アンカツ「競馬盛り上げの特効薬は“真のGⅠ”」

世紀の一戦とうたわれた2020年のジャパンカップ

真の強者が集いし一戦。我らが安藤勝己元ジョッキーが追い求めてきた大一番がついに実現した。「世紀の一戦」とうたわれた2020年ジャパンカップ。なぜ実現したかは問題ではない。その反響の大きさこそが問題なのだ。まがい物ではなく、本物さえ用意すれば、話題を集めるし、馬券も売れる。競馬を心から愛する男・アンカツは“真のGⅠ”の継続を願ってやまない――。

コロナ禍での開催を強いられた2020年の競馬を振り返ると、まあ~いろんなことがあったわな。例年以上に「話題満載の年」としてええやろ。まずは牡牝ともに無敗の3冠馬が誕生したこと。当然のことながら史上初の大偉業で、俺が生きてるうちに再び同じシーンを目撃できるかわからんほどや。ちまたでは「2020年は競馬ファンにとっては幸せな年」って声も出とるらしいけどホンマ、その通りやな。

そんな中で一番の盛り上がりを見せたのが、無敗の3冠馬コントレイル、デアリングタクトと最強古馬アーモンドアイの対決が実現したジャパンCやったんは改めて説明するまでもないやろ。「史上最大の決戦」とか、「世紀の大一番」とか銘打たれとったし、レース前後にはホンマ、さまざまな形で報道されとったからな。売り上げも前年比47・5%増の272億円超にも上ったんやから、どれだけ多くの人の関心を集めたかがわかるってもんや。

じゃあ、なんであんなに盛り上がったんか? 理由は単純明快や。テッペン級の馬、しかも殿堂級の馬たちが同じレースに出て白黒つけることになったんやから…真の意味でのチャンピオン決定戦やった。「強者が集い、王者を決める」。これって競馬に限らず、どんな競技にも当てはまる普遍の真理やろ。

ただ、そんなレースが成立した背景を考えると、手放しに喜べんところもある。周知の通り、今の競馬は各路線ごとにGⅠが整備されとる上に、同じ路線でもいくつかの選択肢があったりする。海外遠征も当たり前になっとったから、世に言う「使い分け」が可能になり、ファンが望むような「直接対決」が実現せんことが多かったんや。

じゃあ、なんで今回に限ってあんなレースが成立したのか? 大まかに言って2つの理由が挙げられる。

まずはジャパンCの「3強」すべてが違う背景を持っとったってことや。アーモンドアイはノーザンファーム、コントレイルはノースヒルズ、デアリングタクトはノルマンディー(生産は長谷川牧場)と異なる牧場、オーナーの馬やったからな。各陣営にはそれぞれ「年度代表馬を」って思いが必ずあったはずやで、対決せんわけにはいかんかった。仮に3頭ともノーザンファームの馬やったら、「使い分け」になっとったやろな。

もう一つは言うまでもなくコロナや。海外の大レースが中止になったり、移動の問題で遠征が難しかったりで、国内のレース中心に使わざるを得ん状況やったからな。世界中の人々が苦しんどるコロナが国内のレースを充実させたんは、なんとも皮肉な現象やで。

まあ、そういう背景はさておき、競馬を盛り上げる一番の手段が「強い馬同士が白黒つける舞台を用意することに尽きる」ことが改めて浮き彫りになったわけや。ジャパンCの盛り上がりを再現したいんやったら、同じような舞台を用意すればいいだけの話。アーモンドアイが引退したで、「3強対決」は再現不可能やけど、今後も「コントレイルVSデアリングタクト」が実現する機会はいくらでもあるはず。この2頭を中心に、多くの古豪たちが対決に加われば言うことなしや。

ちなみにコントレイル陣営は「春の目標は大阪杯」って早々に発表しとるで、この大阪杯にデアリングタクト(金鯱賞で始動予定やて)も出てくれば、間違いなく大きな注目を集めるやろ。さらにはこの中距離決戦にマイル王のグランアレグリアも加わってくれれば言うことなしやな(ちなみに天皇賞・秋参戦プランはあるらしいで)。

要はテッペン級の馬をいかに多く揃えて、白黒つける舞台を用意するか。競馬を盛り上げる一番の特効薬はこれしかないと思うわ。

☆あんどう・かつみ=1960年3月28日生まれ、60歳。愛知県一宮市出身。76年に公営・笠松でデビューし、トップジョッキーとして長らく君臨。2003年にJRAに移籍すると、08年まで連続100勝以上するなどリーディングの上位で活躍。JRA・GⅠ勝利は04年ダービー(キングカメハメハ)、08年有馬記念(ダイワスカーレット)など22勝、07年にはGⅠ6勝を記録した。公営在籍時を含めてJRA通算1111勝。13年1月に引退し、競馬評論活動を展開中。

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