クルマでも「アップデート」が本格的に、その意味を人気モデル3車から解説

最近、発表になった改良モデルの多くは“アップデート”という表現を使ってデビューしてきます。これまでのマイナーチェンジという考え方と何が違うのでしょうか? 最新の人気3車のアップデートで確認してみましょう。


OTA(Over the Air)というアップデート手法

クルマの場合、アップデートと言えば、ナビソフトやエンジンのコンピューター制御ソフトなどの更新を思い起こします。とくに先進運転支援システム(以下、ADAS)やコネクテッド機能など話題のシステムも次々と搭載される昨今、こうした車載ソフトウェアのアップデートや修正などは必要に応じて行われるのが当然のことです。

さらにOTA(Over the Air)というアップデート手法はスマホなどではもはや当たり前ですが、クルマの世界ではようやく本格的な動きになってきています。無線通信を経由してデータを送受信することで車載ソフトウェアのアップデートを行います。EVで知られるテスラなどではすでに運転支援機能などの更新はOTAによるソフトウェアのアップデートが行われています。もちろん今後は5Gによって通信速度が上がれば、ますますOTAは飛躍的に注目度が高まって行くことになります。

ところがハードに対する改善が必要になる場合はOTAだけでは完了できない更新がほとんどです。それはパーツやメカニズムの更新といったハード面での変更なのですが、国産メーカーなら2~3年に1度のマイナーチェンジ、ヨーロッパメーカーなら1年ごとに行う年次改良、さらには大規模なマイナーチェンジなどが実施タイミングとなるでしょう。最近では日本車メーカーでも、マイナーチェンジ以外でも、こうしたこまめなハードのアップデイトを行うことで、ユーザーの満足度を、より高めています。

マツダCX-5は職人気質の改善

マツダCX-5もそんなハードの改善を行った1台です。走行性能の向上、そして装備の拡充というアップデートを行ったばかりです。現行モデルが登場したのは2016年12月ですが、実はCX-5、今回で5回目となる“商品改善”となります。最近のマツダは改善すべきと考えると可能な限り、速やかに実施します。さらに技術的な改善は他のモデルにも展開され、商品力を向上させていこうとつねに考えています。

パワーユニットの性能向上やコネクテッドシステムの採用、そしてラインナップの拡充と、多方面にわたり商品力の強化が図られた「マツダCX-5」。

そこで今回の変更ポイントですが、SKYACTIV-D 2.2のディーゼルエンジンをよりパワフルにしました。最高出力を190psから200psに向上させ、トルク特性を変更して追い越時やスタート時などで、よりパワフルな加速を実現しました。これと同時にアクセルペダルの操作力を、この強烈な低速トルクを発揮するディーゼルエンジンにより最適なフィーリングとしました簡単に説明すると、これまでのアクセルの踏み応えをバネレートの変更によって少し重くしました。
「少し重くした?」と最初は不思議でした。

しかしテストしてみると足先の感覚だけですが大きく変わった印象がありません。ほんのわずかな変化というのですが、出力が増大したディーゼルエンジンをただただレスポンス良く回してくれるという感じです。あからさまに変化が伝わるような変化ではなく、とにかくエンジンの出力を上げたのだから、それに最適なアクセルの重さを提供しようという、なんとも職人気質の改善だと思いました。

しばらく走っていくうちに、多少、重めのアクセルの方が加減速のコントロール性が良くなって、細かな調整が効くということも理解できました。素早く加速したいような場合でもタイヤの路面を掴む力をしっかりと路面に伝え、タイヤが空転してパワーロスを起こすようなことは、ほとんどありません。適正なパワーを最良の形で発生させるというこの改良は、一見地味ではあるのですが、アップデイト前にも増して軽快な走りを実現出来ることに繋がっていました。マツダ流に言えば「人馬一体。意のままになるコントロール性」をより高めるためのこだわりなのでしょう。

この変更の他に使い勝手も向上させています。まずセンターディスプレイのサイズを従来の8インチ(8.8インチもある)から10.25インチに拡大していますから、視認性も操作性もよくなっています。ユーザーからの要望が多かった「360度ビュー・モニター」が全車標準装備にもなりました。

インフォテインメントシステム「マツダコネクト」はセンターディスプレイのサイズ拡大によってより使いやすくなりました。

おまけに全モデルに車載通信機を標準で設定としたことで、コネクティッドサービスは向上しました。スマートフォンアプリである「マイ・マツダ」との連携による利便性も向上したことで、緊急通報サービスなども含めて、ユーザーのサポート力もより向上しています。

ガソリンエンジン車も含めた価格帯は267万8,500円から375万1,000円(XD L Package)、さらに100周年特別記念車が414万1,500円となっています。さすがに価格据え置きと言うことはありませんが、それでも数万円のアップに収めた、納得の価格設定だと思います。

レクサスLSはさりげなく全方位で改善を実現

次のアップデートカーはレクサスのフラッグシップ、LS。どのモデルも1千万円オーバーのプレミアムサルーンです。ここで磨き上げるべきはやはり「静粛性と乗り心地」を追求するという改善でしょう。こちらも3.5リットルV6ツインターボエンジンの特性を改善しています。実際に走らせてみると、スタートから力強さと、何よりもスムーズに静かに速度を上げていく感覚が、なんとも心地よく感じます。旧型でも十分に満足できたのですが、この新型のアップデイトはこれまでの上質感をさらにアップさせていたのです。

レクサスこだわりの新たなシルバーのボディカラー「銀影(ぎんえい)ラスター」は独特のしっとり感があります。

「いったいどこが変わったのか?」と自らに問うても、変更箇所を即答できないのですが、一方でこれまでLSに抱いていた静粛性や極上のスムーズネスは、相変わらずレベルが高いことはしっかりと伝わってきます。レクサスのLS、走りでも相変わらずレベルが高い、という印象は自分自身の中でも上書きされていくのです。

試乗後にエンジニアの皆さんに聞けば「日常的によく使用する速度域や走行シーンでのトルクの立ち上がりを向上させました。アクセル操作に対して発生するエンジントルクの精度も向上させて、加速レスポンスを向上したのです」とのこと。

文字にしてしまうと、これだけなのですが、実はエンジンの燃焼室形状の最適化やコンロッドという部品の形状を最適化したり、クランクシャフトのクランクピン径を拡大したりとけっこう手を入れています。

エンジンの改善はこれだけではないのですが、他にもシフトスケジュールも変更して、一つのギアが担当する速度範囲を広げて、シフトダウンの頻度も減らしました。足回りの変更では振動吸収と柔らかな座り心地を向上させ、さらなる快適性を向上させているのです。

書き出せば切りがないほどの改善が施された新型LSの走りなのです。静粛性を高めたり力強さを向上させたり、レスポンスを上げたりと、全方位で改善こそが、一見地味に見えるのですが、レクサスのようなプレミアムカーにとっては重要なセールスポイントになるはずです。これまで大切にしてきたスムーズで静粛性の高い走りをさらに磨き上げることは、次期モデルへの技術的な継承の意味もありますが、なによりも、こうしたさりげなさの中で基本部分をしっかりとアップデイトしたことになります。

あと1点、今回の変更で気になったのがレクサス最新のシルバーと呼ばれる「銀影ラスター」という新色を用意したことです。写真では分かりづらいかもしれませんが、これがなんとも艶めかしいというか、濡れたような印象の新カラーを採用したことです。

西陣織の銀糸やプラチナ箔(はく)を使い、月明かりに照らされた「月の道」を表現したというインテリアは上質感がたっぷり。

なんでも「満月の前後数日間だけ見ることができる神秘的な自然現象“月の道”がモチーフ」に、内外装を仕上げたといいます。確かに存在感があり、日の下で見てもしっとり感が伝わってきます。これは人気色になりそうですが、オプション価格は、33.3万円とこのテのプレミアムカーとしてはリーズナブルなことに驚きました。こすったら高そうだなぁ、などと思うのは庶民の私だけでしょう。新型のガソリンエンジンの価格帯は1,073万円から1,580万円、ハイブリッドモデルは1,219万円から1,728万円は納得の仕上がりだと思います。

メルセデス・ベンツE200 ステーションワゴン スポーツ

メルセデス・ベンツの気になるアップデートカーといえばEクラスがあります。今回は2016年に登場した現行モデルの大規模マイナーチェンジという感じですが、メルセデスはこれを新型と呼びます。外見を見ただけでもかなり変更されていますから、新型と呼ぶのも理解できるほどの変身ぶりなのです。

そんなEクラスの中で走りと実用性のバランスの良さ、安定したブランド力、そしてライフスタイルのジャストフィットの実用車という点で魅力的な選択の最右翼に来そうなのが「E200ステーションワゴン スポーツ」でしょう。実は個人的にお金があったら、すぐにでも欲しい1台でもあります。

そのステーションワゴンを走らせる前に内外装の変更点をチェックしました。日本流ならマイナーチェンジのはずですが、フロントマスクではヘッドライト形状が変更になっています。とても切れ長なデザインで表情が引き締まります。さらにグリルも台形型へと変更され、最近のメルセデス流儀です。バンパーの形状の変更もありますから、まさしく新型と呼ぶにふさわしい変更とも言えます。

大きくインテリアの変更はないのですがステアリングは新しいデザインです。

インテリアは外観ほどの変化ではないのですが、ステアリングデザインなどが変わりました。こうした見た目の変化以上にメルセデスご自慢のMBUX(Mercedes Benz User Experience)が大きく進化しています。ナビゲーションでも目的地までの案内がより分かりやすくなっています。

走り出してみても直列4気筒1.5LのターボエンジンにBSG(Belt-driven Starter Generator)というシステムと、48V系のモーター駆動を組み合わせたマイルドハイブリッドです。これがとてもスムーズで乱暴な部分がほとんどなく、とても扱いやすいユニットになっています。さすがにパワフルという走りを望むなら上位グレードのエンジンを選択することになりますが、ごく普通にショッピングやレジャー使いなら「これでも不足は感じない」というレベルにはなっています。

もっともベーシックでステーションワゴンの魅力に溢れたグレードで810万円から最強のE 450 4MATIC Stationwagon の1,203万円までと、ラインナップが豊富な点も魅力です。フルモデルチェンジにはない確実な改善は、やはり魅力的。そこで重要なのは「買った直後にアップデートされちゃった」ということがないように、変更タイミングを見極めて購入プランを立てることだと思います。一方で、アップデート直前のモデルを格安で購入するための交渉材料にも使えるなど、情報収集は大切です。

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