見ることは建設的ではない。人が生活し、経済活動がある以上、リスクをゼロにはできない。有効な対策を重ねることでリスクを小さくすることがリスク管理の要諦だ。そしてこのリスク管理を、相手にしっかり理解できるように伝え、個々が納得した上で判断し、行動を選択するように促すことがリスクコミュニケーションである。現状、機能不全を起こしている。年末年始に向け、前回に続き、飲食店での具体的対策をお伝えしたい。(リスク管理・コミュニケーションコンサルタント=西澤真理子)

名古屋市の会員制ラウンジで、開店前に店内を消毒する経営者=11月27日

 ▽知っておくべき10の対策

【マスクは不織布を】

 調理や接客で使って良いのは、飛まつを飛ばさない不織布マスクだ。ポリウレタンマスクは飛まつを通してしまうため使うべきではない。大手チェーン飲食店などでも、ポリウレタンマスクを使用しているケースを見受ける。確かに不織布は通気性が悪いために息苦しい。調理人が会話をしない場合には、それ以外の素材のマスクでも問題ないが、とりわけ、加熱しない刺身や生ものの調理時には気をつけたい。接客時に見栄えが悪いとマウスシールドをつけて接客しているケースもある。運ばれてきた(個包装ではない)ナッツをいただくことはためらう。マウスシールドとあごの隙間から飛まつが落ちるだろうからだ。いくらナッツを蓋つきのタッパーで保管し、客に提供する際に手指消毒しても、これではさほど効果がない。

【床に荷物を置かない】

 床は基本的に汚染されていると考える。店内に入る際に靴除菌マットで靴の消毒が喚起されている店もあるが、効果は限定的だ。店内では客が荷物を床に置かないよう注意喚起する方がよい。スーパーの買い物かごも同様だ。つい重くなると床に置きたくなるが、かごの底にウイルスが付着する可能性が高い。それをレジ台に乗せてしまうとウイルスが広がってしまう。かごの取っ手を消毒しても追い付かない。かごをレジ台にではなく補助台に載せるというように分けることも効果がある。

【現金に触れたら消毒】

 現金は不特定多数の人の手を渡る。基本的に不潔であり、レジで触ったら、店側も客側もアルコール消毒を心がける。レジで手袋をしても都度消毒しないのであれば逆に、相手にウイルスを移してしまう。であれば、余計な手袋なしでのアルコール消毒や手洗いを習慣にしたい。

【入出店時の消毒】

 感染症予防の基本は、店内や室内にウイルスを持ち込まない、持ち帰らせないことだ。入店時や帰宅時にはアルコール消毒液やせっけんで手を洗う。また、お店から出る際も、店内で拾ったウイルスを拡散しないようにアルコール消毒を促すことも大切だ。多くの人が触ったアルコールスプレーに触りたくないがゆえに、消毒してくれないのであれば、3000円台で購入できる、手をかざすだけで自動消毒できる装置を購入することもひとつの方法だろう。

【除菌に惑わされない】

 「除菌」スプレーという表示を読者はどうとらえるだろうか。除菌ではウイルスは殺せない。ウイルスと菌は異なるものだからだ。ウイルスは菌よりもはるかに小さい。ウイルス性の風邪に抗生物質は効かない。ウイルスに確実に効果があるのはアルコールが70%以上含まれたアルコール消毒液である。「除菌」製品の成分表示に注意したい。

【食事中の飛まつ回避】

 食事の際には飛まつを会食相手の顔、食事、食器にかけないことが最も大切だ。だから相手と距離を取る、体の角度をつけるなど工夫する。飛まつは2メートル飛ぶことを考慮し、会食相手との距離を取る。互いの距離が十分に取れないのであれば、顔や体の向きを工夫する。筆者はキャスター時代の「滝川クリステルさんの斜めの感じ」とよく表現する。店側の対策としては、皿はその都度出し、箸先を紙でくるんだり、紙ナプキンは食事提供時に出すようにする。これは客の飛沫やエアロゾルが付着しないようにするためだ。客側も、出された食事は素早く小皿に取り分け、テーブルの縁に近い場所に置き食べる。テーブルはウイルスが付着しているかもしれないと考え、箸はテーブルの上にそのまま置かない。

【素手に注意】

 会食時にはパンやポテトフライ、ピザなど素手で食べるものもあるだろう。だから、店側はアルコール入りのウェットティッシュを用意し、客にこまめに使ってもらうよう促す。ない場合にはアルコールのミニボトルをテーブルに置く。通常のおしぼりでもある程度はウイルス量が減る。とりわけ注意が必要なのはお手洗いのとき。いくら洗面所で手洗いやアルコール消毒しても、席に戻るまでにドアノブを触ったら手は汚れていると考え、席に戻った際に消毒を喚起する。

【キス感染に注意】

 飲食とは直接関連しないかもしれないが、この時期、恋人同士がキスする場面も多いだろう。キスは唾液の交換になるのでリスクが高く、若い人中心にウイルス陽性が増える。よく考えたら当たり前だ。「キス」感染はメディアでも報道されないので周知されておらず、リスクの過小視が起きている。温かい交流が「リスク高」となると何とも悲しい気持ちになるが、事実としてとらえ、パートナー以外とキスをしないなど、自覚したい。詳しくは、無料でダウンロードできるハンドブックにまとめられている。ぜひ参照されたい(夜の街応援!プロジェクト』ホームページhttps://yorunomachiouen.wordpress.com/)。

ソーシャルディスタンスの確保を呼び掛ける薬局のレジ前の足跡マーク=東京都港区

【ソーシャルディスタンスの意味】

 客同士の間隔が取れない、通路に並ぶ人が多いので制限する。これは果たして正しいのだろうか。年始年末の神社や寺で前を向いて並んでいるのであれば、飛まつをお互いの顔にかけあうことにはならない。おそらくマスクをしているだろうから、「3密」回避で行われるソーシャルディスタンスの効果はないだろう。会話がなく、互いの顔が向きあわない通勤電車内でクラスターが出ないことを考えればよい。ソーシャルディスタンスとは、マスクなしで、普通の音量で会話する場合に必要な距離(1~1・5メートル程度)のことだからだ。

【マスクから鼻から出ていること】

 「マスクを鼻まで覆う理由は?」と問いかけると「鼻からウイルスが出るから」「鼻水が出るから」などの答えが返ってくる。前者には飛まつとエアロゾルの混同がある。マスクをつけると息苦しくなり過呼吸になるため、実は鼻からも余計にエアロゾルが出る。だから眼鏡が曇る。が、小さなエアロゾルは大きな飛まつの10億分の1の体積で、だからウイルス量は飛まつと比べてはるかに少ない。注意すべきは圧倒的に口からの飛まつだろう。マスクを外すと息が楽になるし、鼻を出してマスクをすれば過呼吸が和らぎ、鼻からのエアロゾルの排出が逆に少なくなることはあまり知られていない。

 ▽感染症の予防は意外に単純

 感染症の予防は、科学を正確に知り感染経路を理解すると、意外に単純である。ただ、正確な対策を「知ろうとする」ことが最も大切であり、最も難しいこととも言える。「正しく怖がること」が難しい理由がここにある。対策を過剰にやりすぎても、逆にやらなすぎでも不適当だからだ。

できるだけ多くの人が、さまざまな誤解に惑わされることなく、自ら考え判断していく。それが、経済活動を続けながらも感染を極力抑え、年末年始の温かい時間を多くの人が過ごすことにつながっていくと考えている。