VOW WOWの『BEAT OF METAL MOTION』は早過ぎるほどに早過ぎた国産HRの究極進化

『BEAT OF METAL MOTION』('86)/VOW WOW

VOW WOWが正式結成発表前に残していたデモ音源集『In The Beginning』のリリースが決定。一般発売は来春(2021年春)の予定だが、ネット通販がすでに始まっている。CD2枚組で、DISC2にはデビュー前のライヴ音源が収録されている上、CDの他、カセットテープ版も限定販売。日本ロック史においても貴重な音源であり、ファン垂涎のアイテムであることは間違いない。2020年ラストの邦楽名盤コラムは、そのVOW WOWのデビュー作『BEAT OF METAL MOTION』を取り上げる。彼らがいかにすごかったのかをしたためてみた。

BOW WOWから5人編成に進化

両雄並び立たず、と言う。『故事ことわざ辞典』によれば“同じ力量を持つ英雄がふたりいれば、必ず争いになりどちらかが倒れるということのたとえ”である。すげぇヤツがふたりいればその組織は盤石だと思われがちだが、実際のところ、その1+1はなかなか2にならない。2ならまだいいほうで、2以下なんてことがざらにある。そういう話だ。某プロ野球球団が4番バッターばかり揃えたことがあったとか、いつだったかのサッカー某国代表の中盤だとかが、その分かりやすい例かもしれない。バンドでもありがちな話で、実例を挙げると──などと調子に乗って語り出すとかなり角が立つ話になるので、頭の中に浮かんだあれやこれやはあえて伏せておくけれども、John LennonとPaul McCartneyというのも案外そうだったのかもしれないとは思う(大御所中の大御所であればそれほど角も立たないとも思う)。タイプの異なるミュージシャンの個性が融合してこそのバンドだと思うし、The Beatlesの音源にはそれが詰まっていて、だからこそ、彼らは今もなお世界ナンバー1のバンドとして多くのファンから支持をされているのだろうが、それが長く続くことはなかった。まぁ、件の1+1の公式に当てはめれば、The Beatlesの場合、それが2以上になった瞬間は確実にあったわけで、両雄並び立たずとは言っても、結果的には…と前置きをしなくてはならないが──。

だが、VOW WOWのデビュー作『BEAT OF METAL MOTION』を聴いて、両雄並び立たず、と思った素人の浅知恵は簡単にぶち壊されたような思いだ。VOW WOWのメンバーは、人見元基(Vo)、山本恭司(Gu)、佐野賢二(Ba)、新美俊宏(Dr)、厚見玲衣(Key)の5人。メロディーを担当するパートが3つ存在するにもかかわらず、その楽曲が十二分に成り立っている──それはプロだから当たり前として、それぞれのパート、とりわけ3つのメロディーパートがぶつかり合うことなく、実にいい具合に混じり合っているのだ。少なくともデビュー作、このメンバーでの初めての音源にしてこのようなアンサンブルは稀であろう。いい意味でちゃんと整理されており、それが実に心憎く感じられる作品なのである。

『BEAT OF METAL MOTION』収録曲を見ていく前に、VOW WOW自体の生い立ちについて少しだけ触れておこう。前身は1976年にアルバム『吼えろ!バウワウ』でデビューしたBOW WOWである。メンバーは前述の山本、佐野、新美の他、斉藤光浩(Vo&Gu)の4人編成。AerosmithやKISSの来日公演のオープニングアクトを務めたり、Hanoi Rocksと英国ツアーを行なったりした他、1980年代にヨーロッパでの大型野外フェスに日本代表として出演するなど、洋楽と真っ向勝負できる国産HRとして高い評価を得た、疑いようのないレジェンド級バンドである。ちなみに『吼えろ!バウワウ』は以前このコラムでも取り上げているので、音楽性についてはこちらを参照していただけたら幸いである。とにかく山本恭司のギターが超絶品なバンドであった。ワイルドなリフ、流麗なソロ、ブルージーなアプローチと、どんなフレーズも巧みにこなしつつ、単に音符をなぞるだけでなく、独特の艶っぽさとフィーリングを兼ね備えた不世出のギタリストである。ところが、1983年に斎藤が脱退。3人になったBOW WOW は新メンバーに人見と厚見を迎えて5人編成となる。それと同時にバンド名を“VOW WOW”と改めた。姓名判断からの改名とか、メンバーが5人になったことで“V”を付けたとか、その理由はいろいろあったようだが、いずれにしても心機一転の思いが強かったことは間違いないだろう。

歌、ギター、鍵盤の三つ巴

『BEAT OF METAL MOTION』のオープニングはM1「BREAK DOWN」。イントロでは、ズシリと重く、それでいてキャッチーな抑揚を湛えたギターリフが鳴るが、人見の迫力あるシャウトがそこに重なる。アルバム開始5秒でこのバンドの只者じゃない感じがバリ分かりだ。歌が入るとそれが念押しされる印象で、特にサビに突入してからはそのメロディー展開とコーラスワークの素晴らしさから、VOW WOWが真に信頼できるバンドである確信を持つはずである。「BREAK DOWN」はそこだけに留まらない。中盤のギターソロは言うまでもなく流麗で、いわゆる“聴かせる”旋律を響かせてくれるのであるが、そこから厚見のピアノも聴こえてくる。途中からリズムレスでブレイクし、綺麗な音色だけが鳴るという仕掛けで、この辺は組曲的というか、プログレ的だ。だからと言って、取って付けた感じは皆無で、ガツンとバンドサウンドにつながっていく。ここは佐野、新美のリズム隊の確かな手腕も光るところだろう。アウトロでシンセがクロスフェードして幻想的に楽曲が締め括られるところは好き嫌いが分かれるかもしれないが、「BREAK DOWN」がアルバムのオープニングナンバーでVOW WOWの世界観に没入させていく役割があることを考えれば、好意的に捉えることが出来るのではないだろうか。厚見というキーボーディストが加入したことを印象付けるには十分であったように思う。

M2「TOO LATE TO TURN BACK」はアッパーなR&R;。バカ明るくはないけれども、かと言って密室感はなく、しっかり開放的ではあるという──この辺はコードに寄るところなのだろうが、全体のバランスが絶妙な楽曲だと思う。聴いていくと、M1以上にVOW WOWの本領が発揮されている。何と言っても人見のヴォーカルがさらに活き活きとしている印象が強い。M2「TOO LATE~」は全編英語詞で、それが合っているのかもしれない。音符に言葉が詰まっている方が、彼のシャウトやビブラートは迫力を増しているような気がする。個人的には、キャッチーであるがゆえにややもするとどこか牧歌的な印象を与えなくもないと感じるサビメロだが、実際にはそうなっていないのは、人見のヴォーカリゼーションが関係しているのではないかと考えたところだ。また、M2「TOO LATE~」では鍵盤がさらに楽曲内で重要なポジションを担っている。Aメロの背後を彩るピアノ、Bメロではシンセだろうか。それらがより楽曲全体に溶け込んでいる。極めつけは間奏でのソロパートだろう。鍵盤からギターへ連なっていくのだが、そのふたつのコンビネーションが絶妙である。旋律が連携していく様子が素晴らしいことは当然として、それぞれをそれぞれがしっかりとバックアップしている。まさに両雄が並び立っているのである。そればかりか、全体を通して見れば、ヴォーカル、ギター、キーボードがそれぞれの個性をちゃんと露呈しながら、それを巧みに融合させて楽曲を成立させているのだ。両雄どころではなく、三つの雄を並立させていると言える。ブレイクしてから人見の《TOO LATE TO TURN BACK》のシャウトから締め括られるアウトロは、短いながらもそれを集約させたかのようなスタイルであって、見事な切れ味を見せている。ここも決して聴き逃せない箇所であろう。

M3「MASK OF FLESH(MASQUERADE)」は厚見が作曲したから鍵盤が若干、前面に出ている感じ…というのは穿った見方かもしれないけれども、この楽曲もまた各パートの絡み方がいい。リズム隊がキーボードを支えるかたちでイントロが始まり、抑制の効いたギターがそこに乗って、歌が始まるといった展開。そのギターも間奏では流石の速弾きを見せて、それがキーボードにリレーされ、さらには掛け合いや(おそらく)ユニゾンも見せる、まさしく競演といったスタイルである。サビでのブラックミュージック風のコーラスワークも新鮮で、この辺りはバンドが新しくなったことを示すにも十分でもあると言えよう。新しくなったと言えば、M4「DIAMOND NIGHT」もそうだろう。BOW WOW、ならびにVOW WOWの楽曲をつぶさに調べて比較したわけではないからそう結論付けるのは軽々かもしれないが、“BOW”であれ“VOW”であれ、このポップさ、メジャー感はバンドのスタンダードから少し離れたところにあったように思う。エッジーでありつつ弾けるようなギターや、電子音にも似たキーボードからも、バンドにとっては新機軸だったのではと想像するし、もしかするとのちのJ-ROCKへの影響も少なからずあったのではなかろうか(M6「BABY IT'S ALRIGHT」にもそれと同じような匂いを感じる)。

人見元基の圧倒的な存在感

両雄や三つの雄とか言いつつ、わりと厚見のキーボードと山本のギタープレイの説明に偏った感があるので、ここからはもう一度、人見のすごさについて触れよう。M5「FEEL ALRIGHT」はそれがはっきりと感じられるナンバーであると思う。これは歌詞も曲も山本が手掛けたナンバーで、いかにもギタリストが作った楽曲らしい…と断言するのもアレだが、間奏のギターソロの長さ、そこで奏でられる旋律がどの箇所よりもメロディアスであるところなど、勢いそう感じてしまうところは正直ある。つまり、ヴォーカルパートはAメロ後半に出てくる《You feel alright?》を除けば、総体的にはさほど抑揚のない感じなのだ。だが、人見はそこでも容赦なく存在感を見せつけている。歌の大半は語りにも近い感じで、もし何のテクニックもないシンガーが歌ったとしたら、下手なフォークソングのような退屈なものになってしまうと思われるところを、シャウトやビブラートなどの歌唱テクを効かせることで、退屈どころじゃなく、ギターと拮抗する相当にスリリングなヴォーカルを聴かせてくれる。何を歌ってもそれは人見のものとなってしまうような、いい意味での傲慢さがとにかくカッコ良い。HR/HMのヴォーカリスト…いや、ロックのヴォーカリストはこうでなくてはいけないと思わせるような押しの強さが圧倒的である。

アルバムはそこから、インタールード的な短いインスト曲M7「LONELY FAIRY」を挟んで、人見のド迫力の歌声と山本の叙情的なギターとのマッチングが聴く人の琴線を刺激しっ放しのプログレナンバー、M8「SLEEPING IN A DREAM HOUSE」。アメリカンハードロック的なポップさを湛えたM9「ROCK ME」。そして、アルバム全体を通して随所で見せてきた彼ら流のコーラスワークを加味して、M9とはまた違ったキャッチーさを見せるタイトルチューン、M10「BEAT OF METAL MOTION」と来てフィナーレ。最後の最後まで聴きどころを抑えたアルバムである。日本語詞が随分とHR/HMの様式美にハマっている部分もあり、個人的にはもう少し何とかならなかったのかという想いがなくはないけれども、時代は日本のロックがこの辺りからメインストリームを伺おうかという時期。過渡期のものであるとすれば大目に見れるとは思う。

過渡期と言えば、最後にその後のVOW WOWについて少し触れて本稿を閉じよう。彼らは1986年に拠点を英国に移して活動を展開。メンバーチェンジに見舞われたものの、その後に制作したシングル、アルバムは共に英国でチャートインするなど一定の成果を見せた。1990年には米国進出を狙って6thアルバム『MOUNTAIN TOP』をリリースするも、米国のレコード会社との契約ができなかったことで、同年末、バンドは解散を選択することとなる。1986年と言えば、日本ではその前年に発売されたレベッカの『REBECCA IV 〜Maybe Tomorrow〜』がミリオンセールスを記録し、BOØWYがアルバム『JUST A HERO』、『“GIGS” JUST A HERO TOUR 1986』、『BEAT EMOTION』を相次いで発表してブレイクした年である。ようやく日本のロックシーンがしっかりと形成された頃と言ってもよかろう。そんな時期に全米進出とは、今になってみれば相当に意識が高かったと言える。日本のロックエンタテインメントは過渡期も過渡期。海外進出に至っては黎明期とも言っていいくらいの時期である。いかにバンドがそれを望むだけの実力を持っていても日米双方の事務方が追いつかなかったとは想像するに難くない。VOW WOWは生まれて来るのが早過ぎるほどに早かったのである。

TEXT:帆苅智之

アルバム『BEAT OF METAL MOTION』

1986年発表作品

<収録曲>
1.BREAK DOWN
2.TOO LATE TO TURN BACK
3.MASK OF FLESH (MASQUERADE)
4.DIAMOND NIGHT
5.FEEL ALRIGHT
6.BABY IT'S ALRIGHT
7.LONELY FAIRY
8.SLEEPING IN A DREAM HOUSE
9.ROCK ME
10.BEAT OF METAL MOTION

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