球数制限、大人の罵声にイエローカード 少年野球界に一石を投じたポニーの使命

小中学生の野球人口減少が叫ばれる中、「ポニー」では画期的な取り組みを行っている

2019年に発表した「SUPER PONY ACTION パート1」の運用実態を連盟が検証

小中学生の野球人口減少が叫ばれる中、野球が再び子どもたちにとって魅力的なスポーツであるように、画期的な取り組みを行っている団体がある。それが日本ポニーベースボール協会だ。「ポニー」の愛称で広く知られ、米国に本部を置く。日本で発足したのは1975年のこと。5~6歳の幼児を対象とした「シェットランド」から19~23歳の成人を対象とした「サラブレッド」まで、年齢により8つのカテゴリーに分かれている。

ポニー(PONY)とは「Protect Our Nation’s Youth(国の宝である青少年の成長を守る)」という言葉の頭文字を取ったもの。日本でもアメリカ本部の理念を引き継ぎ、野球を通じて選手たちの心身の成長を促しながら「社会に役立つ未来の人材を育成する」ことを使命としている。

日本の中学硬式野球界にはポニー、ボーイズ、リトルシニア、ヤングという主要4団体があるが、その中でもポニーは比較的規模が小さく、加盟は83チーム、約2000人の選手が登録する。だが同時に、唯一いわゆる日本の野球スタイルに染まりきっていないことも特徴だ。連盟が掲げる10の指導理念の中には「ポニーの主役は少年たちである」「大人のエゴイズムで少年たちを傷つけてはならない」「選手の指導をとおして指導者自身が成長すべきである」「選手は自分の所有物ではない」といった踏み込んだ内容のものまである。

アメリカから伝来した野球は、日本で独自の文化として普及し、根付いていった。その過程で、勝利以外に価値を見出さない勝利至上主義が広まり、そのしわ寄せが選手=子どもたちの故障という形で顕在化。近年、投球過多や練習過多、行き過ぎた指導などが広く社会問題として取り上げられ、子どもたちを取り巻く野球環境は少しずつではあるが確実に変化している。

その変革の流れに敏感に反応し、画期的な独自のルール制定に踏み切ったのがポニーだった。2019年12月に発表された「SUPER PONY ACTION パート1」では、年齢による投球数制限を設定。反発係数の低い国際標準バットを導入したり、怒声罵声を飛ばすなどマナーの良くない保護者や指導者にはイエローカードを提示する制度も始めた。また、成長期の子どもに悪影響を及ぼす喫煙についても指定された場所でのみ喫煙が許可されるなど、大人の意識向上を促した。

2020年はコロナ禍による影響で一時はチーム活動が停止となったが、7月から各地区で全日本選手権大会予選を開始。これに合わせ、「SUPER PONY ACTION パート1」の各施策も実施された。そして、同年12月に各施策の効果を検証し、発表している。

試合で投げる球数だけではなく、練習で投げる球数にも注目

まずは、大会開催中の投球限度(Tournament Pitch Limit)、練習における投球目安(Pitch Scale)を定めた「PONY Super Pitch Program」から見てみよう。

【投球限度】
中学1年生 60球/試合(変化球禁止)
中学2年生 75球/試合
中学3年生 85球/試合

同一試合内での再登板は一度だけ認められるが、同日の連投および投手捕手の兼任は禁止。1日に50球以上の投球をした場合、翌日は投手として出場できない。また、1日の球数が50球に達しなくても3連投は禁止されている。

試合内での投げ過ぎに限らず、練習過多も障害を引き起こす要素となり得る。「球数制限」を考える時、試合で投げる球数のみにスポットライトが当てられがちだが、練習における球数にも目安を設けていることが「PONY Super Pitch Program」の特徴でもある。

【投球目安】
中学1年生 60球/試合 180球/週(変化球禁止)
中学2年生 70球/試合 210球/週(体の負荷となる変化球禁止)
中学3年生 80球/試合 240球/週

ここで投球数にカウントされる球は、打者を立たせたマウンドからの投球および8割強度以上のスローイング、と定義されている。12月、1月の投球練習は極力控えるように呼びかけられ、肩肘に既往症のある選手は投球禁止。その他、投球限度と同様に、同日の連投および投手捕手の兼任禁止、1日の投球数が50球を超えた場合は翌日の投球の制限、3連投禁止などが決められている。

連盟では、7月の本格導入以来、運用時に大きな混乱が見られることもなく、一定の効果を得られたと結論づけている。主要大会を終えた5チームをサンプルとして肩肘検診を実施したところ、故障の回復傾向や新規故障の発生の低下という効果が確認できたそうだ。2021年も引き続き運用し、さらに多くのチームを対象とした検診を行いながら、継続的に効果を検証していくという。

国際標準バットとイエローカード導入にも効果、一方で改善が必要とされたものは…

国際標準バットの導入は、投手の安全確保と打者の技術向上を目指す狙いを持つ。金属バットは近年、反発係数が高くなり、飛距離が伸びるものへと変化してきた。そのため、バットの芯でボールを捉えなくても安打や長打になるケースが多く、打者の技術低下に繋がると考えられている。また、コンタクトされたくない投手が早いうちから変化球を投げたり投球過多となったり、故障を引き起こす一因として指摘されるほか、想像を超えるスピードで飛び出す打球が投手や内野手を直撃する危険性も指摘されている。

そこでポニーでは、直球の切れと制球力で勝負する投手の原点教育、バットの芯でボールを捉える打者の原点教育に立ち返り、金属バットながら木製バットに近い打感を持つ国際標準バットの導入を決定。中学1年生の大会、および全日本選手権大会ポニーブロンコ大会で使用を義務化すると、その効果は期待以上だったという。

国際標準バットは反発係数が低いため「飛距離が出ない」という点に注目されがちだが、使用する過程で、しっかりと芯で捉えた打球は通常の金属バットに劣らない飛距離を計測することを実感。また、芯を外した内野ゴロを処理するために、内野手は守備位置から前にチャージして捕球しなければならないため、守備面でも原点教育に役立つという効果が得られたそうだ。2021年も1年生は引き続き運用し、2・3年生での導入は高校野球の対応を見ながら決めていくことになる。

その他、イエローカードについては、保護者のマナー違反に対して3度提示されたというが、いずれもコロナ禍での声援自粛要請に違反するもので、子どもたちが萎縮するような怒声などはなかったようだ。イエローカードの導入という野球界には珍しい発想が、保護者、指導者ともに言動を顧みるきっかけとなったようだ。

以上の3点では導入効果が認められたが、さらなる改善が必要だとされたものもある。それが、喫煙マナーだ。受動喫煙防止を目指し、大会開催時には喫煙スペースを設けて、子どもの目に留まらない努力をするよう通達したものの「厳格運用には程遠い状況だった」と連盟は明かす。喫煙を我慢できない大人が多い現実があるという。そこで2021年はもう一歩踏み込んだルールを設定。連盟や各協会が主催・共催する大会では会場敷地内の完全禁煙を目指し、「吸わせない・見せない・臭わせない・感じさせない」をモットーに掲げ、子どもの動線から外れた場所に四方を幕で囲われた喫煙所を設けるなどの対策を講じるとした。

好感触を得た施策、反省を伴う施策など「SUPER PONY ACTION パート1」の効果はそれぞれだったが、何よりも大切なことは、ポニーが子どもたちの安全や未来を真剣に考え、具体的なアクションを起こしたという事実だろう。個々のチームではなく連盟そのものが画期的で踏み込んだルール制定をしたことは、ポニー内にとどまらず、外部団体にも改めて「子どもにとって本当に大切なことは何か」というテーマについて考えるきっかけを与えることになったはずだ。

「SUPER PONY ACTION パート1」の検証と同時に、ポニーでは2021年に新たに実施する「SUPER PONY ACTION パート2」を発表。野球を通じて大きく羽ばたく子どもたちを支援するプランなど、さらに独自性を深めた取り組みについて隔週連載で解説していく。

(次回は1月29日に掲載予定)(Full-Count編集部)

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