長崎県五島市では8日から9日にかけ、約3年ぶりの大雪に見舞われた。見慣れない銀世界となった街並みを“上”から眺めたくて、普段はなだらかな草原が広がる鬼岳(標高315メートル)に登ってみた。
8日正午すぎ。上下のカッパ、長靴、帽子の完全防備で市中心部の自宅を出発した。10センチ余りの雪が地面を覆い、歩道と車道の区別がつかない。降りしきる雪が、そろそろと歩く人たちの足跡を消していった。
福江空港線の坂道を登る。雪が深いため脚を高く上げなければならず、すぐに息が上がる。走行中の車は少なく、高台から望む市街地は普段よりもずっと静かだ。雪にはしゃぐ子どもたちの歓声がよく響いた。
風雪に揺れるツバキの花を横目に山道を進んだ。周囲の樹木や草、地面まで全てが白く、雪国を歩いているかのよう。途中で、鬼岳から下山してきた知人2人と擦れ違ったが、山頂付近は雪が深すぎて、ソリはあまり滑らなかったらしい。
出発から1時間40分後、鬼岳に到着した。北風が強く雪が横なぐりに打ち付けるため、目を開けるのもやっとだ。股下まで雪に埋まる場所も。遠くの市街地は吹雪でほとんど見えない。
それでも30分ほど待つと風が落ち着き、雲間から日が差し込んだ。足跡の付いていない、白くなだらかな山肌が輝く。草丈の高い山頂周辺は薄茶色だ。急いでカメラを構え、福江港や商店街などの市街地、反対側の赤島や黄島などを撮影。一面の銀世界と鬼岳を独り占めにした気分だ。
帰り際、鬼岳の中腹の牛舎前では、子牛が雪の上を元気に駆け回っていた。さらに下って振り返ると、澄んだ青空に雪化粧をした鬼岳が映えていた。鬼岳は来月、3年ぶりの「山焼き」で真っ黒になり、春には新緑が芽吹く。