黄信号点灯の菅首相、「4月政局」に現実味!? 支持率急落の中、再浮上の手はあるか…

By 内田恭司

 菅義偉首相が崖っぷちに立たされている。新型コロナウイルスの感染爆発を招いた上、遅すぎた緊急事態宣言の再発令で内閣支持率は急落。早ければ4月の衆参2補欠選挙後に辞任に追い込まれる「4月政局」が現実味を帯び、永田町では「ポスト菅」候補の動きに注目が集まり始めた。首相はなお長期政権を目論み、政策の推進で政権浮揚を図る構えだが、先行きは見通せない。菅政権が再浮上する可能性はあるのだろうか。(共同通信=内田恭司)

マスクを外す菅義偉首相=18日

 ▽支持率30%台で国会突入

 「世界で猛威を振るい、わが国でも深刻な状況にある新型コロナウイルス感染症を一日も早く収束させます」。1月18日に召集された通常国会での施政方針演説で、菅首相は決意を強調した。「闘いの最前線に立ち、難局を乗り越えていく」「ワクチンは、2月下旬までに接種を開始できるよう準備いたします」とも訴えた。

第204通常国会が召集され、衆院本会議で施政方針演説をする菅首相=1月18日午後

 だが、評価する向きはごく少数と言っていい。わずか3カ月前の2020年10月の所信表明演説で「爆発的な感染を絶対に防ぐ」と言明していたからだ。

 旗振り役となった「Go To キャンペーン」の推進にこだわり、経済を優先した結果、感染爆発を招いたと、多くの国民が受け止めているのは間違いない。

 世論調査の数字がこれを裏付ける。21年1月9、10両日に共同通信が行った電話世論調査で菅内閣の支持率は、前回12月の50%から41%に急落。16日の毎日新聞の調査では33%と、政権に黄信号が灯るレベルにまで下落した。

 内閣支持率は、通常国会開幕の段階で50%を超えていないと、政権維持が困難になる場合がほとんどだ。衆参の予算委員会での野党の追及は厳しく、重要法案での審議では徹底抗戦を受ける。政権の不祥事が明らかになれば、ダメージはさらに大きくなる。

 過去20年を振り返ると、共同通信の世論調査で森内閣(2001年)は23%。第1次安倍(07年)、福田(08年)、麻生(09年)の各内閣はそれぞれ45%、41%、19%で、いずれも9月までに退陣に追い込まれた。民主党の菅直人内閣(11年)と野田内閣(12年)も32%と35%で、ともに1年もたなかった。

 ▽五輪中止なら決断は3月末?

 菅内閣はどうか。鍵を握るのは、コロナ感染収束やワクチン接種の成否だ。東京五輪開催の可否や日経平均株価の動き、4月の衆参両院2補欠選挙の勝敗も、政権の行方を左右することになるだろう。だが、いずれも展望がある訳ではない。 コロナ感染は収まる気配を見せず、11都府県に拡大した緊急事態宣言は、2月7日の期限を超えて延長は不可避との見方が強い。

米製薬大手ファイザー製ワクチンの接種の様子=14日、スペイン・マドリード(ゲッティ=共同)

 首相が期待を寄せるワクチンは、米ファイザー製が承認手続きに入ったばかり。政府は2月下旬にも接種を開始し、6月までに十分なワクチンを国民に行き渡らせる計画だが、英アストラゼネカと米モデルナのワクチンの申請はこれからだ。米国は、昨年12月に2000万人への接種を目指したが、実施できたのは280万人にとどまった。

 コロナ感染が収まらず、ワクチン供給が滞れば経済が影響を受けるのは必至で、3万円をうかがうところまできた日経平均株価は、再び下降局面に転じかねない。

 こうした状況で東京五輪の中止が決まれば、菅政権は計り知れないほどの打撃を受ける。共同通信の世論調査では、中止か再延期を求める回答が計8割。感染拡大がはるかに深刻な米国や欧州でも開催への懐疑論が強まりつつある。

 国際オリンピック委員会(IOC)は1月下旬に理事会を、2月には東京五輪組織委員会との会合を開く。五輪選手村の村長を務める川淵三郎氏は自身のツイッターで、開催可否について「最終決定は3月末頃か。IOCの判断に従う事になる」と見立てた。

 ▽政権の行方、この1、2カ月で

 4月25日投開票の衆参2補選も厳しい結果が待っていそうだ。自民党は、吉川貴盛元農相の議員辞職に伴う衆院北海道2区への候補擁立を見送った。元農相は収賄罪で在宅起訴され、強い逆風下で勝ち目はないと見切ったからだ。参院長野補選は、立憲民主党の羽田雄一郎参院幹事長の死去を受けたもので、自民党の苦戦が予想される。

 菅首相の苦境を見据えてか、立民では枝野幸男代表が、1月18日の参院議員総会で「菅内閣は慌てふためき、うろたえている。暮らしと命を守る政治をつくりあげよう」と気勢を上げた。一方で、自民党内では「コロナが収まらず、五輪中止に2補選惨敗となれば持たない」(関係者)として、「ポスト菅」の品定めも始まった。

 世論調査で「次期首相にふさわしいと思う人」の上位に入る河野太郎行政改革担当相と石破茂自民党元幹事長の一騎打ちになるとの読みは、次の党総裁選では党員投票も行われるとの見立てからだ。先の毎日新聞世論調査では、この2人が1位と2位だった。

左から河野太郎、岸田文雄、石破茂

 「安倍・麻生連合」が主導して岸田文雄前政調会長が有力候補になるとの見方もある。岸田氏も意識しているのだろう。1月17日の民放のBS番組で「総裁選にはぜひ挑戦したい」と意欲を表明。自身のフェイスブックとツイッターで番組出演を報告した。

 ▽株価上昇が頼み

 だが、菅首相に再浮上のシナリオがないわけではない。コロナ感染を収束させ、ワクチン接種も予定通り始まるなら、支持率は底を打つ可能性がある。バイデン米政権が1月20日に発足し、1兆9千億ドル(約200兆円)もの追加経済対策が具体化すれば、日経平均株価は3万円を超えて、さらなる上昇局面に入るかもしれない。

 過去20年間、株価の上昇局面で国政選挙に負けた政権はほとんどない。ドル換算では既に、1989年12月の過去最高値を約31年ぶりに更新している。さらに五輪開催が決まれば、衆参2補選と夏の都議選に勝機も訪れる。

 首相は施政方針演説を「国民のために働く内閣として、全力を尽くしてまいります」と訴えて締めくくった。大方の予想を覆して起死回生を果たし、政権発足当初の目論見通りに長期政権をにらむのか。猛威を振るうコロナ禍を前に、やはりなすすべもなく、いよいよ進退窮まるのか。菅政権の行方はこの1、2カ月で方向性が見えてくるだろう。(おわり)

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