「政治とカネ」チェックに地域差 収支報告書原本、6県がネット非公表

 政治家がいつ何にいくら金を使ったのか、誰から寄付を受け取ったのか。後を絶たない「政治とカネ」を巡る事件を防止し取り締まるために不可欠なのが、政治資金収支報告書だ。総務省や都道府県選挙管理委員会が毎年11月に公表している。ただ、公表されれば誰でも簡単に見られるかというと、そうでもない。報告書原本をインターネットで公開している県としていない県がある。「知る権利」に地域差が出ている状況だ。(共同通信=池田絵美)

 政治とカネの問題は現在進行形だ。東京地検特捜部は昨年6月、地元議員らに現金を供与し、2019年7月の参院選広島選挙区での集票を依頼した公選法違反容疑で、衆院議員河井克行元法相と妻の案里参院議員を逮捕した。東京地裁で公判が続いている。

河井克行氏

 参院選前、自民党本部から夫妻が代表を務める党支部には計1億5千万円が渡っており、使途の詳細が注目されていた。しかし、昨年11月に広島県選管が公開した河井夫妻の4団体の報告書には収支が「不明」と記されていただけだった。

広島県選管に請求して交付された河井克行元法相が代表の「自民党広島県第3選挙区支部」の収支報告書。収支欄は「不明」と記されている

 計1億5千万円のうち8割に当たる1億2千万円は、元は税金の政党交付金だ。報告書に添付された宣誓書には、捜査当局に押収された関係書類が返却されれば「訂正する」と記されていた。

 だが、実際に訂正するかどうかは夫妻の政治家としてのモラルに委ねられている。巨額資金がどう使われたのか。有権者が判断するには、報告書が頼りだ。

 ▽政治資金収支報告書とは

 政治資金収支報告書は、政治団体の1~12月の収入と支出、保有資産を記した書類だ。政党や国会議員、地方議員ら政治家に関係する政治資金の流れを公に開示し、透明性を確保することを目的に、政治資金規正法で作成を義務付けている。不記載や虚偽記載をした場合には禁錮や罰金の罰則がある。

 政党や複数の都道府県で活動する政治団体は総務省に、一つの都道府県で活動する団体は都道府県選管に、それぞれ提出する。毎年11月末までに公表され、その後3年間閲覧できる。

 総務省は04年から報告書の原本をネットで公開。都道府県選管にも積極的に公開を検討するよう通知している。政治資金規正法の改正で、08年からは原本のネット公開を要旨の公表に代えることができるようになったこともあり、原本の公開に切り替える選管が増加した。

 ▽6県が原本非公開

 現在、収支報告書の原本をネット上で公開しているのは41都道府県。原本ではなく要旨の掲載にとどまっているのは新潟と石川、福井、兵庫、広島、福岡の6県だ。

広島県選管がネット公開している「要旨」の一部

 要旨には団体や個人による寄付を受けた日付はなく、支出もおおまかな項目別の金額しか記載がない。より詳しい収支を知りたければ、原本を当たる必要がある。

 この6県で原本を見るためには、選管などの公開場所に出向くか、1枚10円のコピー代を支払って写しの交付請求をしなければならない。請求から交付までにはおよそ2週間かかる。

 ▽理由さまざま

 6県の選管に非公開の理由を取材した。いずれも要因としたのが「人員不足」だった。ほかには「ホームページのサーバーの容量不足」「電子化の作業を外部委託するための予算不足」などの理由が挙がった。

 広島県選管は「ネットだと原本は3年間しか公開できない決まりだが、要旨だと公開期限がないというメリットがある」と説明。兵庫県選管は広島と同様に要旨の利点を述べた上で「ネット公開は法律による義務ではない」と強調した。

 今後の方針については福井県選管だけが「全国一律の取り扱いが適当だと思う」として、ネット公開を検討すると回答。兵庫県選管は「検討の予定はない」とした。他の4県は具体的な予定はないとしながらも「課題として捉えている」「いつかしたいとは思っている」などと答えた。

 ▽切り替え急務

 山口県選管は、市民やメディアからの要望を受け、昨年から原本のネット公開を始めた。主に紙で提出される膨大な量の報告書をスキャンして電子データ化するため、約90万円の予算で作業を外部業者に委託した。

 ネット公開していない福岡県選管の担当者は「写しの交付請求を受け、コピーしてお渡しする手間を考えると、ネットで全量を公開した方が作業量は減るかもしれない」と打ち明ける。「福岡は政治団体数が多く、電子データ化は外部委託しないとできないと思う。予算と人員の問題だ」と理由を話した。

 政治資金に詳しい神戸学院大の上脇博之教授は「多くの選管が全文を掲載する中で、人員不足などは理由にならない」と指摘する。「国民が真実をチェックできるようにするという規正法の精神にのっとると、ネット公開が一番適切。知る権利に応えるためにも早急に切り替えるべきだ」と訴えている。

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