<金口木舌>「防波堤」で守るもの

 東日本大震災で岩手県沿岸部にあった防波堤が破壊された。すさまじい津波の威力に耐えられなかったのである。3年前、現地を訪ねたら視界を遮る高さの防潮堤ができていた。あの悲劇から今年で10年▼76年前、本土防衛の防波堤となった沖縄は日米両軍の激しい地上戦によって破壊し尽くされた。その後、築かれたのは米軍基地。金網に覆われた広大な「防波堤」はいったい何を守るためのものか

▼昭和史研究で名高い半藤一利さんは、新基地建設のため辺野古の海に土砂を投じる政府の姿勢を批判し、全国紙のインタビューで「今も『防波堤』の発想です」と指摘した。本土防衛の「防波堤」の歴史は終わっていない

▼戦争の悲惨さを語り続けた。原点にあるのは東京大空襲の体験。猛火の町を逃げ惑い、地獄絵を目の当たりにした。「何のための戦争か」という疑問を原動力に昭和史の研究に突き進んだ

▼敗戦への歩みを丹念な調査から総括し、時代の熱狂の中でなぜ日本が戦争にのめり込んだのか読み解いた。憲法9条と平和の大切さも説き続けた。半藤さんが12日、世を去った。著書から学ぶべきことは多い

▼岩手の防潮堤は住民の命を守るために造られた。辺野古の新基地は県民の命を守るためのものとは言えない。「防波堤の発想」という憂いを込めた半藤さんの批判を政府は受け止められるだろうか。

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