11年後に経営自立!!  JR四国の針路はいかに 「長期経営ビジョン」と「中期経営計画」の骨子発表

JR予讃線高松―松山間に運転される特急「いしづち」。通常ダイヤで1日17往復を運転。一部は「アンパンマン列車」で運行されます。 イメージ写真:K.O / PIXTA

国が2020年末にJR北海道、JR四国、JR貨物の3社に対する財政支援を決定したのを受けて、いち早く経営の方向性を示したのがJR四国です。JR四国は2021年4月から、今後10年間の「長期経営ビジョン2030」、同じく5年間の「中期経営計画2025」の2つの中長期経営をスタートさせることにしており、西牧世博社長が会見で両計画の骨子を先行発表しました。

経営指針を一言で表せば、「グループ一丸となった最大限の経営努力」。運輸収入や非鉄道(関連)事業収入を拡大する一方で、部内的には社員が安心して働ける職場環境づくりに努め、「11年後の2031年度に経営の自立を果たす」を必達の目標とします。とかく硬くなりがちな経営の話題ですが、極力かみ砕いて紹介し、JR四国にエールを送りたいと思います。

国の「指導」の下で財政支援を受ける

JR四国本社はJR高松駅裏にあります。駅の「SHIKOKU SMILE STATION」の表記が目を引きます。 写真:papa88 / PIXTA

今回の発表には、話の前段があります。JR四国は2011年度に策定した2020年度まで10年間の「経営自立計画」で、「2020年度に経常利益3億円を確保」の目標を掲げました。2021年3月で終わる2020年度は、自立計画のゴールに当たります。

厳しい経営状況を理解した国は、「黒字化できるなら応援しよう」と財政支援を実施してきたわけですが、JR四国は2020年度事業計画で3億円の経常黒字ではなく、12億円の赤字を予測しました。経営自立計画は、数字上は文字通りの〝計画倒れ〟に終わりました。

これに対して国土交通省は2020年3月31日、赤羽一嘉国土交通大臣名でJR四国に経営改善を求める指導を出しました。12億円の赤字予想に「コロナで計画が狂った」と思う方もいらっしゃるでしょうが、これはコロナを考慮しない数字。JR四国は「業績を見通すのは困難だ」として2020年4月以降、業績予想の公表は見送っています。

〝積極果敢な試合運び〟で赤字に

「JR四国への国の指導」と聞いて私が思い浮かべたのは、まじめな読者諸兄に怒られるかもしれませんが、柔道の試合時の「指導」。柔道の指導は消極的な試合運びに対する反則の判定だそうですが、JR四国の試合ぶりはむしろ逆。積極的な安全設備への投資などを、経費増の理由に挙げます。

どんな設備に投資したのか。JR四国の毎年度の事業計画には、老朽化した電気設備やCTC(列車集中制御装置)設備の取り換えのほか、通信網の光ケーブル化、橋梁などの耐震補強、PC(コンクリート)マクラギ化による軌道強化、誤出発防止用ATS(自動列車停止装置)の増設といった項目が並びます。

鉄道に詳しい皆さんには〝釈迦に説法〟でしょうが、鉄道のメンテナンスには膨大な経費や労働力を必要とします。そうでなくても地方の鉄道は、マイカーや高速バスとの厳しい競争にさらされます。今は何とかなっても、本格的な人口減少社会に移行するこれからの時代、先手先手を打って対策を取らないと近い将来「列車がダイヤ通り運転できない」事態が発生しかねません。それがJR四国の安全投資の理由です。

そうした中で決まったのが、今回の国による財政支援、JR四国が国土交通省に「返す返すありがとうございます。今度こそ絶対に経営を安定させます」の決意を示したのが、中長期計画骨子の先行発表といえます。

「グループ挙げた経営努力」と「事業運営を支える基盤構築」

「長期経営ビジョン2030」では「グループを挙げた最大限の経営努力」と「事業運営を支える基盤」を将来的な車の両輪に位置付けます。画像:JR四国社長会見資料

それでは計画の中身をみましょう。西牧社長名でのコメントでは、経営支援措置を講じた国交省への謝意を示し、「令和13年度(2031年度)の経営自立を実現すべく、全力を挙げる」の決意を示しました。

具体的な自立のエンジンは、「グループを挙げた経営努力」と「事業運営を支える基盤(構築)」の2項目。「鉄道運輸収入の安定的な確保」「省力化、省人化による生産性向上」「非鉄道事業における最大限の収益拡大」「安全・安心・信頼の確保」「生き生きと働ける職場づくり」「グループの企業価値向上」などに取り組むとします。

中期経営計画では、「2025年度にJR四国単体で売上高経常利益率1%確保」の目標を掲げます。ちなみに2019年度に当てはめれば、売上高280億円だったので、必要な経常利益は2億8000万円ということになります(実際は20億円の経常損失)。

一方、本四備讃線(瀬戸大橋線)の維持・更新や鉄道施設の大規模修繕といったJR四国単独で解決の難しい課題に関しては、国や地域、社会の理解を促しました。

平均通過人員の「基本指標」を維持

「伊予灘ものがたり」に続くJR四国2番目の観光列車として、2017年から多度津―大歩危間に登場した「四国まんなか千年ものがたり」。 画像:JR四国「2017―2020中期経営計画」

読者諸兄が関心をお持ちの鉄道事業の方向性を示せば、パターンダイヤ拡大による都市圏輸送強化、運賃改定を含む運賃・料金施策展開、駅販売体制の見直しなどを打ち出しました。四国島外からの利用客誘致では、人気の観光列車を充実させて地域の魅力を発信します。省力化、省人化には「多度津工場の近代化」もあります。機会があれば、JR四国に取材してみたいと思います。

総体としての鉄道利用客は減少傾向をたどりますが、歯止めを掛ける方策として、平均通過人員を基準とした「基本指標」を設定し、指標の維持を目指します。観光客誘致などで高松―松山間などの都市間を移動する利用客を確保し、沿線人口が減少しても事業基盤を維持するのが基本戦略のようです。

ちなみに2004年から2010年までJR四国の社長を務めた松田清宏氏はある会合で、「最近は鉄道車両に著名デザイナーを起用するのが一般化していますが、JR四国は社員がデザイナーを務めている」と話していました。それが手作りの温もりを感じさせる、JR四国の魅力につながっているのかもしれません。

四国DC、2021年10~12月に展開

2020年11月に高松市内で開かれた「四国DC」の全国宣伝販売促進会議。JR各社、自治体、旅行会社、協賛会社代表ら約500人を前に、四国ツーリズム創造機構の半井真司代表理事(JR四国会長)がDC成功に向けて決意表明しました。 画像提供:四国ツーリズム創造機構

最後に2021年のJR四国の話題。同社を中心としたJRグループ旅客6社と四国4県などが共同展開する、「四国デスティネーションキャンペーン(四国DC)」が2021年10月1日から12月31日の3カ月間にわたって展開されます。

タイトルは「しあわせぐるり、しこくるり。」で、四国を巡礼する八十八ケ所のお遍路さんに発想を得ました。四国DCは2017年4~6月以来4年ぶりで、ウィズ・アフターコロナ時代の大型観光キャンペーンとして、四国内外から多くの期待と注目を集めます。

四国DCのロゴマークは図案化した四国の地図を中心に、四国観光の魅力を光のきらめきで表現しました。 画像提供:四国ツーリズム創造機構提供

四国DCが標榜するのは、「多くの人が四国を訪れ、巡りながら楽しんでほしい」「訪れた皆に幸せが巡ってくるキャンペーンにしたい」の思い。サブタイトルを「四国の風・水・色を感じて」とし、「学(まなび)くるり」「観(ながめ)くるり」「遊(あそび)くるり」「心(こころ)くるり」「食(ぐるめ)くるり」の5項目のキーワードを設定しました。

前回DCは延べ宿泊者数が前年同期比6%増、経済効果100億円以上と大きな成果を挙げました。JR四国は、「伊予灘ものがたり」「四国まんなか千年ものがたり」「ゆうゆうアンパンマンカー」といった観光列車を走らせて、DC来訪客を迎えます。

文:上里夏生

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