最も過酷なスポーツがはやる理由、それは 台湾、健康志向だけではない【世界から】

「チャレンジ台湾」の様子。ジュニアトライアスロンも行われているが人気が高く、大人の枠より早く申込が締め切られることもある(C)チャレンジ台湾

 近年、台湾でトライアスロンの人気が高まっている。大会には10代後半から70代までの幅広い年代が参加しているが、中でも目立つのが40代と50代の男性だ。「ひと昔前のゴルフのような存在だ」と評する声さえある。だが、トライアスロンはスポーツの中でも最も過酷とされる競技だ。体力が落ち始めてくる、いわゆる「ミドル世代」を中心に人々がここまで熱くなる理由はどこにあるのか? 背景を探ってみた。(共同通信特約ジャーナリスト=寺町幸枝)

 ▽トライアスロンの魅力

 トライアスロンは、一般的に「スイム(水泳)」「バイク(自転車)」「ラン(長距離走)」を1人で行うスポーツで、2000年のシドニー五輪からは五輪の正式種目となっている。国際トライアスロン連合(ITU)の規格では、競技距離は25・75キロの「スプリント・ディスタンス(水泳0・75キロ、自転車20キロ、長距離走5キロ)」から約226キロの「アイアンマン・ディスタンス(水泳3・8キロ、自転車180キロ、長距離走42・195キロ)」まで、さまざまある。ちなみに、五輪で採用されているオリンピック・ディスタンスは51・5キロ(水泳1・5キロ、自転車40キロ、長距離走10キロ)だ。

 距離を見るだけで、いかに大変かが容易に想像できる。しかし、トレーニングをしっかりすれば十分に完走できる種目で、最近の大会では先述したように距離別のレースも多く用意されるようになっている。他にも男女混合で挑む団体競技のリレーや子ども向けのコースを用意しているレースもあり、競技の間口は広がっている。

 とはいえ、レースに参加するためにはある程度の負担は避けられない。まず、レースで使用できるロードレース向けの自転車を購入しなければならない。次に、異なる3種目に合わせたトレーニングも積む必要がある。さらに大会ごとの参加費用は平均して数万円掛かる。マラソンなどに比べると高額だ。

トライアスロンで使うロードレース向け自転車。ハンドルには前傾姿勢を取ることで空気抵抗を減らせるDHバーと呼ばれるパーツが付けられている(C)チャレンジ台湾

 ▽自転車生産大国

 経済的に余裕がないと続けられないスポーツであるトライアスロン。台湾でその熱が高まっているのには大きな理由がある。

 自転車生産大国の台湾では高品質のロードレース向け自転車が多く作られているのだ。専門ショップも多いので、自分のレベルにあった自転車を選べる。友人の誘いでトライアスロンを始めたというホテル経営、陳増東さん(43)の愛車は、台湾を代表するメーカーである「ジャイアント」製だ。

 「初心者は、ジャイアントやメリダと言った台湾ブランドを購入する人が多いと思います。自転車本体の価格に加えて、修理を始めメンテナンスに掛かる費用が比較的安く抑えられるから。ただ上級者になると、キャニオン(ドイツ)やトレック(米国)といった外国ブランドを選ぶ人が増えます」と陳さんは話す。

 実際、台湾でもっとも手頃なジャイアントのロードレース向け自転車は定価が2万8千台湾元(約10万4千円)。40万から50万円台のものも並ぶロードレース用自転車の中では、手に入れやすい価格帯といえる。

 陳さんも指摘していたように自転車に必要なメンテナンスにストレスを感じない。台湾は自転車だけでなく、パーツの分野でも世界有数の生産数を誇る。さらに、外国ブランドが台湾のメーカーに相手先ブランドによる生産(OEM)を委託していることが多い。近くの店で自転車関連製品を手に入れやすい上、修理やパーツの手配も容易なのだ。

 ▽気候と環境

昨年12月に台湾南部の大鵬湾で開かれた「LAVA TRI トライアスロン」にはコロナ禍にもかかわらず1600人を越える選手が参加した(C)陳増東

 年間平均気温が22度と温暖な熱帯気候の台湾では、1年を通じて心地よい気候の中でトレーニングやレースを楽しむことが可能だ。さらに最大都市である台北には、アジア圏の都心で自転車に最もフレンドリーな環境が用意されている。

 台北市内を流れる「淡水」という大きな川沿いには自転車専用のコースが整備されており、週末ともなると全身サイクルウエアで決め込んだ老若男女の集団をあちこちで見かける。台湾全土で見ても「自行車道(バイクウェイ)」と呼ばれるサイクリング専用道路が整備されているので、トライアスロンに限らず自転車競技を楽しむ人は多い。

 毎年、台湾南部の台東市で開かれるトライアスロンの国際大会「チャレンジ台湾」は、1万人以上が参加する人気のある大会だ。2020年は当初4月に開催予定だったが、新型コロナの影響で延期を余儀なくされた。その後、国際的に高く評価されている新型コロナ対策の成功もあり、大会は昨年11月に開催された。コロナ禍にもかかわらず30カ国の5200人が参加する盛況ぶりだった。

 これ以外にも2千人未満の小規模なレースが毎週末各地で開催されているという。中でもこの「チャレンジ台湾」と「アイアンマン台湾」「LAVA TRI トライアスロン」が台湾の三大大会と言われている。新型コロナウイルスの影響で、世界のあちこちでトライアスロンのレース延期や中止が余儀なくされる中、通常通りに大会を開催する台湾に、今改めて世界のトライアスリートたちも注目しているようだ。

 温暖な気候の中で、美しい島国の自然を満喫しながらトレーニングやレースを楽しめるだけでなく、健康も保てるトライアスロン。台湾の人たちが次々とトライアスロンに挑戦しようとするのも自然な流れなのかもしれない。

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