<いまを生きる 長崎コロナ禍> 県外進学も地元で“大学生活” 漫然と過ごす現状、色あせる目標

 佐世保市出身の男子大学生(19)は昨春、福岡県の私立大学に合格した。折しも、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、大学は遠隔授業を導入。対面授業は今も再開されず、男子学生は福岡ではなく、地元での「大学生活」を続けている。
 昨年の春、合格通知を受け取った後、男子学生はいったん福岡県内の大学の寮に入所。しかし、昨年4月下旬には感染拡大で実家に戻った。「そのうちコロナも落ち着き、大学に通えるようになるだろう」。まさかここまで長期化するとは夢にも思っていなかった。

「大学に通っていると実感できるのはこれぐらい」。履修科目の一覧が表示されたスマートフォンを見せる男子学生=佐世保市

 実家で週に15こまほど遠隔授業を受け、夕方からアルバイトに出掛ける生活。昨年8月には、大学でクラスター(感染者集団)が発生。「地元にいて良かった」と胸をなでおろした。だが新型コロナの感染状況は収束せず、自分自身、その場でずっと足踏みをしているような感覚にとらわれ始めている。
 「さまざまな人の価値観に触れたい」「これまでとは違った環境の中で将来の目標を見つけたい」。大学進学が決まった頃に描いた目的がだんだん色あせていく。周囲は「大卒の方が就職の選択肢は広がる。年収も違ってくる」「金銭的な問題がないなら続けた方が良い。辞めると後悔する」と励ましてくれる。
 自宅で遠隔授業を受けていれば大学生でいられる。経済的な不安もない。自分でも「ぜいたくな悩み」とは理解している。ただ、最近は大学のホームページを見る機会も少なくなり、「退学」の二文字さえ脳裏をよぎる。
 もう少し待てば、状況が好転し「普通」の大学生活を送れるのだろうか。でもそれは一体いつになるのだろう。いっそ退学して就職した方がいいのか…。答えは出ない。「とにかく、漫然と過ごす現状を変えたい。これ以上、今の生活に心が付いていけるとは思えないんです」。男子学生はため息交じりに話した。


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