苛立っても、涙を流しても… 広島ドラ3大道が入学前から監督室に通い詰めた理由

広島ドラフト3位・大道温貴(左)と八戸学院大・正村公弘監督【写真:高橋昌江】

大学入学前から監督室で正村監督にマンツーマン指導を受ける

今年のドラフト会議で広島から3位指名された八戸学院大・大道温貴投手は、正村公弘監督への感謝をこんな言葉で表現した。「僕という投手を作ってくれた」。春日部共栄高から進学し、投手育成に定評がある正村監督のもとで成長。夢の扉を開いた。文字にすると、わずか2文字の「成長」。その過程はいかなるものだったのか。4年後のプロ入りを目指して進学した大学生と、これまで好投手を輩出してきた監督の4年間の物語――。第2回は入学前の“1年生”がとったまさかの行動。

コン、コン、コン――。八戸学院大硬式野球部寮「飛天寮」の監督室の扉が鳴る。

「シャドー、見てください」

かつて寮の玄関には大きな鏡があった。その前で投球動作を繰り返す大道。それを見ながら助言を送る正村監督。そんな光景が日常になっていた。2017年2月のこと。大道は、正式にはまだ高校3年生である。

「1番に入寮してきて、ほぼ毎日。ずっとだよ(3月の)キャンプに行くまで。そういうことをする選手はいないから、珍しいよね。でもまぁ、上手になりたいという気持ちがあるのかなと思いましたよ」

2003年からコーチ、2010年12月から監督を務める指揮官にとっても初めてのことだった。

「新しい発見が多かったんです」と大道はいう。

「僕、高校の時は投球フォームがきれいだと言われていたんです。大学では体を鍛えていくんだろうなと思っていたけど、フォームの修正点が多くて『え!?』という感じは大きかったですね」

指摘されたのは体の軸。「体が傾くのはいいんだけど、傾きすぎると体の中心から手が離れていってしまう」と正村監督は振り返る。

1年春のリーグ戦ではいきなり開幕1戦目で先発に抜擢

「頭を振るフォームが気になって、それは改善しないとコントロールもよくならないのでいじりました。でも、大道がずっと投げているフォームだから、なかなか直らない。その時点で自分の力が入る投げ方をしてきているから、修正すると、力が抜けるんですよ。『抜けているから、いいんだよ』と言っても、物足りないんですよ。みんな、そう。それに、球速が140キロ超えて多少の自信もあるから、『なんで俺、いじられないといけないの』というのもあるじゃないですか。最初は半信半疑。だから、そこを壊して、壊して、立て直す。選手が私を信じてくれるか。信じさせないといけないんですけどね、指導者として」

分かっていても体の動きは、そう簡単に変わるものではない。まして、最初は言われていることを理解しようとすることで精一杯。大道は頭の中がぐちゃぐちゃしてくる。できない自分へのイライラが募る。涙も、こぼれる。1月に18歳になったばかりの少年の限界を超えることは珍しくなかった。当時を思い返し、「ふてくさってんなぁっていうのが何回かあったよ」と正村監督は笑っている。

練習後にシャドーピッチングをして、翌日の練習でブルペンに入る。「投げている感じは悪くなかったんですけど、動画を見ると、違うんです」と思い返す大道。シャドーピッチングで出来た動きが、実際にボールを投げてみるとできない。その繰り返しだった。

だから、毎日、監督室をノックした。指摘する点は同じでも、どうやったら大道に伝わるか、正村監督も言葉を変えながら繰り返した。3月のオープン戦中の宿舎でもそれは続いた。

4月、リーグ戦が開幕。正村監督は開幕1戦目の先発に抜擢した。大道を夏の合同練習会で見た時からある程度、決めていたというが、入寮後の姿勢も評価した。相手はリーグ6連覇中(当時)の富士大だったが、大道は平然と投げた。

「まだリーグ戦のシステムも富士大がどういうチームなのかも分かっていなくて。それに、変な自信もあったんです」

後を受けた高橋優貴(現巨人)で逆転負けしたが、大道は5回1失点と好投。1年春は7試合で29回1/3を投げ、防御率1.84の成績を残した。

現在DeNA・蝦名のバットを1打席で3度も粉砕した

6試合で4勝を挙げた秋には志願の連投をしている。青森大との1戦目に先発したが、2回1/3で降板。毎回、先頭打者にヒットを許す苦しい投球だった。

正村監督に「リベンジしたいみたいですよ」という情報が届き、宿舎で呼ばれた。「どうするんだ?」との問いに「明日も行きます」と答えた。「自分の力を出しきれずに打たれた」と後悔が残っていたからだ。

その翌日、前日は外角を打たれたからと一転して内角を攻め、相手打者のバットを7本も折った。そのうちの1人は、現在DeNAの蛯名達夫外野手で、1打席で3本も粉砕した。

「まだ三振に興味がなくて、バットを折れたのがめちゃくちゃ嬉しくて」といたずらっ子のように笑う大道。結局、2失点(自責1)完投でリベンジ。「これまでも本人が『行きたい』と言って投げさせたことはありますが、いい結果が出ていないことが多かったと思いますよ。でも、この時は抑えてくれた」と正村監督。1年時は投球フォームを作りながら試合経験を積んでいった。

スライダーの膨らみが大きかったため、正村監督からはカットボールを教わった。「切るようにして、人差し指で投げろ。中指を使うとボールとの接地時間が長くなって曲がりがでかくなる」という教えが「ハマった」。それでも「試合でちゃんと投げられたのは、4年の秋くらい」。何事も“ローマは一日にして成らず”である。

大道の変化球はどれも速かった。「抜けないんですよ。引っかかって、速い球になってしまう。でも、とにかく腕がよく振れていた」と正村監督は評する。一長一短。2年春にはチェンジアップを使うように指令が出たが、これも速かった。一筋縄ではいかないが、試合は待ってくれない。2年春のリーグ戦は5試合で4勝、秋は8試合で4勝と実績は重ね、3年の春に運命を左右する試合を迎えることになる。(高橋昌江 / Masae Takahashi)

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