【特集】IT企業を中心とした首都圏企業の新潟県への進出が相次いでいる理由

近年新潟県や新潟市が企業誘致を進めている

新潟県内に、IT企業を中心とした首都圏の企業の進出が相次いでいる。特に新潟市に進出した企業は判明できる分だけでも2017年以降16社。楽天や博報堂DYグループのデジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社(DAC)など、有力企業の進出も目立っている。近年新潟県や新潟市が企業誘致を進めており、その効果が着実に表れてきた格好だ。企業が新潟に進出した背景や、最近の動向を見た。

新潟県では2020年に人口が220万人を割り込むなど人口減少の深刻な問題が叫ばれているが、実は企業数の減少も著しい。新潟県の調査によると、2016年の民間事業所数は11万2,948。2012年の11万7,675から約5,000カ所減少している。企業数が減れば雇用の安定や税収の確保にも影響してくるため、行政側の危機感も強い。

新潟県では新潟市と連携して企業誘致を強化。オフィス賃料や設備取得費、人材確保などの補助金制度を充実させており、首都圏と2時間でつながる良好なアクセス環境を訴求。10月29日には、オンラインで「IT企業立地セミナー」を開催し、新潟でのビジネスの可能性や進出のメリットを企業が講演したほか、市町村や団体が優遇制度や立地環境などをPRした。

新潟県に進出してきた企業で目立つのはIT企業。なかでも、コールセンターやデバック業務(動作検証作業)など、バックオフィス的機能やニアショア開発拠点を県内に構えるケースが多い。数ある地方自治体の中でなぜ新潟が選ばれたのか。多くの企業が新潟進出の背景としてあげるのが、優秀な人材確保のためだ。新潟県でも、IT・情報系の大学・専門学校が14校ある点を訴求している。コンサルティング事業やメディア事業を展開するイードアは「新潟出身の有名な社長が多く、優秀な人材が多い印象。専門学校が多く、中途採用でも有能な人がいる。人材確保でアドバンテージになると思った」と語る。DACでは2019年の設立時に15人だった社員が順調に増え、新卒採用者の割合も高い。

イードア本社が入居する東京都港区のビル

新潟県内にはNSGグループが展開する学校を中心にIT系やコンピューター関連の専門学校が多いが、IT企業やクリエイティブ系の企業が限定されている。そのため、専門学校を卒業した学生は県外企業に就職するケースが多かった。新潟県内のIT企業幹部は「優秀な人材は首都圏に出ようとするため、新潟県内の企業は、慢性的な人材不足。地元企業で働く若い人が少ない」と嘆く。ゲームやアプリサイトツリーなどのデジタルコンテンツ事業を手掛けるイマジカデジタルスケープは新潟への進出を検討する際に、ゲーム関連の専門学校が結構あるが、働き先が少ないことに着目した。合わせて検討に上った福岡市や仙台市にも専門学校があるものの企業も多いため採用面での競合が激しそうだと判断、新潟ではゲーム関連企業の競合が少ないために「いい人が志望してくれそう」と進出を決断した。進出する際に学校を訪問したところ前向きな反応だったという。「新潟に残りたいけど、就職先がないから首都圏に行ったり、他の業種に入る学生多い」と、同社の事業に共感する人材の確保に取り組む。優秀な学生を確保したい企業と、希望の仕事に就きたい学生の双方のニーズがマッチする好事例だ。

また、企業が事業を継続していくために、新潟県民の真面目で愚直な県民性が魅力的に映るという。ワンストップ契約サービス「NINJA SIGN」の運営などをするサイトビジットは「新潟県の県民性として、真面目で離職率が低い。きめ細やかな対応やお客さんのことを考えて熱心に対応する力が秀でている」と指摘。新潟県民の、仕事に対するひたむきな姿勢や粘り強さなどを評価する。中長期的には新潟でもエンジニアを採用したい考えだ。

右から、佐久間副知事、株式会社サイトビジット代表取締役鬼頭政人、北陸カスタマーセンター長加茂了、髙橋副市長(2020年11月)

新潟県、新潟市の積極的な誘致活動や補助金など優遇制度の成果も出てきた。サイトビジットは「地方の拠点を考えるなかで、東京事務所が弊社まで来てくれて具体的に話してくれた。北陸最大の都市で人口が多く、今後規模を拡大しても対応できる。助成金も豊富」と好印象。イードアは「未来創造産業立地促進補助金」、「情報通信関連産業立地促進事業補助金」を活用。「行政や現地企業の産業創造への情熱を感じた」と評価する。イマジカデジタルスケープも「進出を一押しする一助にはなった」と話す。

新型コロナウイルスの感染拡大で多数の人が集まることは避けられ、リモートワークが広がるなど新らしい生活様式の定着も求められている。近年ではITが発達し、パソコンとインターネットがあれば、どこでも業務が可能な環境が整ってきた。新陽社は「ソフトウェア開発の新たな拠点が欲しかったネットの時代だから、ソフトウェアの仕事は東京じゃなくてもできる」と強調。あるIT企業も「コロナウイルスの影響で新しい生活様式が広がり、首都圏にいる必要性はなくなっている」と指摘。長時間の満員電車での通勤に揺られて通勤する首都圏と違って、ゆとりのある生活を送れるという意見も多い。進出企業では、近年頻発する大規模時のBCP(事業継続計画)対策として、拠点分散の役割も期待している。「バックオフィス的な仕事は地方でも対応できる。同じ仕事でも給料は首都圏の8割くらいに収まる」というコスト管理の観点もあるようだ。

「地方には働き先がない」。卒業を控える学生が就職先を選ぶ際に口にする言葉だ。地方には官公庁や金融機関程度しか魅力的な就職先がなく、首都圏企業に就職する学生の原因と言われてきた。県外の企業が新潟に進出することで就職先の選択肢が増えることは、若者の県外流出を食い止めるためにも、有効な手立てと言える。今後も新潟県内に進出する企業が増え、新しい風を吹かせることが期待される。

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