【取材のウラ側 現場ノート】なでしこを世界一に導いた大野忍さん 後進の育成は「試行錯誤の連続」

澤さんとともになでしこをけん引した大野さん

2008年北京五輪の女子サッカーでなでしこジャパンを4強入りに導き、日本女子サッカーの最前線で活躍してきた大野忍さんが20年2月、現役生活にピリオドを打ち、指導者に転身した。

実力派揃いの11年ドイツ女子W杯の優勝メンバーの中でも群を抜く個性の持ち主で、取材の現場では常に話を聞くのが楽しみな選手だった。言いたいことは言うという自由奔放なキャラが前面に出ているが、その裏にある細やかな配慮やプレーにおける計算など、話を聞けば聞くほど新たな発見があり、多くの勉強をさせてもらった。

そんな大野さんに対して、長年温めてきたプランがあった。「本紙評論家になってほしい」。引退会見の直後、さっそくその意向を伝えると、快く引き受けてくれた。本来なら東京五輪に臨むなでしこジャパンの評論をしてもらうつもりだったが、新型コロナウイルスの影響でその計画は白紙になり、今は1か月に1回程度、コラムを担当してもらうという形になっている。

大野さんは指導者としてINAC神戸の東京支部「INAC東京」で子供たちの指導を行っている。あのW杯優勝メンバーの中で、山郷のぞみさん、矢野喬子さんも指導者として現在活躍しているが、FWとしては大野さんが初めて。スクールでの指導では子供たちよりも親御さんたちからの興味のほうが大きいようで「私が子供たちに話をしても、うなずくのは親御さんで、子供はキョトンとしている。教えるのって難しいですね」と苦笑いしていたこともあった。

そんな中で、時代を感じることも少なくないという。「純粋にサッカーがうまくなりたいとか、こんな選手になりたいという目標を持った子もいるんだけど、今は〝習い事〟の一つみたいになっているところもあって、どういうふうに導いてあげればいいんだろう、って思いながらやっている時もあったんです」

もちろん、すべての子供がなでしこジャパン入りを目指したり、サッカーを将来の職業として考えているわけではない。今もなお、指導法は試行錯誤の連続だという。なでしこジャパンは今、再び爆発的な人気を得るか、一時期の低迷期に逆戻りするかという岐路に立たされている。それをいい方向に導くために欠かせないのが育成。その一翼を担う大野さんの活躍をまだまだ追いかけていきたいと思っている。(サッカー担当・瀬谷 宏)

© 株式会社東京スポーツ新聞社