大規模事例は国内初 五島で潮流発電 導入探る、脱炭素へ新たな選択肢に

 国内初となる大型潮流発電事業の実証実験が今年、長崎県五島市で始まる。500キロワットの大型の発電機を海底に設置し、発電状況などを検証。これまで本格的な大規模実証事例はなく、今後の潮流発電導入に影響を与えそうだ。将来的には県内企業の参入も期待されており、検証結果が注目される。

奈留瀬戸の海底に設置予定の潮流発電機のイメージ(九電みらいエナジー提供)

 潮流発電は、潮の干満を利用して発電する方法。天候の影響を受ける風力や太陽光などの再生可能エネルギーと比べると発電量が予測しやすい。発電機は海中に設置されるため視覚的、聴覚的な影響が少なく、船舶の航行や漁業の支障にもならない。
 採算に関わる「設備利用率」(フル稼働時の発電能力に対する実際の発電量)も高いとされる。太陽光の15%、陸上風力の25%に対して、洋上風力と潮流は30~35%程度と見込まれている。政府は2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにする目標を掲げる。多様な電源が必要とされる中、新たな再エネの選択肢として期待されている。
 欧州では16年から潮流発電の商業化が始まったが、日本では研究実証の段階。比較的容易に設置できる太陽光発電などから再エネの普及が進んできたが、平地が少なく、関連施設を陸上に設置できるスペースは減少している。
 対して日本を取り囲む海に目を向ければ、広大なスペースがある。流速が早く潮流発電に有望とされる海域は特に西日本に多く、県内では平戸や針尾瀬戸、田ノ浦瀬戸などが適地とされる。その数は他県に比べて圧倒的に多い。
 五島市での実証実験は、環境省の委託を受けた九州電力子会社の九電みらいエナジー(福岡市)をリーダーに、長崎海洋産業クラスター形成推進協議会などが実施する。場所は同市久賀島と奈留島の間に位置する奈留瀬戸。国が再エネの実証地域に指定する海域だ。流速は最大毎秒3メートルで、発電に必要な「毎秒1メートル以上」を上回っている。
 発電機は既に商用化しているイギリス製を使い、深さ約40メートルの海底に設置する。高さは7階建てビルに相当する約23メートル。3枚のプロペラが1分間に7~12回転して発電する。発電量は1家庭3キロワットと仮定し、最大150軒分を見込む。

実証実験の今後のスケジュール

 1月中旬に発電機の設置工事を開始。2月下旬からの実証実験で発電状況のほか、発電機設置の施工方法などを確認する。将来的には県内企業が設置や撤去、メンテナンス作業を担えるよう、高い技術力を持つ海外技術者のノウハウを学ぶ機会ともする。3月末までの予定だが、環境省は期間の延長も検討している。
 同社は実証実験の結果を踏まえ、発電出力を高めて商業化を目指す。ディーゼル発電を柱に地域の電力を賄っている離島が潮流発電導入の適地と考えており、実現すれば温室効果ガスの排出削減につながる。
 ただ、最大の課題はコストの高さだ。潮流発電は1キロワット時当たり50円程度と、太陽光や風力の倍以上。経済性はまだ低い。同社は「発電機の量産化でコストが下がってくるだろう。新しい選択肢として海洋エネルギーを有効活用できるよう、基礎的な情報・技術的知見などを集めていきたい」と話した。

実証実験で使うタービン発電機(九電みらいエナジー提供)

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