容姿だけで「カッコいい」と言えない “草分け”元広島・高橋慶彦氏が憧れた選手とは

広島などで活躍した高橋慶彦氏【写真:編集部】

現役時代、絶大な女性人気を誇った高橋氏が「カッコいい」と憧れた選手の共通点

昭和50年代の広島東洋カープ黄金期を「1番・遊撃手」として牽引した高橋慶彦氏。甘いマスクと躍動感あふれるプレーで、従来の子供や男性のファンのみならず、若い女性をプロ野球に引き寄せたパイオニア的存在の1人といえる。そんな高橋氏が考える「野球選手のかっこよさ」とは何かを聞いてみた。

高橋氏の登場でプロ野球のファン層に変化が生じ、スタンドにそれまで聞かれなかった黄色い歓声が上がるようになった。当時人気絶頂の小説家・村上龍は、高橋氏をモチーフに短編集「走れ!タカハシ」を上梓した。

「そりゃ、若い頃はモテたいと思っていたけれど、自分がかっこいいなんて思ったことはなかった。今考えると、俺はとにかく野球が好きでたまらなかったから、そういうところを感じ取ってくれていたのかなと思うけど……」と振り返る。

高橋氏自身が子供の頃に憧れたプロ野球選手は、阪神の安藤統男氏(後に1軍監督)だった。内外野どこでも守れるユーティリティプレーヤーで、代打でも活躍。主軸選手ではなかったが、「慶応大出身で立ち居振る舞いにどことなく気品があって、打席に立った時の雰囲気がかっこよかった。俺は東京で育ったけれど、安藤さんに憧れて阪神ファンになった」と言う。

広島の若手時代に2軍戦で当時阪神2軍コーチを務めていた安藤氏と対面し、「ファンでした」と打ち明けたことがある。「安藤さんから『慶彦、おまえ守備がうまくなったな』と言われたことがあって、ものすごくうれしかった」と子供の頃さながらの笑顔を浮かべる。

ユニホームの着こなしやイケメンに「かっこよさは感じない」

1軍で活躍するようになってからは、「かっこよさ」を感じる対象の傾向が少しずつ変わっていった。カープで同じ釜の飯を食った先輩の衣笠祥雄氏、山本浩二氏、江夏豊氏…コワモテと呼ばれる人たちで、女性ファンから歓声を浴びるタイプではなかった。「まず、プロとして技術が高いことが第一条件。その上で、男の色気というか、粋でいなせな雰囲気があった」と語る。阪神の主砲を張った掛布雅之氏、身長168センチの小柄ながら首位打者2回、通算2173安打を誇った元ヤクルト・若松勉氏の「かっこよさ」にも心を打たれたと言う。

「最近はイケメンだとか、スタイルがいいとか、ユニホームの着こなしがいいとかで人気を集める選手もいるみたいだけど、俺はそこに『かっこよさ』は感じない。ここぞという場面で絶対打つとか、チームを牽引する力強さや頼りがいがないとね。逆に『そんなにスタイルが良くて野球が下手なら、他の道に行った方がいいんじゃないか?』と言いたくなるような選手も時々いる」と苦言を呈する。

最近、最もかっこいいと感じた野球選手は、2019年3月限りで現役引退したイチロー氏である。

「彼は大記録を達成した時でさえ、派手なガッツポーズなどはしなかった。決して冷めているわけではないが、控えめで節度を保っていた。アメリカでいえばポーカーフェースだろうけれど、いかにも日本人的な美学がうかがえた。強い精神力があるからこそできることでもある」と称賛。「“侍魂”という言葉には、ああいう立ち居振る舞いも含まれるのではないか。侍ジャパンに選ばれる選手にはぜひ見習ってほしい」と付け加えた。

高橋氏は今の球界にもそんな「かっこいい」スターの台頭を待望してやまない。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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