<南風>空想「標本箱」とは何か

 物にはドラマがある。あなたが日常手にしているあらゆる商品は誰かが作ったものだ。時間をかけた企画会議、その中から選ばれた物だけが次へと進み、たくさんの工程や人の手を通して我々消費者の元へやってくる。
 商品寿命の華の段階とも言える。そしてそこから先、ほとんどの商品は消滅の道へまっしぐらである。生き残る物はほんの一握り、名前さえも覚えてもらえないまま人々の記憶から消える物もある。
 そんな商品のひとつに「おまけ」がある。缶コーヒーに付いた往年の名車をモデルにしたミニカー、お茶のペットボトルに携帯ストラップ、缶ビールを6本まとめて買うと付いてくるコースターや豆皿。ちょっと高めのウイスキーなどはロックグラス。「おまけ」が付いていると購買意欲が増すのが消費者心理だ。
 自分もその一人である。ついつい「おまけ」付きに引かれて買ってしまう。そうすると、その小物たちが家のあちこちに散らかる。最初はいいポジションに飾られたりするが埃(ほこり)がつき隅に追いやられ、いつの間にか壊れ、やがて何のためらいもなくゴミ箱へ。商品の臨終である。
 僕は捨てられなかった。英国のかわいいミニカー、ちょっとぜいたくして飲んだベルギービールの王冠、海外の使えないカラフルな中古切手、売ったのに手元にある車のスペアキーなど。周りには思い出の「おまけ」や小物でいっぱいになった。そして考えた。どうしたら埃がつかず壊れないで整理できるのか? そして生まれたのが空想「標本箱」だった。木枠で囲まれたガラスケースの中にまるで昆虫標本箱のように奇麗に並べるのだ。これだと品質を保ち鑑賞するのにも見栄えが良く置き場所にも困らない。「おまけ」にコラージュ作品として新たな命が与えられたのだ。
(根間辰哉、空想「標本箱」作家)

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