2020年「老人福祉・介護事業」の倒産状況

 2020年(1-12月)の「老人福祉・介護事業」倒産は118件に達し、過去最多を更新した。介護保険法が施行された2000年以降、過去最多だった2017年と2019年の111件を上回った。
 新型コロナ感染拡大で利用控えなどが進み、経営が悪化した新型コロナ関連倒産も7件発生。人手不足などで経営不振が続く小規模事業者に加え、新型コロナの影響が件数を押し上げた。
 業種別は、「訪問介護事業」が56件(構成比47.4%)と半数近くを占め、深刻なヘルパー不足が影響した。次いで、デイサービスなどの「通所・短期入所介護事業」の38件(同32.2%)で、前年から18.7%増加。大手企業との利用者の獲得競争が激しく、倒産増加の一因にもなっている。
 負債1億円未満が94件(同79.6%)、従業員5人未満が79件(同66.9%)、設立10年未満が65件(同55.0%)と、設立から日が浅く、資金力の脆い小・零細事業者の倒産が大半を占め、息切れ倒産が目立った。
 新型コロナで経営が悪化する事業者が多いなか、政府は2021年度の介護報酬をプラス0.7%に改定する方針を示す。2018年度(プラス0.54%)に続くプラス改定で、苦境に陥った介護事業者の経営を下支えすることが期待できる。
 だが、政府は感染者数の増加などで1月7日に1都3県で緊急事態宣言を発令。新型コロナにより利用控えが長期化する恐れがある。さらに、感染防止対策の強化などの費用負担が経営を圧迫する可能性も拭えない。長引く新型コロナ感染拡大で、経営者の事業継続の意欲が弱まることも危惧され、2021年も「老人福祉・介護事業」倒産は増勢をたどる可能性が高い。

  • ※本調査対象の「老人福祉・介護事業」は、有料老人ホーム、通所・短期入所介護事業、訪問介護事業などを含む。

倒産件数は年間最多を記録

 2020年の「老人福祉・介護事業」倒産は118件(前年比6.3%増)で、これまで年間最多だった2017年と2019年の111件を上回り、最多記録を更新した。
 一方、負債総額は140億1,300万円(同13.3%減)と減少した。これは前年に負債53億8,600万円を抱えて民事再生法の適用を申請した有料老人ホーム経営の(株)未来設計(TSR企業コード:294993290、東京都中央区)の反動減や、負債1億円未満が94件(構成比79.6%)、従業員5人未満79件(同66.9%)など、小・零細事業者を中心に推移したため。

新型コロナウイルス関連倒産は7件判明

 2020年の「老人福祉・介護事業」で、新型コロナ関連倒産は7件判明した。国や自治体、金融機関などのコロナ支援に加え、介護事業者への臨時特例などの効果で新型コロナ感染が拡大した2020年2月から10月までは「新型コロナ」関連倒産は3件にとどまっていた。しかし、11月以降は4件に増え、支援効果が薄れる兆しも目立ち始めた。

介護事業の倒産は年々増加傾向が続いている

 2016年以来、5年連続して「老人福祉・介護事業者」の倒産が100件を上回った。これまで老人福祉・介護業界の倒産は、人手不足や競争激化が主な要因だった。だが、2020年は感染を恐れた利用者の手控えや感染防止対策費の負担増など、新型コロナ特有の影響も重なった。
 歩調を合わせるように、2020年1-10月の「老人福祉・介護事業者」 の休廃業・解散が406件に達するなど、倒産以外で市場から退出する事例も過去最多ペースで推移している。
 政府も新型コロナ支援や業界向け臨時の特例など、継続的に介護サービスを提供できるように対策を講じている。2021年度の介護報酬改定も、感染症対策の強化や介護人材の確保に向けた取り組みを推進する見通しだ。だが、介護職員の定着やキャリアアップ、生産性の向上は容易でない。コロナ禍のなか、介護報酬の改定だけで介護事業者の経営が改善できるか未知数だ。
 高齢化社会が到来し、介護の需要は年々増えるだけに、感染症対策を講じつつ継続サービスを提供するには、細やかなコロナ支援がより不可欠になる。
 今後、緊急事態宣言が各地に広がると、介護事業者は一層の厳しい環境を強いられる。コロナ禍の収束が見通せないなか、2021年も経営基盤の脆い介護事業者の淘汰と休廃業に歯止めがかかる材料は見当たらない。

業種別倒産件数の年次推移(老人福祉介護事業)

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