データと捕手の証言から紐解く 沢村賞の中日・大野雄大が10完投もできた理由とは?

中日・大野雄大【写真:荒川祐史】

「空振り率」がリーグトップの14.2%を記録、落ちる球の割合増加

先発投手にとって最高の栄誉である「沢村賞」を今季初受賞した中日の大野雄大投手。白星は11勝で、巨人の菅野が挙げた14勝に及ばなかったが、近年稀に見る10完投が評価された。エース左腕はなぜマウンドを守り続けれたのか――。データが示す指標と、バッテリーを組んだ木下拓哉捕手の証言から、その一端を明らかにする。

大野雄は開幕から6試合連続で白星から見放されたものの、7月下旬から2完封を含む5連続完投勝利をマーク。9月下旬以降も5試合で4完封の離れ業をやってのけ、終わってみれば20試合登板で11勝6敗。防御率1.82と148奪三振で、最優秀防御率と最多奪三振の2冠に輝いた。

圧倒させられる成績の数々は、いかにして導き出したのか。野球を科学的に分析するセイバーメトリクスの指標を用いて検証などを行う株式会社DELTAのデータを用いて振り返ると、大野雄の“変化”と“進化”がよく分かる。

投球の詳細では、打者が空振りしてストライクになった「空振り率」がリーグトップの14.2%を記録。2019年に比べて3.5%上昇したキャリアハイで、未勝利に終わった2018年からおよそ2倍に。三振を狙うことも多いリリーフ投手並みの数値だった。

大野雄にとって空振りを奪いにいく球といえば、ツーシームとフォーク。デルタの数値で照らし合わせると「SI%(シンカーの割合)」がそれにあたり、今季は36%で過去最も多い。組み立ての変化について、捕手の木下拓には思い当たる節があるという。

「これまでは右打者に使うことが多かったですが、今年は左打者にも多く使うようになったからだと思います」。大野雄とコンビを組む機会が少なかった昨季からその有効性は感じていたといい、ピタリと奏功した形に。実際、ボールゾーンの球を打者にスイングさせた割合も36.0%と過去最も高かった。

年々ストレートの球速がアップ「分かっていても空振りやファウルが取れた」

落とされると手が出ない。では、ストレートはどうか。今季も投球の半数以上を投じた生命線も、やはり手がつけられなかった。木下拓は、今季の直球の凄みをこう語る。

「やっぱり軸は真っ直ぐ。今年は真っ直ぐでカウントが取れたことがすごく助かりました。打者が真っ直ぐ狙いだと分かっているタイミングで投げて、空振りやファウルが取れる。そうすると、より組み立てやすくなるし、フォークも効果的に使えました」

今季の平均球速は146.2キロで、こちらもキャリア最高。2016年以降は140.2キロ、142.8キロ、144.1キロ、145.9キロと年々スピードアップしていることにも驚かされる。実際、投じたストレートがどれだけ失点減少に貢献しているかを示す「wFA」も、19.3で12球団の投手トップ(規定投球回に達した投手に限る)の数値だった。

直球の威力と、落ちる球の有効性。この両輪が生む打者心理こそが、10完投を導いたと木下拓はみている。

「打者も追い込まれたらきついと感じていたようで、シーズン終盤になるにつれて打席での仕掛けも早くなっていきました。それを逆手にとって1球で打ち取れたり、少ない球数で抑えたりすることも増えました。その結果、球数が抑えられて完投が増えたというのもあると思います」

データと自身の感覚を照らし合わし、10完投という結果に大きくうなずく木下拓。球界屈指のエース左腕の快投を支えた2020年。「受けてて、本当エグかったっす」。最も身近で凄みを感じられたことに充実感をにじませていた。(Full-Count編集部 データ提供:DELTA)

データ提供:DELTA
2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える デルタ・ベースボール・リポート1~3』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『1.02 Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』も運営する。

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