首脳陣に「クレージー」連呼!リンデン造反事件にノムさん「空は青空。心は丹後の曇り空や」

リンデンから謝罪を受けた野村監督は「空は青空。心は…」とつぶやいた

【球界平成裏面史・楽天09年編(7)】連続ドラマと化した平成21年(2009年)の楽天を舞台にした「ノムさん劇場」には、メインストーリーの“解任劇”の他にさまざまなサイドストーリー、エピソードが存在する。

急造ポストと言ってもいい「名誉監督」就任の返答を保留したまま、ソフトバンクとのCS第1ステージへの準備に入ることになった野村克也監督だが、実はこんな出来事も起きていた。10月10日の日本ハム戦(札幌ドーム)の試合後、トッド・リンデン外野手が会見中のノムさんに向かって采配批判の暴言を浴びせていたのだ。

スタメンから外され、6点を追う場面で代打に出されたことに激怒。ベンチ裏で暴れた揚げ句、指揮官に「俺に“6ランホームラン”を打てっていうのか!」と皮肉たっぷりに言い放つと、首脳陣に「クレージー」を連呼した。ノムさんは当然「監督への冒とく」と判断し「人間失格」と痛烈な言葉で独断で“解雇”を発表。その後、登録を抹消したのだ。

そのリンデンは13日に監督室を訪れて謝罪したが、その服装はTシャツに短パン。さらにポケットに手を突っ込んだままだったことで、火に油を注いでしまった。

「目を見れば分かるよ。あれは謝ってない。目は口ほどに物を言う。『その目は何だ。俺をにらみつけて』っていう。全然反省の色なし」とバッサリ切り捨てたノムさんは「親のことも言ったらエライ怒ってな。日本にこういう言葉があるって言ったんだ。『子供を見れば親が分かる』って言ったんだ。そしたら余計に怒っちゃって。こんなの初めてだ。こんな問題児は」とあきれ顔。家族まで侮辱されたことでリンデンも態度を硬化させる結果となった。

大一番を3日後に控えてはいたが、そんな騒動も手伝ってチームのムードも微妙なものになっていた。ノムさんは全体練習中、さっそくテレビカメラに「こんな大事な時期に解雇通告を告げられるなんて前代未聞でね…。私の心の中は非常に情けなく最悪の状態です」とポツリ。

「空は青空。心は丹後の曇り空や」と力なく笑いながらベンチに腰かけると「今の子らは鈍感なのかもしれないけど、チームは最悪の雰囲気だよ。ムードとか勢いとか目に見えない力はすごいよ。ちょっとしたことで流れが一変しちゃう。怖いよホントに」と、これから短期決戦に臨むとは思えない、後ろ向き発言のオンパレードだ。

ナインも自然と「次期監督は誰?」「コーチには誰が来るか」という話題が先行してしまい、なかなか前を向けないノムさんに対してもハレモノに触るような状態。こんな状態に、いよいよチーム内から「ナインの気持ちをたかぶらせるためには、近づきがたい監督から歩み寄ってもらうしかない」の“泣き”まで入ったほどだ。

チーム関係者はこう語っていた。「監督のボヤキが染み付いているからか、今の選手はコーチの『よく頑張ってくれてるよ』のひと言だけで、周りに言いふらすほど喜ぶんだよ。もしこの大一番で監督から直接『本当によく頑張ってくれた。ありがとう』『有終の美を飾るにはお前が必要だ』なんて言われたら、ソッコー一丸になれる。これは間違いない」

球団初のCS進出の熱狂と、勝っても退任という監督問題の困惑――。混沌とした状況だったが「チームは生き物」とはよく言ったもので…。一寸先は闇の「ノムさん劇場」は、いよいよ最終章に突入する。

=次回は1月4日=

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