重量級ファンクからポップファンクまでが味わえるアース・ウインド&ファイアの『灼熱の饗宴』

『Gratitude』(’75)/Earth, Wind & Fire

アース・ウインド&ファイア(以下、EW&F;)と言えば、日本では「宇宙のファンタジー」「セプテンバー」「ゲッタウェイ」「ブギ・ワンダーランド」といったディスコヒットで知られるが、本作『灼熱の饗宴(原題:Gratitude)』は収録曲13曲(LP発売時は2枚組)のうち8曲がライヴで、本格派のファンクグループとして圧倒的なパフォーマンスが繰り広げられる傑作である。冒頭の短いMCから重量級のファンク「アフリカーノ/パワー」へと続く流れは、タワー・オブ・パワーの『ライヴ・アンド・リビング・イン・カラー』の冒頭部分と並び、いつ聴いてもワクワクする。今回は彼らがディスコで人気を集める少し前の、ロックフィールを持ったファンクバンド時代の代表作を取り上げる。

モーリス・ホワイトについて

EW&F;のリーダー、モーリス・ホワイトは1950年代にジャズを学び、ドラマーとして活動をスタートする。その後、60年代初頭からチェス・レコードの専属スタジオ・ミュージシャンとして、エタ・ジェイムズ、デルズ、チャック・ベリー、マディ・ウォーターズといった名アーティストたちのバックを務め、R&B;やブルースのグルーヴ感を身につけている。66年にはファンキー・ジャズで大成功を収めたラムゼイ・ルイス・トリオに参加、彼の名前は広く知られることになる。のちにEW&F;でよく使うカリンバ(親指ピアノ)は、このトリオ在籍時から使用している。なお、余談であるが、モーリスはテネシー州メンフィスの出身で、ブッカー・T・ジョーンズ(MG’s)やデビッド・ポーター(スタックス・レコードでアイザック・ヘイズとソングライターを組んでいた)の幼馴染である。

ジャズファンクグループから ポップファンクグループへ

69年にラムゼイ・ルイス・トリオを脱退し、友人らとソングライター・チームを作るものの成功はせず、弟のヴァーダイン・ホワイトらとEW&F;を結成する。ホーンセクションを含め10人編成の大所帯グループである。ワーナーブラザーズと契約し『デビュー(原題:EW&F;)』(’71)と『愛の伝道師(原題:The Need Of Love)』(’71)の2枚のアルバムをリリースする。この2枚のアルバムはジャズ寄りのファンク作品で、ニューソウルの香りもする秀作だ。全米チャートでは、デビューアルバムが24位、2ndアルバムが35位とまずまずの結果となったが、モーリスにしてみれば、出来はともかくビッグセールスでなければ意味がないと考えたようで、結局ヴァーダイン以外のメンバーを入れ替え、再スタートを切る。

そういう意味で、ここまでのEW&F;と以降のEW&F;は名前は同じでも、中身はまったく違うグループとして考えるべきだろう。新生EW&F;にはフィリップ・ベイリー、ロニー・ロウズ、ラリー・ダンといった後に世界的に知られるアーティストが加入する。また、モーリスはヴォーカルに専念するためにドラムにラルフ・ジョンソンが参加、再デビュー時は8人編成となった。この布陣で活動していたところ、コロンビア・レコード社長のクライヴ・デイビスに認められ、2枚のアルバムをプロデュースしたジョー・ウィサートとともにコロンビアレコードへの移籍が決まる。

再編したEW&F;は、サンタナやシカゴのようなロックグループや当時のニューソウル(マーヴィン・ゲイ、ダニー・ハサウェイなど)にファンクを加味したスタイルで、3rdアルバム『地球最期の日(原題:Last Days And Time)』(’72)をリリースする。このアルバムには、ブレッドやピート・シーガーの曲を収録するなど、これまでのEW&F;と比べると垢抜けしたポップなサウンドに転化している。しかし、黒っぽいファンクナンバーも忘れず演奏しているところがEW&F;らしい部分である。

続く『ヘッド・トゥ・ザ・スカイ』(’73)では、ギターがローランド・バティスタからアル・マッケイに、サックスのロニー・ロウズからアンドリュー・ウールフォークへと入れ替わり、EW&F;の黄金期を支えるメンバーが揃うことになる。このアルバムでは、ファンクやポップソウルに加え、ラテンやロックなどの要素が濃くなり、前作と同様に黒人リスナーだけでなく白人リスナーも視野に入れたサウンド作りとなっている。全米ソウルチャートで2位まで上昇、EW&F;の名は一気に知られるようになる。彼らは白人中心のロックフェスにも積極的に参加しており、他の黒人ファンクグループとは違った売り方で勝負している。そのあたりはスライ・ストーンのやり方を参考にしていると思われるが、EW&F;のフロントマンとして動き出したモーリスのマーケティング力に拠るところが大きいのではないか。

モーリスの念願、 ポップ&ソウルチャートで全米1位に

続く『太陽の化身(原題:Open Our Eyes)』(’74)はファンク度にキレが増し、バラードナンバーでのベイリーのファルセットが的確にキマるなど、EW&F;の特徴とも言えるポップファンク・サウンドが完成する傑作となった。そして、このアルバムは彼ら初の全米ソウルチャート1位を獲得する。

次作『暗黒への挑戦(原題:That’s The Way Of The World)』(’75)は、映画のサントラとして制作された。映画はコケたものの、このアルバムは大ヒット曲の「シャイニン・スター」(全米1位)や「暗黒への挑戦」(全米5位)が収録され、前作に勝るとも劣らない仕上がりとなっている。全米ソウルチャートで1位となっただけでなく、モーリスの念願であったポップチャートでも1位を獲得し、EW&F;は誰もが認めるトップスターの仲間入りを果たした。

本作『灼熱の饗宴』について

ところが、彼らを黒人ファンクバンドとして見ていた人間にとっては『太陽の化身』や『暗黒への挑戦』(それにしても、この邦題はなんとかならんか…)は、作品として良い出来ではあったが、軽くなりすぎていて僕は物足りない部分を感じていたのも事実である。

そして、2枚組(LPリリース時)でリリースされたのが本作『灼熱の饗宴』(’75)である。前作同様、ポップ&ソウルチャートの両方で1位となった。アルバムは冒頭で述べた、ドラが3発〜グループ名を言うだけのMCがあって『暗黒への挑戦』に収録された「アフリカーノ」と『地球最期の日』に収録された「パワー」のメドレーから始まる。…この一曲の黒っぽい粘っこさはハンパない。ホーンセクションの煽りやオーディエンスとのコール&レスポンスなどもあって、これこそファンクだと言いたくなるようなグルーブである。

2曲目の「ヤーニン・ラーニン」の弾けた破壊力も凄い。ラムゼイ・ルイスの「太陽の女神」ではサックスとエレピが弾き(吹き)まくり、まるでフュージョン・グループのような顔も見せる。前作に収録された大ヒット曲「シャイニン・スター」も、スタジオ録音と比べるとアドリブが多くスリリングな仕上がりになっている。ライヴは、9分強におよぶ「ニュー・ワールド・シンフォニー」までで、以降の「サンシャイン」、シングルカットされた「シング・ア・ソング」(全米5位)、「グラティテュード」「セレブレイト」「キャント・ハイド・ラブ」はスタジオ録音で、どの曲も粒ぞろいである。

本作にイチャモンをつけるとすれば、ライヴの圧倒的なパフォーマンスに比べてスタジオ録音はおとなしいがゆえに、アルバムとしてのバランスが悪いこと。そうは言っても、これだけ熱いパフォーマンスを味わえる機会はそうないので、まだ未聴の人はぜひ聴いてみてほしい。EW&F;は本作さえあれば完結すると言う人も少なくなく、それだけ素晴らしい演奏が詰まった傑作だと言えるのだ。

TEXT:河崎直人

アルバム『Gratitude』

1975年発表作品

<収録曲>
1. イントロダクション/Introduction by MC Perry Jones
2. アフリカーノ/パワー/Africano/Power
3. ヤーニン・ラーニン/Yearnin' Learnin'
4. デヴォーション/Devotion
5. 太陽の女神/Sun Goddess
6. リーズンズ/Reasons
7. メッセージを君達へ/Sing a Message to You
8. シャイニング・スター/Shining Star
9. 新世界シンフォニー/New World Symphony
10. インタールード1/Musical Interlude #1
11. サンシャイン/Sunshine
12. シング・ア・ソング/Sing a Song
13. 感謝/Gratitude
14. 祝福/Celebrate
15. インタールード2/Musical Interlude #2
16. キャント・ハイド・ラヴ/Can't Hide Love
17. ライヴ・ボーナス・メドレー/Live Bonus Medley

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