【総括】朝鮮労働党大会…「核の堂々巡り」に陥った金正恩

北朝鮮の金正恩党委員長(今大会で総書記に就任)は5日から12日まで行われた朝鮮労働党第8回大会で、初日から3日間・計9時間にわたり党中央委員会第7期活動報告を行った。

今回の報告の特徴としてまず注目されるのは、5年前の第7回大会で提示された国家経済発展5カ年戦略が失敗に終わったのを認めたことだ。

朝鮮中央通信が伝えた概要によれば、報告はその理由について、「まず、客観的要因としてアメリカと敵対勢力が強行した最悪の野蛮な制裁・封鎖策動」があり、「その他、毎年被ったひどい自然災害と昨年に発生した世界的な保健危機の長期化も、経済活動に深刻な障害になった」ため、「国家経済発展5カ年戦略において主要経済部門をもり立てるために予定していた国家の投資と保障活動がまともに実行されなかった」としている。

報告はさらに、「客観的条件にかこつければ何事もできず、主体の作用と役割が不要になり、不利な外的要因がなくならない限り、革命闘争と建設事業を推し進めることができないという結論に達することになると深刻に指摘し、総括期間、国家経済発展5カ年戦略の遂行が未達成となった原因に関する党中央委員会的な分析と評価を下した」という。

そのうえで報告は、経済各部門で解決されるべき課題について縷々述べている。その下敷きとなっているのは、次のような戦略だ。

「現段階において、わが党の経済戦略は整備戦略、補強戦略であり、経済活動体系と部門間の有機的連携を復旧、整備し、自立的土台を固めるための活動を推し進めて、われわれの経済をいかなる外部の影響にも左右されることなく、円滑に運営される正常の軌道に乗せることを目的としている」

つまり、合理化と自力更生の強化を2本柱とするということだ。非効率な経済運営が改善されれば、それである程度の成果を得られるかもしれない。しかし、経済制裁に加えて新型コロナウイルス対策の国境封鎖で貿易がほぼ完全に停止したことで、国内経済の現場は限界にきている。デイリーNKの内部情報筋が伝えるエピソードの多くは、自力更生を押し付けられた現場が弱り切っているというものだ。

仮に、自力更生を達成する道筋があるにしても、その土台を築くには先行投資が必要になる。現在の北朝鮮に、その余力があるか疑問だ。自前で賄えないなら外交関係を打開し、支援を受けるしかないが、金正恩氏にその意思があるかも疑わしい。

かつて北朝鮮が経済的な困難に直面した際には、金日成主席も金正日総書記も外遊に出て、中国やロシア(旧ソ連)から支援を取り付けてきた。金正日氏は南北首脳会談により、韓国からも大規模な経済協力を獲得している。

2018年から翌年にかけて、金正恩氏はトランプ米大統領、そして韓国の文在寅大統領と繰り返し会談した。米朝首脳会談は史上初の出来事だった。しかし金正恩氏は、両国から何ら支援を得ることができなかった。

党大会で採択された、金正恩氏の総書記推戴に関する決定書は、「卓越かつ洗練された指導で短い歴史的期間に、わが共和国の総合的国力と地位を最上の域に押し上げる民族史上、最も特筆すべき業績を積み上げた」と称賛している。戦略核兵器である大陸間弾道ミサイルの完成なくして出てこなかった賛辞と言えるが、その業績が「偉大」すぎて、米朝関係や南北関係の進展を妨げる皮肉な(というよりも当然の)結果を生んでいる。北朝鮮の立場を擁護する中国やロシアにとっても、「核のハードル」を超えて大規模な支援を行うのは容易でない。

それでも金正恩氏は、軍事力で局面を突破する姿勢を捨てていない。というよりも、そうした金正恩氏の「世界観」が鮮明になったことが、今大会の特徴のひとつと言えるかもしれない。

金正恩氏が行った報告では、「強力な国家防衛力は決して外交を排除するのではなく、正しい方向へ進ませ、その成果を保証する威力ある手段になると強調し、当面の情勢の中の現実は軍事力強化では満足というものはあり得ないことを今一度実証していると分析した」という。

そして「地球上に帝国主義が存在し、わが国家に対する敵対勢力の侵略戦争の危険が続く限り、わが革命武力の歴史的使命は絶対に変わらず、われわれの国家防衛力は新たな発展の軌道に沿って絶えず強化されなければならない」とした。

また同通信によると、今大会で改正された党規約の序文では「祖国統一のための闘争課題の部分に、強力な国防力で根源的な軍事的脅威を制圧して朝鮮半島の安定と平和的環境を守る」方針が明らかにされた。「祖国統一のための闘争課題」には、対韓国のみならず対米戦略も含まれている。つまりは米韓との対話に先立ち、軍事力強化にまず注力するということだ。

報告は、「われわれが最強の戦争抑止力を備蓄し絶えず強化しているのは、われわれ自身を守るため」であるとして、核武装はあくまで自衛目的であると強調。さらに「わが共和国は責任ある核保有国として侵略的な敵対勢力がわれわれを狙って核を使おうとしない限り、核兵器を濫用しない」と宣言している。

その一方で報告は、極超音速ミサイルや弾道ミサイル搭載の原子力潜水艦など、新たな兵器開発計画を公開した。とくに、戦術核の戦力化を強化するとした方針は、いずれ北東アジアの軍事情勢に深刻な影響を与える可能性がある。威力が巨大なため、先制使用した場合に敵からの大量報復を招く可能性が高く、実際には「使えない兵器」とされる戦略核と比べ、戦術核は威力が抑えられていることから「使える核兵器」とも表現される。

また、「核兵器を濫用しない」というのが本心だとしても、核兵器は威圧により相手の行動に変化を起こすための手段でもある。金正恩氏が、実際には核兵器の発射ボタンを押さないにせよ、「必要ならいつでも使う」という心理的威圧は用いるだろう。

では、北朝鮮のこのような軍事戦略はいつまで、何を達成するまで続くのだろうか。

報告では「アメリカと敵対勢力の無分別な軍備増強によって国際的な力のバランスが破壊されている実情で、この地で戦争の瀬戸際と緩和、対話と緊張の悪循環を永遠に解消し、敵対勢力の威嚇と恐喝という言葉自体が終息する時まで、国の軍事的力を持続的に強化していくという鉄の信念と意志」が表明されている。

報告ではまた、米国の脅威だけでなく韓国の軍備増強を問題視している。

「ハイテク軍事装備の搬入とアメリカとの合同軍事演習を中止すべきだというわれわれの再三の警告に依然として背を向け、朝鮮半島の平和と軍事的安定を保障するという北南合意の履行に逆行している。

甚だしくは、われわれの正々堂々たる自主権に属する各種の通常兵器の開発については「挑発」と言い掛かりをつけ、武力の近代化に一層狂奔している。

もし、南朝鮮当局がそれを論難したいならば、先端軍事資産の獲得や開発の努力を加速化すべきだの、すでに保有している弾道ミサイルや巡航ミサイルよりも正確で、強力で、遠くまで飛んでいくミサイルを開発するようになるだろうだの、世界最大水準の弾頭重量をそなえた弾道ミサイルを開発しただのと言った執権者の発言から説明すべきであり、引き続く先端攻撃装備を搬入する目的と本心を納得できるように解明すべきである」

韓国は歴史的に、北朝鮮を「主敵」と想定して軍事力の整備を続けてきた。ただ、国際情勢の変化の中で、韓国も北朝鮮以外の周辺各国――具体的には中国と日本を意識し、国防戦略を考えるようになっている。文在寅政権が推進を表明した、原子力潜水艦と軽空母の導入構想が典型的だ。

韓国は、今後の南北関係がどのような経過を辿るにせよ、軍事力の強化を進めるだろう。一方、北朝鮮は経済力と技術力の限界から、核戦力の強化でそれに対応するしかない。つまり、金正恩氏が報告で示した「敵対勢力の威嚇と恐喝という言葉自体が終息する時まで、国の軍事的力を持続的に強化していくという鉄の信念」は、終わりがまったく見えないということになる。

一方、金正恩氏は大会最終日(12日)の結語で、次のように述べた。

「『以民為天』『一心団結』『自力更生』、まさにここにわが党の指導力を強められる根本的秘訣があり、わが党が大衆の中に一層深く根を下ろすための根本的方途があり、われわれが唯一に生き続け、前途を切り開くことのできる根本的保証があります。

私は、今回の党大会で何らかのものものしいスローガンを掲げるよりも、わが党の崇高な『以民為天』『一心団結』『自力更生』という三つの理念を今一度銘記することで、第8回党大会のスローガンに代えようと提起します」

以民為天、一心団結、自力更生の三つはいずれも、朝鮮労働党が古くから掲げているスローガンだが、今大会の文脈で読み解くと、以民為天は「経済優先」、一心団結は「党の強化」、自力更生は「核戦力の強化」を本質としていると解釈することができる。そして、金正恩氏はこれらの結合による「正面突破」――つまりは党の絶対的な指導の下、核戦力を強化しつつ自力で経済発展を成し遂げ、国際社会の経済制裁を跳ね返すことを目的としているわけだ。

しかし前述したように、経済発展のためには先行投資が必要だ。封鎖された北朝鮮経済に、その余力があるか疑わしい。封鎖を突破するのは党、すなわち中央権力の役目だが、それをどうやるのか。

課題は明白だ。米国との対話で妥結するか、妥協を引き出すしかない。

金正恩氏の報告は、「対外政治活動を朝鮮革命発展の主な障害、最大の主敵であるアメリカを制圧し、屈服させることに焦点を合わせ、志向させていかなければならない」と主張。「アメリカで誰が権力の座についてもアメリカという実体と対朝鮮政策の本心は絶対に変わらないと指摘し、対外活動部門で対米戦略を策略的に樹立し、反帝自主勢力との連帯を引き続き拡大していく」ことについて強調した。

また、「新しい朝米関係樹立のキーポイントは、アメリカが対朝鮮敵視政策を撤回するところにあるとし、今後も強対強、善対善の原則に基づいてアメリカに対するであろうというわが党の立場を厳粛に言明」している。

こうした米国に関する言及は、主張と願望が入り混じったものであると言える。一方では「屈服させる」と言いながら、もう一方では「敵視政策の撤回」があり得るものとして期待しているからだ。

結局のところ、金正恩体制が「以民為天」「一心団結」「自力更生」の結合で「正面突破」を成し遂げるには、北朝鮮の核武装を容認しないという国際社会のルール変更が必要になる。米国をはじめとする国際社会が、自らルールを変更する可能性は低い。ならば北朝鮮が自らの力――彼らの言う「自強力」で、ルール変更を強制しなければならない。

それには、米国に相当な脅威を感じさせる必要がある。金正恩氏の報告が「歴史的な大事変」と呼ぶ、2017年11月の大陸間弾道ミサイル発射成功がトランプ政権に与えた以上の脅威をだ。

だが、今大会に対する国際社会の評価はどうか。金正恩氏が示した核戦力強化の方針に対する警戒感はある。ただ概ねのところ、金正恩氏が経済優先の現実的、つまりは従来よりも「ソフトな路線」を選択したと見る向きが多いのではないか。

トランプ大統領との首脳外交が失敗に終わったことで、金正恩氏が乗り越えるべき外交的ハードルはより高くなっている。核兵器という重すぎる荷物を抱えたまま、金正恩氏にそれをやり切ることができるだろうか。

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