過疎地に流入する若者から考える豊かさの意味 「小規模、分散、ローカル」で持続可能な世界を

笑顔で話す藤山浩さん=2020年12月6日、島根県益田市

 新型コロナウイルスの流行が暮らしを脅かし、人々の価値観が揺らぐ中、「大規模、集中、グローバル」を追求してきた日本の経済構造に疑問を投げかける研究者がいる。一般社団法人「持続可能な地域社会総合研究所」(島根県益田市)の藤山浩所長だ。20年余り中国山地の過疎問題を調査した経験から、お互いに顔が見える生活圏である「地元」から世界を創り直すことが暮らしの豊かさにつながると主張する。新たな指針として「小規模、分散、ローカル」を提唱する藤山さんに聞いた。(共同通信=浜谷栄彦)

 ―地元から世界を創り直すとは。

 東京一極集中によって田舎はヒト、カネだけでなく自己決定権まで奪われてきた。この30年は特にそうだ。平成の大合併が拍車を掛けた。今、結果的に合併を選ばなかった自治体、無茶な合併をしなかった町村が元気だ。例えば高知県の檮原町は人口3400人の小さな町でありながら6つの区が住民自治を実践し、若い世代が増えつつある。なぜ地元からなのか。これから本気で循環型の経済構造に変えていくためには小さな地域から組み直さないといけない。日本人は暮らしをないがしろにしてきたのではないか。暮らしの舞台は地元。人が幸せになる土台として、地元は重要だし、民主主義にとっても大切だ。

 ―新型コロナは「大規模、集中、グローバル」の問題点をあぶり出した。

 新型コロナ自体が過去のウイルスに比べて極端に毒性が強いわけではない。ところが、東京一極集中が加速し、日本だけで年間数千万人も訪日外国人客が来るようになり、過密を前提にしたビジネスを展開した結果、新型コロナの影響が大きく広がっている。20年前だったらここまでの騒ぎになっていたか。ひたすら、大規模、集中、グローバルに向かって疾走してきたところに問題がある。一見すると効率的だが、実は脆弱な経済構造になっていた。

オーストリアの田舎町、クフシュタインの伝統的な中心街。活気があり、地下には森林バイオマスによる熱供給システムが整備されている=2019年9月(藤山さん提供)

 大規模、集中、グローバルを全否定はしないが、一辺倒になるのは良くない。2019年にドイツ、オーストリア、スイスを視察した。いずれも、大規模、集中、グローバルだけでなく「小規模、分散、ローカル」との2軸で社会が営まれている。三カ国とも田舎町がしっかりしている。家々のつくりは重厚で、町の中心部は活気があり、住民の間に暮らしを大切にしようとする意思が見える。

 ―2014年、当時の安倍政権は地方創生を打ち出した。

 ポーズというか、やっている感が先行している。投じている予算も年間数千億円の前半。全ての市町村は救えないからパン食い競争をさせているように見える。僕が一番嫌いな言葉は「選択と集中」。行政が主権者にそれを言ったらおしまい。ついて来られるやつだけついて来いという考え方は間違っている。地方創生を旗印にしつつ、本気で人材、財源、権限を地元に戻そうとはしない。

近畿中国四国地方の、2014年の25~34歳女性と19年の30~39歳女性の増減率を示した図。5%以上の増加を示す赤が隠岐諸島や中四国の山間部に点在していることが分かる。(持続可能な地域社会総合研究所提供)

 ―地元から創り直すためには人材が必要では。

 大切な視点だ。地方の大学で地元の歴史や社会構造を教える先生が少ない。東京一極集中の経済ばかり教えるから、学生はオルタナティブな道が存在することが分からない。2020年に地元のジャーナリストを含む有志と『みんなでつくる中国山地』を創刊した。大学生も編集に参加している。

 実は今、変化に敏感な若者たちが田舎に入り込んでいる。少なからぬ山奥や離島で若い世代の流入が流出を上回り始めている。「縁辺革命」とも言うべき現象だ。このうねりを大きくしたい。オンライン大学というか、未来へと生き抜くビジネススクールを開校したいぐらいだ。それをやらないと、大都会で我慢して生きる以外にもう一つの道があることを示せない。稼いで買うばかりではなく、食物やエネルギーなどを自らつくり分け合う暮らしがあることを知ってほしい。

森に囲まれた自宅の前に立つ藤山浩さん=2020年12月6日、島根県益田市

 ―とはいえ、田舎の市町村の財政は国、県に大きく依存している。

 現時点で財政が外部に依存していることは確かだが、財政だけでなく地域経済の循環全体で考えるべきだ。例えば島根県の中山間地域で、人口1000人が基本的な経済圏を形成しているモデルでお金の流れを試算してみたら、こうなる。

 県民の平均に準じて1人当たりの年間所得を240万円とすると圏域の総所得は24億円。支出を見ると、医療・介護費用が約6億円。食費、交通費、エネルギー代が計約8億円で、うち約6億円が域外に流出している。

 この流出分をどう取り戻すかが大事。ドイツ、オーストリアのように地元にエネルギー・交通公社を設置することでかなりの流出を防げる。さらに人と物資を効率的に運ぶためのハブとなる拠点を地元につくればエネルギーのロスも小さくできる。

 ―田舎には希望がありそうだ。

 中国山地の面白さは世界的に見ても究極の小規模分散にある。地形がなだらかで薪炭という再生可能なエネルギーがあり、食料も自給できた。さらに、たたら製鉄という産業もあったので域外から富を得られた。最盛期は2万近い集落があった。まさに集落の銀河系。そして石油が普及した瞬間、だめになった。

 日本で最初に過疎が始まった地域が、最も早く過疎を終わらせる可能性を秘めている。日本も遅ればせながら、2050年に炭酸ガス排出を実質ゼロにすると表明した。この30年に、待ったなしで循環型社会に転換していく時代だ。田舎こそが持続可能な未来に先着できる可能性を秘めている。地域社会の未来形と工程表をみんなでつくり、この2020年代を歩き始めたい。

  ×   ×   ×

インタビューに応じる藤山浩さん=2020年12月6日、島根県益田市

 藤山 浩(ふじやま・こう) 1959年生まれ。島根県益田市出身。一橋大経済学部卒業後、県立高教諭、株式会社「中国・地域づくりセンター」主任研究員、 ニュージーランド留学、広島大学大学院国際協力研究科などを経て、98年に島根県中山間地域研究センターに研究員として着任。2017年に独立、一般社団法人持続可能な地域社会総合研究所を設立し所長に就く。近著に「日本はどこで間違えたのか」(KAWADE夢新書)がある。

© 一般社団法人共同通信社