年末年始など外出の機会が多くなると、どうしても気になるのがトイレ(今年はコロナ禍で外に出る機会も減りましたが)。じつはパリはトイレ探しが一苦労。日本では比較的簡単に公共トイレを見つけられますが、フランスでは日本のように誰でもすぐに使える無料のトイレがとても少ないです。
気候の良い時期のパリっ子の楽しみに、セーヌ川に飲食物を持ち寄ってのピクニックがあります。その際もトイレ問題は切実です。街中の公共トイレを探したり、カフェで飲み物代を払ってトイレを借りたりする煩わしさも相まって、多くの人が物陰で用を足してしまいます。街中での立ちションには68ユーロ(約8,600円)の罰金が科されますが、立ちション行為はなかなか減りません。
一人また一人と用を足していくと、匂いなどが積もっていき、夜ふけ(ときには日中も)の街中で道路の角からアンモニア臭が漂ってくることは日常茶飯事です。そんなトイレ事情を解決しようと、フランスでは日々工夫がされています。
話題を呼んだ「ユリトロトワール」
近年の話題となったのが、2017年に仏スタートアップ「ファルタジ」により開発された簡易設置型の男性向け小便器「ユリトロトワール」です。2018年にはパリ市内にも導入されました。
「ユリトロトワール」という名前は造語で、フランス語で小便器を意味する「ユリノワール」と歩道という意味の「トロトワール」を組み合わせて作られています。なかなかユニークなトイレです。
ボックス正面にU字型の受け口のように出っ張っている部分が便器です。そこへ向けて立ちながら用を足します。小便はボックス内の乾燥素材に吸収され処理されるためウォーターレス。設置に配管工事を必要としません。乾燥素材は堆肥にされ、上部にある花壇の土として戻して再利用します。
街中にむき出しの小便器に住民が反発
導入当初、パリ市内のサンルイ島に、ユリトロトワールが設置されました。サンルイ島はセーヌ川の中洲の高級住宅街で、パリの中心部に位置しています。同所は、夏の夜になるとセーヌ川沿いの歩道を中心に、ピクニック客の立ちション被害に悩まされていたからです。
夜の街角での使用例 ©️︎ Faltazi
しかし、ユリトロトワールの真っ赤な色使いと、剥き出しの便器という存在感などによってサンルイ島の住民の反対に遭いました。結果、同島を管轄するパリ4区の区長の思いとは裏腹に、すぐに撤去される憂き目に会いました。
さらに、ユリトロトワールは男性のトイレ需要しか解決できないため、男女平等ではないと反発も起きました。
批判を受け女性向け個室型小便器を開発
このユリトロトワール騒動から2年後の2020年、ファルタジは女性側の需要を受け止め、女性用の簡易小便器を開発しました。それが女性用のユリトロトワールです。
女性用は、男性用とは異なり個室になっています。和式と洋式トイレの折衷のような形で、便座に座るのではなく中腰になって腰を浮かしつつ、用を足します。尿はトイレ下部のタンクに溜め込まれ定期的に汲み取られ、汲み取られた尿は畑の肥料として使われます。汲み取った排泄物の輸送には、CO2排出量が少ない自転車などの手段を使います。
同社の資料によれば、集められた尿は畑の肥料として、大麦やホップの栽培に使われ、それら作物がビールになり、ビールが再び排泄され、環境の中で循環していくそうです。
じつは、このユリトロトワール騒動以前にも、パリの街中には個室型の公共トイレ「サニゼット」が2006年から各所に設置されていました。こちらはユリトロトワールと異なり「大小」どちらも対応でき、1回使うごとにトイレ内を水で丸洗いする機能が付いています。
ただし、サニゼットの場合は水を使うため、汚水を増やしてしまいます。また配管工事を行う必要があり、どこでもすぐに設置するというわけにはいきません。ユリトロトワールの場合は、トイレ単体で完結し導入がしやすいという利点があります。
パリの公共トイレのトレンドは「汲み取り式」
ユリトロトワールの不評により、姿を消したかのようにみえる公共男性用小便器ですが、じつは2020年に7月に、パリ市は新たな男性用小便器「ナチュリノワール」を設けました。また女性も使える個室タイプのトイレ「パリゼット」も設置しました。場所は、パリ市内ラ・シャペル駅近くなどです。
ナチュリノワールとパリゼットは、フランス南西部モンペリエの協同組合「エコセック」が開発した製品で、こちらも水を使いません。集めた排泄物は殺菌、発酵させて農地で肥料として利用されます。その簡易さから、ツール・ド・フランスなどの特設会場などでも使われてきました。
個室タイプの女性向けユリトロトワール ©️︎ Faltazi
仏パリジャン紙が電子版で報じた、今夏エコセックがパリ市と実施した市内北部スターリングラードでの小便器「ナチュリノワール」の試用結果では、10日間で80リットルの尿を回収できたそうです。これは400人分に相当し、1日あたり30〜40回の利用があるということが分かりました。
環境に負荷をかけず、町中での放尿を減らし、いかに清潔な町にしていくか。トイレを巡るパリ市の格闘は続いています。