広島ドラ3大道が大学ラストゲームで示した成長 監督が「すげぇや」と感嘆した瞬間

広島ドラフト3位・大道温貴(右)と八戸学院大・正村公弘監督【写真:高橋昌江】

八戸学院大の正村監督と大道が歩んできた4年間の物語

今年のドラフト会議で広島から3位指名された八戸学院大・大道温貴投手は、正村公弘監督への感謝をこんな言葉で表現した。「僕という投手を作ってくれた」。春日部共栄高から進学し、投手育成に定評がある正村監督のもとで成長し、夢の扉を開いた。文字にすると、わずか二文字の「成長」だが、その過程はいかなるものだったのか。プロ入りを目指して進学した大学生と、これまで好投手を輩出してきた監督の4年間の物語――。第1回は学生野球ラストゲーム。

「すげぇや」

ベンチの正村監督はマウンドを降りてくる大道を見て、そう思ったという。

10月31日に行われた東北地区王座決定戦。東北福祉大との初戦は2-2で延長戦に突入した。タイブレークの延長10回、マウンドには5回から登板する大道がいた。2死二、三塁から2点の勝ち越しを許し、なおも2死三塁。フルカウントから選択したのはスプリットだった。133キロでスッと落ちた球に相手打者は空振り三振。傷口を広げず、エースはベンチに帰った。

学生野球にピリオドを打った大道は試合後、こう話した。

「最後(捕手の)サインはインコースの真っ直ぐ。でも、そこで首を振れたということが大学での成長。高校の時だったら真っ直ぐを投げて打たれていたと思います」

正村監督の囲み取材は大道の前に終わっていたため、駐車場に向かった。この場面について確認すると「よく投げたよ。リーグ戦では(勝負球で)放っていない。あんなところであんなの投げられないよ」と感嘆していた。

「ああいう変化球って、今の子、すぐに投げられちゃうんですよ。私は社会人野球(NTT東京・現NTT東日本)の最後にシンカーを覚えたけど、試合で使えるように投げようとしたら3年くらいかかる。そこまでしないと不安だから。でも、大道があの場面で投げて『半分、遊んでいるのかな』って思いましたよ(笑)」

3年秋のリーグ戦の最中から投げ始めたスプリット

スプリットは3年秋のリーグ戦の最中に投げ始めた。持ち球にはしていたが、「しょぼすぎた」と大道は笑う。主となる落ちる変化球はチェンジアップ。今年は「さらに進化するものが出てきた」と正村監督は言う。膨らみの大きかった軌道を修正したスライダーが“宝刀”となり、奪三振数が増えた。リーグ戦は150キロに迫る直球とこのスライダーで戦い抜いており、スプリットは多投していなかった。

八戸学院大はリーグ戦後、明治神宮大会の出場権をかけた東北地区代表決定戦に出場予定だった。ところが、本大会も予選も新型コロナウイルスの影響で中止となり、代わりの東北地区王座決定戦が開催された。4校によるトーナメント。初戦の東北福祉大は言わずと知れた強豪。指揮する元西武の大塚光二監督が「日本一を狙えた」と言うほど自信を持つチームで、腕に覚えのある打者が並ぶ。

大道の登板は1-2の5回からだった。この日は延長10回まで6イニングを投げたが、前半は直球とスライダーで配球を組み立て、後半はスプリットを混ぜた。そうやって選択肢を増やすことで技量ある打者を惑わせようとした。

これが功を奏した。9回までに打たれた安打は5回の二塁打のみ。5イニングで9個の三振を奪った。試合は2-2の同点で9回を終え、延長10回からは無死一、二塁からはじまるタイブレークが適用。大道は犠打と遊飛で2死二、三塁としたが、4番・小椋元太(3年・一関学院)に1ボールからカウントを取りにいった2球目、この秋、最大の武器になったスライダーを捉えられた。「そこを打つかという感じで、びっくりした」と大道。中越えの適時三塁打で勝ち越しを許した。

突然の閃き「インコースに構えた瞬間、絶対に打たれる」

ここから冒頭の場面に戻る。2死三塁で迎えたのが5番・楠本晃希(4年・花咲徳栄)だった。高校時代、大道は楠本に打たれて敗れている。大学ではこの日が初対戦。5回の初対決で145キロ直球を右翼線二塁打にされていたが、2度目の対戦では147キロ直球で見逃し三振を奪い、延長10回が3度目の対峙だった。140キロ中盤の直球を3球続けた後、スプリットを空振りさせてカウント2-2とすると、1ボールを挟んでフルカウントとした。

捕手の大向勇成(3年・八戸学院野辺地西)が出したサインは内角直球。ベンチの正村監督も「こいつ、絶対にストレート勝負だ」とみていた。大道もそのつもりだった。しかし――。

「“見聞色の覇気”で。あ、なんでもないです(笑)。いや、『ONE PIECE』で未来を読める能力があるんですよ。本当によぎりました。(捕手が)インコースに構えた瞬間、絶対に打たれるって」

瞬時に首を振り、選択したのがスプリットだった。4球目のスプリットを空振りさせており「合っていない。いける」と思ったからだ。案の定、楠本のバットは空を切った。この場面、正村監督はこう解説する。

大道が自身で感じた大学での成長「首を振れた」

「真っ直ぐで勝負するのかなと思ったら、スプリットを投げたから、すげぇやって思いましたよ。2打席目で三振をとった時、スプリットとスライダーを見せているから、バッターに迷いがあったと思うんです。1打席目は大道の真っ直ぐのイメージのタイミングで迷わず振れたからヒットになったけど、2打席目にああいう打ち取り方をしたことでバッターの中にスプリットもスライダーも入った。1打席目みたいに気持ちよく打ちに来られなかったかもしれない」

試合後の大道は「首を振れたのが大学での成長」と言い、こう続けた。

「試合の序盤は真っ直ぐとスライダーのみ。途中からスプリットも見せて、それがうまくいきました。むしろ、そのスプリットの精度に自分でもびっくりしてしまって。リーグ戦の時はあんなにインコースに食い込んで逃げる球じゃなかったので」

6回を投げ、2安打10奪三振2失点(自責0)。試合には敗れたが、直球でもスライダーでもなく、首を振ってスプリットを選び、使えたことが4年間の大学野球での「成長」だった。(高橋昌江 / Masae Takahashi)

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