パンなのに「あいす」? 横浜・馬車道、斬新アイデアで味わい追求

焼き上がったばかりの「馬車道あいすくりん生食パン」=馬車道グラヌーズ

 文明開化の玄関口として開港期から西欧文化を取り入れてきた横浜・馬車道。この地で一度閉店したパン店が、高級食パン専門店として生まれ変わった。創業から20年余り「黄色のパン屋さん」の愛称で親しまれながらも、ファンに惜しまつつ歴史に幕を下ろしてから4年。パン職人に再起を促した新オーナーの人脈と斬新なアイデアで、古くて新しい街にふさわしい“本物の味”を追求した。

 「パンなのに、なぜ『あいすくりん』なの?」

 関内ホールの桜木町寄りに2ブロック。昨年11月に再オープンした「馬車道グラヌーズ」に、初めて来店する客は口をそろえる。看板メニュー「馬車道あいすくりん生食パン」(税別千円)は、馬車道が日本発祥のアイスクリーム(あいすくりん)のほのかに甘い風味で、懐かしく奥深い味わいと評判だ。

 代表の刀根川彰さん(58)は「馬車道は、ガス灯など全てが本物の街。厳選した素材で最高級のパンに仕上げた」。北海道産の生クリームやバターを使い、アイスクリームの風味は練乳や純粋蜂蜜の優しい甘さで表現した。

 もう一つの看板メニュー「馬車道あいすくりん食パン」(同)とともに、生地には国産とカナダ産小麦のブレンドや富士山の天然水などを使う一方、乳化剤や保存料は一切使わないことがこだわりだ。

 前身の「レェ・グラヌーズ」は1995年に創業。ベーカリー&カフェとして多くのファンに親しまれたが、バターなど原材料費の高騰の影響などを受け2016年に幕を閉じた。

 当時店主だったパン職人の稲川政信さん(62)は「21年間楽しかった分、別の仕事をしていた3年ほどは退屈だった」。パン作りへの思いが強くなったころに知人の刀根川さんに誘われ、「人生最後のチャレンジをしたい」と再起を決意。今は最新鋭のオーブンと向き合い「新しい人生になり、毎日が胸躍る思い。還暦を過ぎても新しいことができる勇気を与えてもらった」と目を輝かせる。

 刀根川さんが卒業した横浜国立大教育学部付属横浜小学校の先輩に当たる馬車道商店街協同組合の六川勝仁理事長(70)は「あいすくりんを食パンで提案したのは初めて。こういう使い方があるんだな、と感心した」と話し、喜びをあらわにした。「グラヌーズが戻ってくれて本当にうれしい。馬車道はものづくりの街。これからもその一翼を担い続けてほしい」

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