親の「空き家」を管理する方法、最低でも月1回行うべきこととは?

他人事ではない「空き家」問題。前回、空き家の相談・管理を行うNPO法人「空家・空地管理センター」の伊藤雅一理事から指摘されたのは、空き家を放置しておくことのリスクと、先延ばしにすれするほど解決し難くなるということでした。

逆に言えば、早めに対処すれば負担を最小限にでき、利益を生む資産に変えられることも。今回はより具体的に空き家の活用法、管理の方法を伺っていきます。


固定資産税を払い続ける?

――空き家の利活用方法、どう考えたらいいでしょうか

前回も申し上げましたが、その空き家や空き地が必要な資産なのか不要な資産なのか。今後有効活用したい、持ち続けたい資産なのかでアドバイスが変わります。

たとえば、山の中に空き家が建っていて、固定資産税は年間1万円。これを壊すのに150万円かかるとします。費用負担が最小なのは、固定資産税を払い続けること。建物が傾いていようが、近隣に迷惑がかからないのであれば、朽ちていくのを見ているというのも一つの選択です。しかし、そんな負の資産を子どもたちに残すのか? そう考えたとき、更地にして処分をし、自分の代で終わらせるというのも前向きな選択です。逆に、孫が別荘を建てたいということであれば、持ち続けるべき資産になる。

――まずは、その家や土地をどうしたいか、ですね

お金を生み出すものであれば、よりよい活用の方法を考える。いらないというのであれば、今後、不動産価格が大きく上がるとは考えにくいですから、早めに売ってしまったほうがいい。放置して所有しているだけでも、その土地の固定資産税と管理責任はついてまわりますから。

――前回も早めに売ったほうが、コストを抑えよりよい条件で売れるとのお話がありました

特に今、コロナバブルというわけではありませんが、不動産はかなり動いていて、在庫がなくなるくらい売れている状態と聞いています。

新型コロナウイルスの流行でライフスタイルが変わり、不動産に求めるものが変わっています。これまでは、駅近だとか「立地」が重視されましたが、今は「広さ」が重視されています。リモートワークになり都心にある会社へ行くのは週1〜2回。通勤に1時間半かかってもいいから、もう一部屋ほしいという人が増えているんです。

――コロナで地方移住が注目されているとも聞きますね

実際問題として、都内に住んでいた人が北関東の山奥に行くということは、そうあるわけではありません。ただ、先ほど言った理由で、都心郊外のオールドニュータウンに移ろうとする方は増えていますね。首都圏では、国道16号線の少し外にあるベッドタウンの、大きめの間取りの中古住宅の流通が特に盛んになっています。

過疎地の場合は?

――一方で、地方都市や過疎地は難しいですか?

それも一概には言えないんです。不動産サイトには、エリアや間取り、駅からの距離などが条件になっていますが、そういう基準とは無関係の偏ったニーズというのが確実にあります。

田舎暮らしをしたい人には山奥の過疎地は選択肢になるでしょうし、津波のリスクが指摘される場所でも、たとえば海まで2分の家はサーフィンをする人には魅力的。そうしたニーズとマッチングできれば、売却をしたり貸すことができます。「どうせ売れない・貸せない」と凝り固まって考えるのではなく、柔軟に考えるといいと思います。

――手放したくはないという場合、人に貸すというのもひとつの活用方法ですよね

先ほど言ったように郊外の人気は上がっていて、かつ、広い一戸建てで子育てをしたいという人は少なくありません。すでに周辺にアパートが建っているようなエリアであれば、一戸建て賃貸はニーズがあります。うまく賃貸できると家賃収入が得られますし、人が住むことで家の老朽化を防ぐことができるというメリットもありますね。

――デメリットはありますか?

賃貸といっても、その方法はいくつかあります。ひとつは、自身が貸主となり、借主と契約するといった方法。ただ、家の傷みが激しいと賃貸に出す前に修繕する必要がありますし、貸したあとでも家に不具合が出ると、その都度修理をしなくてはならなくない。また、借りていた人が退去したら、次に貸すためにリフォーム費用がかかります。場合によっては、出費ばかりがかさむことになる。こうした賃貸経営のリスクは事前に考えておくべきですね。

――簡単ではないですね

自分で貸すのではなく「サブリース」という方法もあります。「サブリース」は事業者が空き家を借り上げ、事業者がリフォームなどをして貸し出して、契約期間が終わればオーナーのところに戻ってくるというもの。管理がかからず、一定の賃料を受け取ることができます。

――それなら、賃貸経営のリスクはありませんね

今後、利用者は増えていくと思います。あと、親が生きている間は住み続けるけれど、その後は処分していいというケースであれば、「リースバック」という方法もあります。自宅を事業者に売り、その代金は一括で受け取りつつ、家賃を支払って生活し続けるというものです。ただ、売って価値があるところでないと事業者も買ってはくれません。土地を担保に融資を受け取る「リバースモーゲージ」も同様ですが、その土地や家に価値があることが前提となります。都心部など、利用できる場所は限られる方法になってしまいますね。

――売ることも、貸すこともできない場合はどうしたらいいのでしょうか

周辺状況にもよりますが、駐車場にするのがもっとも費用負担が少ない利活用の方法です。家屋を壊して砂利をひいて、駐車場として貸し出す。家屋を壊すことにより住宅用地の特例が無くなり土地の固定資産税は上昇しますが「家賃収入と固定資産税がトントンにできればいい」という人は多いですよ。ただ、郊外になると駐車場のニーズは低くなるので、これも都市部での話になりますが。

――地方のどうしようもない場所はどうしましょう

過疎地で不動産屋さん自体がないところでは、正直、難しい。諦めるというと言葉は悪いですが、隣地の方にタダでもいいからひきとってもらうというのもひとつの方法です。

――いらないと思っていても、タダで手放すとなると抵抗があります

気持ちはわからなくもありませんが、少なくても、その先ずっと続く固定資産税の負担と管理責任からは免れることができます。あとは、親族全員が相続放棄して、家庭裁判所に相続財産の管理人を立てて国庫に帰属させるという方法もありますが、これもお金と時間がかかる。不動産の処分というのは、単純じゃないんですね。

――捨てることもできない……

地域の不動産屋さんに相談して、「活用したい人がいたら声をかけて」と言っておくといいと思います。何にも使いようのないように思われる土地でも、「管理地」の看板を立てておくとトラックを止めたいとか、資材置き場にしたいとか、意外なニーズはなくはない。そういうところに借りてもらえるとすごくいいですよね。

空き家として管理する場合

――では、今は空き家にせざるを得ないけれど、数年後に住む。あるいは、売買や賃貸などの活用をする、という場合。何に気をつけて「空き家」にしておくといいか、教えてください

事前の準備として、まずは事前に自治会長さんやご近所にあいさつをして、「問題があったら連絡をください」と連絡先を伝えておくことが大切です。そして、月1回、空き家の管理に行くときに、一声かける。

――やっぱり、月イチの管理が必要ですか

人が住まなくなった家は急速に朽ちていきます。人の出入りがないので換気がされず、湿気がこもってしまう。湿気、結露、カビが家を劣化させる大きな原因です。月1回、定期的に訪れて風を通す。タンスや戸棚も空けて、空気を入れ替えましょう。

そして、通水も忘れずに。長期間水道を使用しないと、排水管の中の水が蒸発してしまう。すると、下水からにおいが立ち上り、これが空き家の嫌なにおいの原因になるんです。管理に訪れた際は、1分くらい水を流しっぱなしにして水を通しましょう。

――水道を止めてしまう場合もありますよね

水道を止めると、水道管が錆びる原因になります。ただ、止めておかないと基本料金がかかるので、難しい判断にはなりますが……。におい対策としては、もし水道を止めてしまっている場合は、排水口に蓋をしておくといいと思います。

あと、室内は掃除をして、部屋の壁や天井をチェックをしていて、雨漏りしていないかを確認。建具の動作も見ておくといいでしょう。

――あと、特に気にしておくべきことはありますか?

注意して見てほしいのが、屋根と外壁です。屋根や外壁は10年〜15年周期でメンテナンスが必要な場所。放っておくと、瓦の下の防水シートの劣化等により雨漏りなどの原因になります。また、最近は大型の台風が来ることが多く、瓦のズレなども見ておきましょう。

――これを月1回……大変です

とくに、遠方に住んでいたりするとなかなか難しいですよね。しかも、今年は新型コロナウイルス流行で移動がままならなくなっている。私共でも空き家管理サービスを行っていて、今年は実家の空き家を見に行けなくなったと問い合わせが1.5倍になりました。時間や手間、移動の費用などをトータルに考えると、管理を業者に頼んだほうが結果的に安くあがったりします。

――放置して積み重なるコストやリスクも考えて、ということですよね

確かに、めんどうくさいとは思うんです。それでも、早め早めに動いてほしいと思います。悩んだり、迷ったりしたら相談するといい。私共のような団体もありますし、自治体が主催して空き家の相談会はいろいろなところで行われています。繰り返しになりますが、「親が施設に入りました。空き家になったので相談したい」では遅いんです。

伊藤雅一 NPO法人「空家・空地管理センター」理事。
同センターは、空き家・空地の管理のほか、各種調査やデータを公表、活用に関するコンサルティングを行う。渋谷区や所沢市などと自治体と連携し、セミナーや相談会を実施。東京都の「空き家利活用等普及啓発・相談事業」の実施事業者にも選定されている

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