沖田浩之の功罪? 父母会の議題は風紀の乱れ、ABCDE気持! 1981年 3月21日 沖田浩之のデビューシングル「E気持」がリリースされた日

ノーラジカセ・ノーライフ、ラジカセは音楽という別世界への風穴

中学時代の私は音楽番組が大好きで、テレビはもちろんラジオ番組にも夢中だった。

『不二家歌謡ベストテン』をはじめ『ダイヤトーン ポップスベストテン』、『コーセー化粧品 歌謡ベストテン』、『ひるの歌謡曲』など、ワンスピーカータイプの垢抜けない父のラジカセをもらい受け、FM/AM 問わず、ウキウキとエアチェックばかりしていた。同じ曲を何度も何度も。まさにノーラジカセ・ノーライフの生活。

そんなある週末、いつものようにラジオを聴こうとして、定位置にラジカセがないことに気づく。「あれ? どこに置いたっけ?」。部屋の机周り、引き出し、棚の上や奥、居間もキッチンも隈なく探しに探したがない! ないのだ! ええええ!? ラジカセはそんな小さいモンではない。勝手に歩き出すモンでもない。一体どこに!?

私は取り乱した。最早この世の終わりである。ラジカセなしでこれからどうやって生きて行けばよいのかわからない。生きていける自信もない。新しいラジカセを買うには来年のお年玉まで待たなければならない。大げさなようだが、中学生の世界は絶望的に狭かった。ラジカセは音楽という別世界への風穴だったのだ。

父母会で “恐ろしい歌” にされた、沖田浩之「E気持」

言葉もなく泣き崩れる私を見て、バツが悪そうに母が切り出した。「押入れの中に隠したわよ」はあ? 今度は怒りで言葉が出てこない。理由がわからない。もしや、毎週、笑福亭鶴光の『オールナイトニッポン』を聴いていることがバレたのか。

すると母曰く。「先日の父母会で中学生の風紀の乱れという議題が出た。最近は性に関して、恐ろしい歌が子供達の間でブームになっている。そういえばリカはラジカセで音楽を聴くのが好きだったわ! そんな歌を聴いていたなんて! 少し懲らしめてやらなければ!」と言い訳がましく説明するのだった。

その恐ろしい歌というのが、沖田浩之の「E気持」なのである。

作詞・阿木燿子、キメのフレーズは「E気持」

 ABC、ABC、ABCD E気持!

作詞は阿木燿子御大だ。

ABCDという隠語は、80年代には古臭いとされた “エッチ” という言葉のアップデートバージョンとして華々しく登場したと記憶する。

ちょうど私は性への興味が半端ないお年頃。興味津々で使っていたものだ。当時の少女漫画には、「B組のA子がドジっちゃってDでさ。カンパ袋回して」なんていうシーンもよく出てきた。流石に実際には遭遇しなかったけれど。

そんな用語を存分に駆使したこの歌詞を『明星』のヤングソングで最初に読んだ時、正直ヤバいと思った。ドキドキして眠れなかった。「Cまでスムース」だの「声を殺した夜明けの中で」だの「おごそかな儀式終わるよ」といった部分が艶かしく生々しく、初体験の光景が頭の中で悶々と繰り広げられていった。

そしてキメのフレーズは「E気持」いやん、まだ知らない大人の世界! まさに妄想駆り立てナンバー!

作曲は筒美京平、爽やかではつらつとした若者ポップ歌謡

でも、曲として聴いた時、爽やかではつらつとした若者ポップ歌謡の魅力の方に私は参ってしまった。作曲は筒美京平先生。特にサビの部分は「常識なんてぶっとばせ 仲間同士さ 手を貸すぜ」と、同志に手を差し伸べ、“UNITE” を訴えかけるような力強さにあふれていて、今でも大好きなシングルだ。

その後、“エッチ” という言葉は明石家さんまが使い出したあたりから大復活を果たし、今なお現役で老若男女に使われている。

けれど、ABCDという言葉はどうなんだろう。また時代が巡って、日の当たる場所に浮上してくる可能性はあるんだろうか。ないとは思うものの、この世に絶対という言葉はない。

ただ、ずっと80年代というあの時代の中で、じっとりとした輝きを放っていてほしいと願うのみである。

あなたのためのオススメ記事 不二家歌謡ベストテン、ロイ・ジェームスとユーミンと日曜日の朝 ※2017年9月9日、2019年1月7日に掲載された記事をアップデート

カタリベ: 親王塚 リカ

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