生活費は3割減⁉コロナ禍でホテル暮らしをしながら働く女性の生き方

新型コロナウイルスの感染拡大によって、観光業界やホテル業界は大きな変革を強いられています。GOTOトラベルキャンペーンは12月28日から1月11日までの一時停止が発表されたものの、そもそもキャンペーンが終了してからのその先を見据えなければ生き残ることは難しいでしょう。

そんな中、メトロエンジン株式会社とBEENOS株式会社は共同でホテルや旅館などの宿泊施設への長期滞在者向け予約サイト「Monthly Hotel(マンスリーホテル)」をリリース。ホテルでの2週間以上の宿泊を安く予約できるシステムで、たとえば「GRIDS 東京 上野駅前 ホテル&ホステル」なら1ヶ月67,500円という価格で滞在ができます。


テレワーク化で可能に

ホテルでの長期滞在というと、ウィークリーマンションのような単身赴任のスタイルを想像してしまいます。しかし実際にマンスリーホテルの利用者の中には、最低限の荷物を持ち歩き、さまざまなホテルを中長期滞在して暮らす“ホテル暮らし”を実践する人も増えてきたそうです。

このホテル暮らしは、コロナの影響で家賃の支払いが難しくなった人や、テレワークの一般化によって自宅以外の快適な仕事場所を探している人に大きなメリットがあるようです。

実際に住んでいた賃貸の家を引き払って、9月から中長期的にホテル暮らしをしている会社員のやよぴさんに詳しいお話を伺いました。

自宅を引き払い、9月からホテル暮らし

――やよぴさんがホテル暮らしを始めた経緯について教えてください。

やよぴ:勤めているIT系企業はコロナ以前からリモート勤務がOKの会社です。それが今年の5月頃にフルリモートとなり、その頃たまたま家の契約時期も迫っていたタイミングで、知人から「ホテルに住む暮らし方があるらしいよ」と話を聞きました。

6、7月に入っても世の中のリモート推奨や住まいに対する価値観の揺らぎなどから、まずはお試しとして1泊2日のホテルステイを実践してみたんです。当初は1泊5000円~3万円と幅広い宿を転々とし、そこで自分なりに「こういうホテルなら中長期滞在ができる」と感触を掴んだので、9月からは住んでいた家を引き払って完全にホテル暮らしになりました。

――今はどういった観点で滞在するホテルを選んでいますか?

フルリモートワークなので、ラウンジの広さやテラスの有無など、快適な仕事のしやすさは重要です。また休日の場合は友人と会う機会もあるので駅に近いかどうか、温泉やプールなどそのホテルならではの充実した設備が充実は付加価値としてかなり大きいです。

住民票は実家に

――家を引き払っているということですが、荷物や住民票などはどうしているのでしょう。

住民票は実家の名古屋に移していて、前の家にあったベッドと洋服も実家に置いています。それ以外の洗濯機や掃除機、雑貨などはほとんど処分しました。

今は4~5泊分の洋服と仕事道具、キレイめな靴とカジュアルなスニーカー1足ずつだけを持って各ホテルを転々としています。物欲が減ってネットショッピングで買い物もしなくなったので荷物の受け取りも不要ですし、行政などからの紙の郵送物は実家に届くので定期的に帰って確認すれば問題ありません。住み続ける「家」がないデメリットを感じることはほとんどないですね。

ホテル暮らしになって貯金は増えた

――それだけで生活できるものなのですね。実際には今まで賃貸の家に住んでいた時と支出はどのくらい違いますか。

スキンケアやアメニティ、タオルはホテルについていますし、洗濯もホテルにあるランドリーでできるので、生活に困ることがないですね。

ホテル暮らしになってから、物を買うのが本当に減りました。そもそもリモートワークになったので人と会う回数が減ったので洋服や化粧品を買うことも減り、インテリアや日用品、雑貨なども不要なので買いません。

電気代と光熱費はかからないですし、余計な食べ物やお菓子の買い溜めもしなくなりました。今は物を買う時に「ホテル暮らしに必要かどうか」という基準になっているので、ホテルの宿泊代を含めても、生活費にかかる支出は2/3ほどになりました。

仕事は変わらず収入は減っていないので、トータルでプラスですね。たまに友達と一緒に宿泊してその日の宿泊代は折半したりGOTOトラベルキャンペーン適用時なら地域共通クーポンで食事が賄えたりすると支出はグッと抑えられます。

地方の宿に泊まるのが楽しい

――ホテル暮らしになってから一番変わったことはなんでしょうか。

環境や場所の変化があるので、リフレッシュと集中のメリハリがつくようになりました。仕事にもプライベートにもいい影響が出ています。また、リモートワークの恩恵でもありますが、出勤時間がなくなって時間に余裕ができたことも大きいです。

ホテル周辺を散策するのに歩く時間が増えたり、食べ物の買い溜めがなくなったりして、以前より2キロ痩せて健康的にもなりました。今では地方の宿にも宿泊して、その地方や宿の歴史、魅力を知る知的探求ができるのも楽しいです。

限られたコミュニティの人しか会わなかったので、地方に行くことで考えやアイデアを巡らせることができ、仕事にもいいフィードバックがあるなと感じます。以前は物にお金を使っていましたが今は価値観が変わって、時間や体験にお金を使うようになりました。

独自の長期滞在プランで低価格帯を実現

マンスリーホテルをBEENOS株式会社とともに運営しているメトロエンジン株式会社の代表取締役CEO田中良介さんによると、同サイトがホテルの長期滞在をリーズナブルにできる仕組みがあると言います。

「そもそも一般的にホテルは楽天トラベルやじゃらんなどどの宿泊予約サイトにも同じ宿泊プランを提供しています。同じプランでもサイトごとに価格が違うのはOTA側が自分たちの手数料を上乗せしているから。時期やサービスによっても異なりますが、一般的に手数料は10%前後だと言われています。

一方で、私たちはホテル側にマンスリーホテル専用のプランを作ってもらっています。そのため、通常の予約よりも2割ほど安く予約ができるのです」(田中さん)

掲載ホテルは全国各地のビジネスホテル、旅館、リゾートホテルで、1ヶ月10万円前後のプランが最も多いそうです。

自宅以外で長期滞在する場所となると、一般的にはウィークリーマンションを想像しますが、田中さんは「ウィークリーマンションとホテル暮らしには大きな違いがある」と断言します。

ホテルはコンシェルジュが24時間いる状態なので、荷物の受け取りやセキュリティの安心面のメリットがあること、水道光熱費がかからないこと、温泉やジムなどの施設があること、そしてウィークリーマンションと違ってホテルでは一時的に住民票の登録ができること。就職のために住所が必要な人にとってのニーズも叶います。

ホテルの生き残り戦略

取材をしたやよぴさんのように、ホテル暮らしは特に若い女性からのニーズが高く、実際にマンスリーホテルでは現状、予約をしたユーザーの7割近くが女性だと言います。

「ホテルに長期滞在で泊まりたいというニーズは、コロナ以前から確実にありました。ただ、高額なイメージがつきまとっていたので長期滞在先としてホテルを選ぶという選択肢がこれまでになかっただけだと思います。

コロナ以後は人の暮らし方が根底から変わり、一つの場所に2年間賃貸契約して住む価値観も変わるでしょう。特に若い人たちは場所や縛られない働き方や住み方の手段としてホテル暮らしは徐々に一般化していくと思います」(田中さん)

田中さんによると、コロナ禍の中で儲かっているホテルと儲かっていないホテルの二極化が進んでいるそうです。GOTOトラベルキャンペーンが終わっても高級ホテルは富裕層を中心に継続してお客さんが入る一方で、ビジネスホテル全般は業務転換を強いられることが予想されているのだとか。

ホテルは生き残るためにも、ホテルらしいサービスを提供しながら、長期滞在プランを安く提供したり、テレワークのためのワークスペースを確保したりと、ニーズを捉えることは必要不可欠でしょう。

withコロナ時代の新しいホテルのあり方として、「ホテル暮らし」というライフスタイルがどのくらい定着するのか、注目したいところです。

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