ソウル西部地方検察庁の起訴状を受けて|柳錫春(元延世大学教授) 「慰安婦は売春の一種」―- 韓国の名門・延世大学で授業中に行った発言により社会から抹殺されるほどのバッシングを浴びた柳錫春元教授。検察は柳氏を名誉棄損の罪で起訴し、まもなく裁判が行われる。「独裁政権が社会を牛耳り、史実を口にすることすらできず、学問と思想の自由を踏みにじる今の韓国に未来はない。私は断固闘う!」

でっち上げたられた慰安婦事件

2020年11月3日、私はソウル西部地方検察庁の崔ジョンギョン検事から送られた「被疑事件処分結果通知書」を受領しました。2020年10月29日附けの通知書で、内容は、私に対する名誉棄損の件に対し、検察側はこの件を在宅起訴にしたとの処分の知らせでした。つまり、検察側は私に名誉棄損罪の疑いがあると判断し、起訴したため、まもなく裁判が開かれるとの通知でした。いうまでもなく、2019年9月19日、延世大学での「発展社会学」講義中に私と学生の間の討論中の、私の発言を問題とした結果です。

学生の中の誰かによって不正な方法で録音された私の発言は、後に録音記録にまとめられ無差別に拡散されました。講義の全体的な流れは完全に無視されたまま、私の発言の中の極めて刺激的な部分だけが切り取られ大々的に報道されました。その直後、「庶民民生対策委員会」(事務総長・金スンファン)は、2019年9月23日、私を名誉棄損などの疑いで刑事告発をしました。また韓国挺身隊問題対策委員会(以下、挺対協、代表理事 尹美香)も、2019年10月1日、私を名誉棄損の疑いなどで刑事告訴をしました。私に通知された、検察の「在宅起訴」の処分は、この告発・告訴に対する警察及び検察の捜査の結果です。

手続きとしてはもっともらしく見えます。しかし、この事件の本質は別にあります。「慰安婦」に対する新しい解釈と討論にさるぐつわをかけて学問の自由を抑圧するため「無理にでっち上げた」事件だからです。私を告発、告訴した団体は、この機会を利用して「慰安婦」という歴史上の現象に対する自分たちの評価と判断を聖域化し、それに食い違った考えが社会に拡散しないように、今回の機会を積極的に活用しています。特に不法に録音された講義ファイルを確保した挺対協は、慰安婦について自分たちと同じ判断をしているメディアの支援を受け、私の発言を再構成することで事件を拡大しています。

定年を控えていた教授の真剣な講義を「スケープゴート」にした挺対協は、韓国国民に慰安婦については「絶対に他の考えをするな」という思想的統制のシグナルを出しています。挺対協は自分たちの判断を誰も挑戦できない既成事実としようとしています。特に、検察がこの問題で私を起訴した事実は、このような挺対協の思想統制の試みに国家権力が手を差し伸べた姿です。ついには、挺対協代表の尹美香は、与党の比例代表として国会にまで進出しました。権力を背負って、学者の口にさるぐつわおかけようとする「挺対協」の醜い姿に、吐き気がします。

検察が講義中にあった私の発言を問題化し、起訴した要旨は次の通りです。

1、「日本軍慰安婦のおばあさんたちが売春に従事するため自発的に慰安婦になった」という趣旨で虚偽事実を発言。

2、「挺対協が、日本軍に強制動員されたと証言するように、慰安婦おばあさんたちを教育した」という趣旨で虚偽事実を発言。

3、「挺対協の役員たちは統合進歩党の幹部であり、挺対協は北朝鮮と連携していて、北朝鮮を追従している」という趣旨の虚偽事実を発言。

このような発言のため、検察は柳錫春が「慰安婦」と「挺対協」の名誉を毀損したと判断し、私を起訴しました。しかし、私は講義中に行った発言が「虚偽事実」だとは全く思いません。 ひいては名誉毀損とも全く思いません。その理由は次の通りです。 検察側が指摘したそれぞれの要旨に対応した説明です。

1「自発的に慰安婦になった」は虚偽発言か

録音記録に記録されているように、講義中、私は慰安婦たちが「自意半、他意半」で売春行為に入るようになったと言いました。「自意半、他意半」という用語は、貧乏という構造的条件に特定の個人が反応して慰安婦になるという状況を説明しようと選択した用語です。貧困から抜け出すためにお金を稼がなくてはいけないと考える過程に、民間の就職詐欺師が介入した状況について、私は「自意半、他意半」という表現をしました。したがって、この発言は虚偽の発言ではなく、真実に基づいた発言でした。売春に従事することになる慰安婦の選択が100%自発的だという趣旨の言葉を私は決して話しませんでした。

一方、「自意半、他意半」という問題は、今日の売春にも同じように現れている問題です。なぜなら、崔ジョンギョン検事が起訴状で指摘したように、今の淪落女性たちも過去の慰安婦のように、「経済的見返りを得るために自発的に選択した職業としての売春に従事した」と見ることができないためです。もし「自意半、他意半」のいう発言が虚偽発言であるなら、売春に関する学術的研究成果を根こそぎ否定する結果をもたらすだけであります。ですから、この発言は過去に存在した、そして今日にも存在する売春の属性を比較研究する必要があることを強調した講義室での学術的な発言に過ぎません。

2「慰安婦お婆さんを教育した」は虚偽発言か

挺対協はこれまで30年間、毎週水曜日に開催するいわゆる「水曜集会」を通して慰安婦おばあさんたちを持続的、そして周期的に集会に参加させ、挺対協の立場とスローガンを繰り返して聞き、ついて叫ぶようにしてきました。一部の慰安婦おばあさんたちは「ナヌムの家」で一緒に暮らしながら挺対協の活動を積極的に支えました。この過程で挺対協は慰安婦たちに「自意半、他意半」で慰安婦生活に入ったという事実から目をそらさせ、「強制動員」されたものと考えさせる効果を得ました。これについて一部では慰安婦たちが「被害者」から「人権運動家」に生まれ変わったという言い方までしています。

しかし、この言葉の意味を解釈するなら、慰安婦たちの証言が「自意半、他意半」から「強制動員」に変えられたという話しでしかありません。この事実は、挺対協が1990年代から2000年代初めまでにシリーズで出版した本『強制連行された朝鮮人軍慰安婦たち』(1~5券)に登場する慰安婦たちの初期の証言と、慰安婦たちの最近の証言や挺対協代表だった尹美香が2016年に出版した本『25年間の水曜日』に登場する記録を比較、検討すると明確に現れます。

初期の出版物はすべて、それぞれの慰安婦たちが「自意半、他意半」で慰安婦生活に入って行く過程を赤裸々に確認してくれています。しかし、最近の慰安婦たちの証言は「強制動員」の方向に話しが変わりました。また、この変わった話しは、尹美香の2016年の本に登場する慰安婦たちに関する「強制動員」の記述と一致します。このような変化の過程について、私は「教育」という表現をしたのです。「食卓教育(家族で定期的に食卓を囲むこと)」も教育ですが、30年にわたって毎週繰り返される学習が教育でなければ果たして何が教育ですか。

3「挺対協の役員が統合進歩党幹部」は虚偽発言か

挺対協の「役員」が統進党幹部だと発言したのではなく、挺対協の「幹部」と統進党幹部が重なっているという趣旨の発言をしました。これは方ヨンスン、崔ジンミ、孫ミヒなどのような人物の存在で裏付けられる事実です。インターネットメディア「メディアウォッチ」が2019年10月11日の「『挺対協の幹部には統進党幹部はいない』という尹美香の発言、虚偽釈明と明らかになる」という記事が、この事実を明確に整理しています。この記事は次のように書いています。もし、この記事が虚偽なら、なぜ挺対協はメディアウォッチを告訴しないのでしょうか。

「本紙の取材結果、現正義記憶連帯の方ヨンスン理事と崔ジンミ理事、そして旧挺対協の孫ミヒ元対外協力委員長がまさに統合進歩党で主要な活動をしてきた人物だったことが明らかになった。方ヨンスン理事は、代表的な統進党幹部の中の一人だ。彼は極左市民団体の「全北キョレハナ」共同代表を務め、統進党全羅北道党委員長はもちろん、統進党の第19代総選挙全州徳津の国会議員候補まで務めた。崔ジンミ理事も同様だ。崔理事は同じく極左市民団体の「全国女性連帯」の執行委員長を務め、2012年に統進党の第19代総選挙共同選挙対策委員会に参加したことが確認された。崔理事は統進党の後身である民衆連合党の金ソンドン大統領選候補の共同選挙対策委員長を務めた事実もある。孫ミヒ元対外協力委員長は「全国女性連帯」共同代表として、統進党の第19代総選挙共同選挙対策委員会の委員長を務めた。孫前対外協力委員長は統進党の後身である民衆連合党(当時仮称、新民衆政党)創党発起人を務めた事実も今回確認された」

結論的に、私の立場は次の通りです。私は講義室で慰安婦や挺対協に対して、虚偽事実を話したことはありません。さらに、虚偽事実に基づいて慰安婦や挺対協の名誉を毀損したこともありません。 ただ、私がしたことは、講義室で学生たちと歴史的な事実、より具体的には慰安婦問題、そして慰安婦と関連した活動をする挺対協に関する様々な争点について事実を基礎にした学術的討論をして私の意見を表明しただけです。

状況がこのようであるにもかかわらず、検察は学問の自由を保護するどころが逆に、学者の口にさるぐつわをはめ、李栄薫元ソウル大学教授が書いた『反日種族主義』などのような新しい研究結果に基づいて学生と共に行った学術的討論を不法だと決めつけ、刑事処罰までするという意志を明らかにしています。民主社会ではありえないことです。私は学問の自由を守り、学者の良心を守るために法廷闘争を含むあらゆる方法を総動員して、不義な権力に立ち向かい闘います。

今、権力を握っている与党が野党の時代、または在野にいるとき、甚だしくはソウルの光化門広場で「金日成万歳」を叫ぶことができてはじめて「真の民主主義」だとまで言っていました。しかし、今は5・18[1980年光州事件・訳注]、4・3[1948年済州島事件・訳注]、親日清算などのような歴史的な争点とともに慰安婦問題でも、権力の支援を受ける特定団体の見解と異なる見解を表明すると刑事処罰ができるようにする、いわゆる「歴史歪曲処罰法」の立法化が進められています。

民主主義を僭称した権力がはばかることなく独裁を繰り広げ、学問と思想の自由を踏みにじっているのが今日の大韓民国の現実です。不義な権力に対抗する国内外の心ある市民はもちろん、この問題に専門性を有する皆様に支持と協力を訴えます。ご支援下さい。柳錫春の側に立って下さい。学問の自由を保護してください。大韓民国は自由民主主義国家です。最後まで闘争して勝利いたします。

ありがとうございました。(翻訳/黄哲秀)

柳錫春

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