ウィズコロナの2021年はESG投資が加速?押さえておきたいイベントは

2021年は日米欧の各政府が気候変動に関する共通のゴールを目指し、政策を本格展開する初めての年になるでしょう。また、脱炭素と共に、SDGs/ESGにおける潮流の一つとして、「多様性」を求める動きに注目が集まる年にもなりそうです。

新年に注目すべきESG投資関連トピックを解説します。


2030年に向けて加速する「脱炭素」の取り組み

共通のゴールとは2050年までの「カーボンニュートラル」(温暖化ガスの排出量と吸収量の総和をゼロにする)の達成です。もっとも、世界はそれより20年も前、2030年までの「脱炭素」への取り組みを加速する動きを強めています。

地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」は12月12日に採択5周年を迎えましたが、これを記念して首脳級オンライン会合「気候野心サミット」を開催しました。これに先駆け、英国は温暖化ガス削減目標を30年に従来の90年比53%減から68%減へ、欧州は同40%減から55%減へ引き上げると発表しています。

欧州や国連は、「30年目標」にこだわっています。国連等の研究機関では50年時点で炭素排出ゼロを実現しても、30年に一定の削減がなければ気温の上昇を抑えられなくなるとの研究結果が出ているためです。

また、パリ協定が目標とする世界的な平均気温上昇を産業革命前と比べて1.5℃未満に抑えるには、毎年前年比7.6%の削減が必要になるとの試算もあります。

「グリーンリカバリー(緑の復興)」にも注目

脱炭素はコロナ後の経済の回復と成長を環境政策の強化で目指す「グリーンリカバリー(緑の復興)」としても注目されます。

欧州は95兆円規模のEU復興基金の運用を21年から開始し、同基金の3割以上を環境対策に充てて経済復興に導く方針で合意しました。米国も、バイデン次期大統領が選挙公約にパリ協定への復帰と210兆円の環境投資を盛り込んでいます。

日本も2030年までが「勝負の10年」

日本では菅政権が「2050年炭素ガス排出ネットゼロ」を宣言しました。新型コロナウイルスの感染拡大で21年11月に延期された第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)までに、現行目標の「30年度に13年度比26%減」を改訂する方針です。

小泉環境相は12月15日、電源に占める再生可能エネルギーの比率を現在の目標の倍となる4割以上に高める意向を表明。政府はこの再エネ比率を19年度18%から30年度22~24%に高める目標としていますが、欧州主要国の半分程度に過ぎません。

21年春以降、経産省がまとめるエネルギーミックスで30年度の電源構成を固め、排出量の削減目標を詰めていく方向です。政府は参考値として、再エネ比率を50年時点で「50~60%」に高める案も検討し始めています。

洋上風力発電とEVに注目

具体的な脱炭素に向けた動きも出ています。

経産省と国土交通省、民間事業者は12月15日、「洋上風力産業ビジョン」を発表。再エネを主力電源化に向けた切り札に位置付け、洋上風力の普及を急いでいます。発電所と大消費地への新たな送電網の整備計画についても、来春発表を予定しています。環境省と経産省は、電気自動車(EV)普及に向けた補助金政策を発表しました。

政府は2020年度第3次補正予算に「経済構造の転換」政策の一つとして、温暖化ガスの実質ゼロのための技術開発支援基金2兆円を充てています。EVの次世代基幹技術として本命視される全個体電池の実用化への動きを官民で加速させる方向です。

企業による脱炭素への取り組みに、政策面からの需要喚起と消費者の意識の高まりが加わることで、2021年は脱炭素に向けた動きが加速すると予想されます。

見逃してはならない「多様性」を求める動き

脱炭素と共に、SDGs/ESGにおける潮流の一つとして注目されるのが、「多様性」を求める動きです。21年1月に発足する民主党バイデン新政権は重要ポストに女性や黒人、アジア系を配し多様性を最優先に掲げています。

資本市場でも、米証券取引委員会(SEC)による「従業員」情報開示の義務化発表(11月)に続き、米ナスダックは12月1日、取締役の多様性に関する上場基準ルールを導入する申請書をSECに提出しました。承認されれば、ジェンダー(性別)とマイノリティ(少数派)の観点での取締役1人以上の任命が義務付けられます。

日本でも来春のコーポレートガバナンス・コード(企業統治の規律)の改定で、多様性の確保(女性・外国人・中途採用の管理職への登用等)が重視される見通しです。経営層の多様性が高い企業はイノベーションによる売上高の割合が高い傾向がみられます。事業環境が不透明な中でも、多様性の確保は企業価値の向上をもたらす一手と言えるでしょう。

2020年はコロナが広がる中で、株主への利益還元だけでなく、環境や人種など企業にとって多様な利害関係者に目が向けられました。ESG要素を配慮する企業の価値は中期的に高まるとの見方からESG市場への資金流入の勢いが強まっており、21年もこうした流れが続くことになるでしょう。

<文:チーフESGストラテジスト 山田雪乃>

つのだよしお/アフロ

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