成人式の日「迎えに来ました」…天国の息子を連れていってくれた親友たち 未来担う若者へ祈る夫妻 「出会い大切に」

新成人の「20」の形に植えられたビオラの花を囲む山下武文さんの親友7人。遺影を持つのが八重尾塁さん=2020年1月5日、出水市野田町下名(山下ひとみさん提供)

 「出会いを大切に」「健康第一で」-。鹿児島県内の新成人にエールを送る夫妻がいる。出水市野田の会社員山下修一さん(65)、ひとみさん(63)。脳腫瘍のため5年前に16歳で亡くなった次男の武文さんが、親友の計らいで昨年の成人式に遺影で出席できた感動が忘れられない。「思いやりと行動力はどの新成人も持っているはず」。未来を担う若者たちに期待を寄せる。

 野球少年の武文さんは中1の秋に発症、中3になる直前まで入退院を繰り返した。「弱音を吐かなかった。みんなと卒業するんだと勉強に励んでいた」と修一さん。本命の高校に進んだものの、高2の4月に体調を崩し、帰らぬ人となった。

 夫妻は玄関前に「家族の一員に変わりはない」と地蔵を建立。昨年の成人式の前には家族で祝った。ただ、悲しみも募った。

 1月5日の式当日の朝、小中学校の親友7人の訪問を受けた。「武文を迎えに来ました」。遺影を連れて式に出てくれた。7人が葬儀で武文さんに誓った約束だった。ひとみさんが流したのはうれし涙。「出会いを大切にしてくれた感動が悲しみに勝った。同級生の心に救われた」と振り返る。

 以前は命日が来ると「治るつもりで頑張っていたのに」と沈んだが、今は「精いっぱい頑張って命を全うした」と思える。時間が解決したのとは違う。今年の成人の日を迎え、どの新成人にも親友たちのように思いやりを行動に移す力があると信じている。

 幼稚園以来の親友で一緒に野球を楽しんだ団体職員八重尾塁さん(21)=鹿児島市新栄町=は「武ちゃんの分まで頑張らないと」と胸に刻み、新成人には「成人式が中止や延期になることはあっても20歳でいることは一生のうちで一度だけ。出会いを大事に、できることを精いっぱい頑張って」と激励する。

 「武文もやりたいことがまだまだあっただろうけど、誰かが頑張っているから応援しようね」。ひとみさんは笑顔が印象的な地蔵に手を合わせた。

山下武文さんを供養する地蔵に手を合わせる母・ひとみさん。奥の畑には、武文さんが迎えたはずの年齢である「21」の形に花を植えている=8日、出水市野田町下名

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