日本カー・オブ・ザ・イヤー受賞 SUBARUレヴォーグを改めて吟味する

今年度(2020-2021)の日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞したSUBARUレヴォーグ。筆者も審査員としてこのクルマに最高得点を投じましたが、その決め手となったのがリアルワールド、つまり一般(高速)道での長距離試乗でクルマの性能やコンセプトが明確になったことです。東京から長野&群馬県を経由して栃木県まで高速道路を中心に走行したことで話題の「アイサイトX」の実力もお届けできればと思います。


レヴォーグに一般道で試乗

これまで新型レヴォーグは発売前にテストコースやショートサーキットなどでの試乗する機会に恵まれました。後述する「アイサイトX」の性能はもちろん「全てが新しい」レヴォーグの狙いを体感するには理想的な環境だったとも感じています。

しかし、クルマはやはり普通の道を「走ってナンボ」です。テストコースではしっかり作動した「アイサイトX」が本当にリアルワールドでどのように動作することが重要なのです。

そんな中、東京を出発して長野県経由で栃木県宇都宮市までの試乗機会が与えられました。

総距離は387km+α

試乗当日は早朝に恵比寿にあるSUBARU本社に集合して指定された目的地に向かいました。後述しますが、新型レヴォーグにはカーナビやAV(オーディオ&ビジュアル)機能や車両側の機能を一括して操作できる「11.6インチセンターインフォメーションディスプレイ」のナビ機能に経由地も含めた目的地設定が済んでいたので、実際の走行もそれに沿って行うことになります。

筆者の“ヒトリゴト”なのですが、実はこの試乗直前まで仕事をしていた関係で結構なレベルで身体が疲れていました。もちろん試乗のための体力はきちんと確保していますが、基本はペアで試乗とのことなので移動中には少し身体を休める時間があるかな、と思っていたのです。

しかし、いざレヴォーグに試乗しようとした際、ペアの人が来ません。SUBARUの担当者に「私のペアは誰でしょうか?」と聞いた所、「高山さんはお一人ですよ」とのこと。1人ゆえにあれこれ操作ができるのは嬉しいのですが「体力持つかな…」と一瞬不安がよぎります。

好きな時間に移動するのであれば途中休憩を挟めばいいだけですが、経由地では乗り換えなどもあるので遅れることは他のジャーナリストの方はもちろんSUBARU側にも迷惑をかけることになります。そんな不安を抱えたまま恵比寿から出発してすぐ近いの天現寺ランプより首都高速に入りました。

これまでの知見を生かした最新のACC

話題のアイサイトXですが、首都高のような複雑な構造を持つ道路では場所によってはうまく作動しないケースも発生します。それはSUBARU側も折り込み済みで事前に「○○のランプでは…」とあくまでもシステムを過信しないように解説をしてくれました。ただ、実際の走行ではSUBARU側が言うほどのドキッとするような動き、特にカーブ前での速度制御などはスムーズに行われました。

アイサイトXに搭載される「渋滞時ハンズオフアシスト」もまるで自分の意志を反映したような、さらに言えば自分より賢いのかもしれません。前走車の捕捉やアクセル&ブレーキ制御もどこまでにスムーズです。

このシステムが作動している間は文字通りステアリングから手を離すことができますが、筆者はそれ自体が重要とは思っていません。一番素晴らしいと感じたのは一度完全停止(車速0km/h)した後、再発進する際、これまでのACCはスイッチを押すか、アクセルを軽く踏み込む必要があったのですが、アイサイトXは前車の動きを識別して自動で発進してくれます。こういう部分がドライバーのストレスを軽減してくれるわけで、その点ではこの機能だけでも欲しくなるほどの出来でした。

疲労はどこに行った!?快感とも言えるクルージング

首都高から関越道に入ると、レヴォーグの良さがどんどん身体に染みこんできます。

ここ数年言われているように自動運転の世界ではレヴォーグと言えどもドライバーが主体となる「レベル2」というカテゴリーに入ります。主体ということはあくまでもドライバー側に責任があることですが、この主体を車両側に持たせる「レベル3」との差は機能以上に大きな差を持ちます。

だからレヴォーグの性能は低いのか、というのは大間違いです。逆にこれまでSUBARUがアイサイトで得た知見や新技術を惜しみなく搭載することでACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)の領域ではトップレベルの性能に仕上げたことは知っておいてほしいのです。

当日の関越道はおあつらえ向き、というか渋滞こそ無いものの、走行車両は多く、ACCのテストには最適と言えるものでした。

関越道の上限速度にセットすると前走車との距離もしっかりキャッチ(車間距離の調整は可能です)して走るわけですが、何よりも加減速の際のクルマの動きがスムーズなのです。

またACCにも当然性能差というものがあります。前走車や割り込んできた車両に対し、どのように減速するのか、また再加速の際のフィーリングなども車両によって大きく異なります。

その点、SUBARU車に搭載される「アイサイト」はこの辺の味付けが抜群に上手いわけです。さらにアイサイトXでは数段レベルが上がったということなのです。

ゆえに、という訳ではありませんが、SUBARUが「ぶつからないクルマ」でアピールしてきたアイサイトは筆者にとって本当に「疲れないクルマ」だったのです。長野県までの道のりはそれなりにありましたが、疲れることなく、それでいてクルマ任せではなく、自分がドライビングしている、という実感を持ちながら軽井沢ICで高速を降りました。

驚いた一般道でのドライバビリティ

「ドライバビリティ」、この言葉はクルマの運転のし易さや操作性を表す際に使われますが、一般道に入ってゴールとなる「鬼押出し(この場所は群馬県です)」までの山道などでのレヴォーグのドライバビリティは驚くレベルでした。新開発の1.8LターボエンジンやCVTは日常域で非常に使いやすいのが特徴です。CVTは構造上、コンベンショナルな多段式オートマチックに比べ走りのダイレクト感が損なわれるケースがあるのですが、街中から山道までその「クセ」を感じることはほとんど無く、実速度とエンジン回転の相性(感覚上のズレ)も悪くありません。

山道をGT-H EXで走ります。バランスの取れた足回りは日常使いではベストにも感じました

そして驚きはボディやサスペンションです。現在のSUBARU車の多くにはSGPと呼ばれる新世代のプラットフォームが採用されています。これ自体の性能の高さは認めるのですが、レヴォーグには新たに「インナーフレーム構造」というコストも手間もかかる新しい手法を取り入れています。

これに関して説明するとページがいくらあっても足りない位なので割愛しますが、従来までのSGPから大きく進化しており、コーナー時のボディの揺り戻しの少なさはもちろん、段差を通過した際の振動の収まり方など、ひと言で言えば「強靱」という表現がピッタリと感じました。

意外だった燃費性能

2日目は長野県から栃木県宇都宮市までのルートを走行しました。ほとんどが高速道路だったのですが、意外と言っては失礼ですが燃費性能に関しては好印象でした。

2日目の高速ルート。STIスポーツの「コンフォート」モードの乗り心地は絶品です

もちろん、渋滞も少なめでACCをオンにした「一人旅」状態。現在の燃費を表す「WLTCモード」の中にある「高速燃費モード」のカタログ公称数値は15.3km/Lですが、実際の走行では18.2km/Lという結果でした。正直に言えばハイブリッド主流の中、この数値は満足できるか、と問われると「もう少し伸ばして!」と言いたい部分はあります。ただ、レヴォーグはどんなシーンでも走りが楽しい、と思える部分が多く、これらを求める人と燃費との相関関係は必ずしも一致するわけではありません。

筆者は仕事でクルマを使う関係上、平均燃費で26km/L以上走るPHEVに乗っていますが、ここまで求めなくてもレヴォーグの高速走行燃費がここまで伸びるのであれば十分だと思います。同時にレギュラーガソリン仕様という点も家計的にもありがたいはずです。

クルマの知能化に大きな期待

アイサイトXには約70km/h以上で走行中に車線変更をサポートしてくれる「アクティブレーンチェンジアシスト」や3D高精度地図データや準天頂衛星システムなどを活用した「カーブ前速度制御」や「料金所前速度制御」などの機能も備わっています。

細かな機能を解説するより、実際に走行して感じたのが「ひとつのドライブにおいて、スタートからゴールまでシームレスにドライバーをサポートしてくれる」という点です。

高速道路の分岐や合流、そして料金所前での十分な減速。前述したようにACC制御の上手さも手伝ってドライバーが不快になるような“急”な動きが本当に少ないのです。

またレーンチェンジに関しても後方からの接近車両をしっかり認識することでヒューマンエラーを防止するなど何重にもセーフティがかけられています。

ゆえにレーンチェンジ時の車両の動きなどは「自分より上手いのでは?」と思えるほどでした。

全てにおいてアイサイトX一択で!

事前の期待も高まっていたこともあり、アイサイトXを搭載する「EX系」グレードは販売の90%以上を超えているそうです。

車両価格としてはこちらも機能が向上した「新アイサイト」搭載車より38万5000円高くなりますが、この中には前述したインフォテインメントシステムや緊急時に警察や消防への対応をサポートしてくれる専用通信機を持つ「SUBARU STARLINK」、さらに多彩な表示機能を持ちドライビングをサポートする12.3インチのフル液晶メーター、眠気や不注意などドライバーの目の動きから検知し警告してくれる「ドライバーモニタリングシステム」など数多くの先進機能を搭載しています。

素のレヴォーグも魅力的ですが、言い換えるとこの差額でこれだけの内容、先進運転支援システムが手に入るわけですから、多くの人がアイサイトXを搭載する「EX系」を選ぶ理由も納得です。価値ある38万5000円と言って間違いないでしょう。

またグレード選びに関しても基本は装備の充実度や価格とのバランスで「GT-H EX(370万7000円)」がイチ押しなのですが、実は最上位で価格差が38万5000円高となる「STIスポーツEX」にはぜひともディーラーでの試乗をオススメします。

インテリアはSTIスポーツのもの。11.2インチの大型ディスプレイの存在感が際立ちます

理由としては専用のエクステリア&本革シートを含めたインテリアはもちろんですが、新搭載の電子制御ダンパーとドライブモードセレクトが想像以上に素晴らしいことが試乗を通じて再認識しました。

特に5種類あるセッティングのうちの「コンフォート」モードのしっとりとした乗り味、高速道路における路面に吸い付くような感覚にすっかり魅了されてしまったからです。

これらのデバイスはともすればギミック的に最初だけ使ってあとはノーマル状態で終わってしまうケースが多いのですが、これはそれぞれのモードでの性格付けがハッキリしています。色々試して自分の好みでセッティングを記憶できる「インディビジュアル」モードで走るのが理想的と感じました。

最後にこれだけの先進運転支援システムを搭載して諸経費込みで500万円以下でまとめてきたレヴォーグ。単純にコスパが高い、というだけではなく、次の時代のモビリティに対し提案があるか、という点を前面に押し出したこと。筆者が日本カー・オブ・ザ・イヤーで最高点を付けた理由はここにもあるのです。

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