「敷金トラブル」時の3つの対応法 “釘の穴”は入居者の責任、では “がびょう”は?

「敷金を返してもらえなかった」、「清掃費などで高額請求された」、「クロスやふすまの張替え費用を請求されたが、払う必要あるの?」賃貸物件の退去時に、このような思いを持った入居者もいるのではないでしょうか。今回は、「業界の闇」の話を交えながら、賃貸不動産の契約や解約に関する「トラブルあるある」と、対応方法を不動産のプロの立場から解説します。


まずは「見積書」を請求する

退去時のトラブルは非常に多いです。中でも、退去の際に、部屋を再び貸せる状態に戻す「原状回復」のトラブルは、独立行政法人国民生活センターへの相談件数が例年1万件を超えるなど、表面化しているケースだけでも相当数です。

株式会社ハウスメイトパートナーズの調べでは、「4割以上の方が、退去時に何らかのトラブルがあった」との結果も出てます。退去時のトラブルはだれにでも起こりうる可能性があるといえます。

では実際、敷金トラブルに遭ったときに取りたい3つの対応策を記します。

(1)「現状回復」の見積書を請求する

実話ですが、ある方が単身向けアパートを退去したとき、管理会社から請求された原状回復費用は、なんと約100万円。当然、請求された方は管理会社に抗議しましたが、「払わないとあなたと連帯保証人を訴える」と管理会社の社長に言われたそうです。

入居者がまず覚えておきたいことは、原状回復費用を法外に請求する悪質な貸し手側もいる、ということ。自分が度を超す汚し方をしなかったにもかかわらず、敷金を請求されたら「見積書」を貸し手側に請求しましょう。貸し手側と業者間のやり取りは「どんぶり勘定」が多いので、貸し手側が応じてくれるかはわかりませんが、場合によってはそれだけで態度が軟化する場合もあります。

(2)ガイドラインの原則を理解する

こうした敷金トラブルの多発を受け、国は原状回復のモノサシとして『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』(以下ガイドライン)を1998年に制定しました。他にも、標準契約書の改定や民法改正、業者規制強化など様々な取り組みを通して、適正な賃貸業界の維持向上を目指しています。

ガイドライン整備前は、「原状回復=借りる前の状態に戻すこと」が原則でした。しかし、ガイドライン整備後は、「原状回復=通常の使用以外で生じた問題箇所を修繕すること」としました。つまり、「通常の使用や経年劣化の修理費用は、入居者の負担ではない」として借り手を保護しようとしたのです。

敷金から修理費用を請求されたら、それが「通常の使用」や「経年劣化」から外れるものなのか? これをガイドラインに沿って見積書の内訳から調べるべきです。

クロスの修繕1つでも解釈は多岐に渡る

(3)ガイドラインで具体的な事例を調べる

例えば、「クロスは減価償却的に6年で価値がなくなるもの」と位置付けられています。あなたが6年以上住んでいる部屋を退去するとき、クロスの張替え費用を請求された場合は、「ガイドラインでは6年でクロスは償却すべきものと規定されており、クロスは経年劣化として、修繕は貸し手負担とすべきと思料します」と主張すればよいのです。

ただし、「通常の使用」「経年劣化」の判断は難しい面もあります。一番気を付けたいのは「タバコ」と「ペット」です。タバコのヤニや、ペットによる汚れや破損は「通常の使用」と規定されていません。ガイドラインによっても、入居者の責任とされることが原則です。

また、いくらクロスが6年で価値0円になるとしても、たとえば壁面にいたずら書きしてしまうと、入居者の責任とされ、修繕費用を請求されます。

他にも、釘やねじによるクロスや壁の破損も、修繕費は入居者の負担になります。一方で、がびょうの穴は「通常の使用」になるので、貸し手側から請求されることはないはずです。がびょうでポスターを貼っても、ガイドラインは「通常の使用」と規定しています。

ちなみに、ポスター跡がクロスに残った場合は、どうなるのでしょうか? また、テレビなどのすぐ裏にあった壁が黒ずんでしまう、いわゆる「電気やけ」の場合はどうなるでしょう? これらは「経年劣化」とガイドラインでは規定されているので、修繕費を請求されたら、異議を唱えたいところ。

ただし、もし入居者が置きっぱなしにしていた段ボールの山の裏の結露などで、カビが発生していたとしましょう。この場合の黒ずみの修繕費は、入居者の負担となります。壁にずっと物を置いておくのは、敷金的には危険といえるでしょう。

このように、クロス1つとっても解釈は多岐に渡ります。見積書をみて、「これはおかしいのではないか?」と感じた場合は「原状回復ガイドライン」と検索して、国土交通省の様々なケースの判断例をチェックしましょう。

注意点としては、ガイドラインで貸し手側の負担と規定されていても、100%敷金が戻ってくるものではない、ということ。たとえば賃貸契約書をよく見ると、クロスの張り替えについて貸し手側に都合のいい「特約」が含まれているケースもあります。ガイドラインは法令のような「絶体的な存在」ではない、ということを覚えておきましょう。

ただし、ガイドラインの内容を口にしただけで、貸し手側が態度を軟化させる場合もあります。知は力。知っているのと知らないのとでは、結果に大きな差を生むかもしれません。また、「黒ずみ」などが入居時点であった場合、それを写真に撮っておくなどの「予防措置」を取ることも可能です。

以上、敷金トラブルが起きたら、この3つの対応法を行うようにしてください。

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