どうしても実家には帰りたくない…失恋や失業からやっと立ち直ることができた32歳女性

コロナ禍で大儲けした人もいるのかもしれませんが、一般的には経済的に苦しくなっている人が増えている今、都内でひとり暮らしをしている女性の窮状を見聞きすることが多くなっています。


「ごめん。オレ、3ヶ月後に結婚するんだ」と恋人に言われて

「東京の大学に受かったとき、本当にほっとしました。これで私の人生が変わると思ったんです」

都内でひとり暮らしをしているアキさん(32歳)はそう言います。中国地方の小さな町で育った彼女は成績もよく、中学のころから東京の大学に行くと決めていました。

「とはいえ、うちはあまり裕福ではなかったので国公立ならいいと親に言われていて」

見事にその「国公立」のひとつに合格。上京して大学近くのアパートで暮らし始めました。アルバイトに学業にと精を出し、就職も希望の会社に決まり、彼女の人生は順風満帆に滑り出したのです。

ところが躓いたのは5年目、28歳のときでした。

「1年半くらい社内につきあっている人がいたんです。職場で変な噂がたつとお互いに嫌な思いをするから、『きちんと決まるまでは内緒にしておこう』と彼が言い出し、私たちの関係は秘密でした。ところがある日、彼が結婚するという話を同僚からい聞いて。まさかと思って彼に確認したら、『ごめん。3ヶ月後に結婚するんだ』って。はあ? って感じですよね。彼、婚約者がいたんです。まったく気づかなかったし、誰も知らなかったみたいです。彼に言わせると『周りが決めた結婚だから』と。相手の親はうちの会社ともつながりのある他社の重役だったらしいですが、今どき周りが無理強いするはずもない。彼自身が決めた話ですよ」

彼はアキさんに「オレたちの関係は変わらないよね」と笑いかけたといいます。そのとき、アキさんは決意を固めました。

自責の念に苛まれながら

結婚式など挙げさせない。つぶしてやる。それが彼女の決意でした。それでも彼女は彼が好きで、結婚をやめて自分と一緒になってくれれば、すべて水に流すつもりでもいたのです。

ある日、彼に「私との関係をどう思っていたのか」と尋ねると、彼は「好きだよ」と当然のように言いました。

「だけどアキと一緒になってもメリットがない。彼女と結婚すればオレはたぶん出世できる。いずれ金も権力も手に入る。そうしたらアキにもいい思いをさせてあげるよ」

彼女はその彼の言葉を録音していました。そして婚約者の親に送りつけたのです。

「ことが発覚する前、私は会社を辞めて引っ越しました。あとから元同僚たちに聞いたら、彼の結婚はなくなり、あげく彼は会社を辞めたそうです。ざまあみろと思いましたが、そんなことをした自分にも耐えられなくなって、そこからうつ状態になってしまいました」

失業保険を受給しながら病院に通いました。裏切った彼を陥れたことで、彼女は後悔に苛まれる日々を送ることになったのです。

「1年ほどたってやっと派遣社員として働くことができるようになったのですが、それからも心から笑えるような心境にはなれなくて。風の便りで、彼は実家に戻ったという話も聞きました。地方の農家だと聞いていたけど、彼も農業を継いだのかもしれません」

昼は派遣で働き、夜は週に数回、スナックでアルバイトをしながら彼女は正社員への道を模索していました。そこへこのコロナ禍です。一時期、彼女は派遣の仕事もスナックのバイトも失いました。

「親からは帰ってくるなと言われました。近所で何を言われるかわからないからって。私も帰るつもりはありませんでした。どうしても東京できちんと生活していきたかった。東京に負けたくなかったんです」

憧れていた東京につぶされたくない。そんな思いがあったそうです。そんなとき、例の彼から連絡がありました。彼女は彼の連絡先を削除できずにいたのです。

「実家の農業がうまくいっていること、結婚して子どもが生まれたことなどが書かれていました。子どもの写真まで添付されていた。私への当てつけでしょうね。ひどく落ち込んでいるところにまたそんな報告を受けて、さらに気持ちが沈みました」

彼から追い打ちのひと言がありました。

「お金に困っていたら貸してあげますよって。悔しかった。そもそも彼が裏切ったからこうなったわけで、私だけ二度もひどい目にあわされる意味がわからない……」

久しぶりに友人に会って

それでも彼女は9月に入ってようやく派遣で仕事を見つけました。一時期とだえていた大学時代の友だちと久しぶりに会うこともできました。

「学生時代からずっと虚勢を張って生きてきたんですが、友人たちに初めて、彼のことや私が故郷へ帰りたくないコンプレックスなどもさらけ出してしまいました。誰かに話さずにはいられなかったんです」

ふたりともアキさんの気持ちをゆったりと受け止めてくれました。学生時代からちょっと気むずかしい子だと思っていたけど、そんなコンプレックスがあったのねとひとりはうなずき、もうひとりは「彼が悪い。アキは悪くない」と断言してくれました。

「経済的には苦しいけど、友人ふたりと初めて心を開いて話すことができたのは、私の人生の最大の収穫だったような気がします」

どんなときにも希望はあります。希望の光を見いだすのは人としての知恵なのかもしれません。

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