太田裕美「ピッツァ・ハウス22時」モデルとなったのは狸穴のキャンティ 1978年 8月1日 太田裕美のアルバム「ELEGANCE」がリリースされた日

カフェ以上にお洒落なピッツァ・ハウス、モデルは狸穴のキャンティ

ピザとシュワシュワした飲み物があればだいたい幸せだ。自宅の冷蔵庫にはだいたい冷凍ピザをストックして、たまに夜中に食べたくなるのを種々の事情からグッと我慢している。冷凍ピザを家庭で焼くときは、解凍してフライパンに蓋をして疑似石窯的に焼くのがいちばん美味しい。底は焦げない程度にカリっと、チーズはトローリーがポイントだ。

ピザにゆかりがある曲といえば、いちばんに思い出すのは、太田裕美「ピッツァ・ハウス22時」。1978年8月1日発売のアルバム『ELEGANCE』に収録され、作家陣は、作詞:松本隆、作曲:筒美京平、編曲:萩田光雄。

作詞を担当した松本隆は、太田裕美に書いた詞のなかで、“「ピッツァ・ハウス」が良かったね、一番好きかもしれない” と語っている。

当時のピッツァ・ハウスというのは、いまのカフェ以上にお洒落なお店という位置づけだっただろうと想像する。松本隆が作詞を手がけた楽曲のみで構成する『風街図鑑』のブックレットによると、モデルとなったのは、冒頭のコーラスにも登場する狸穴の『キャンティ』。なるほど、それはお洒落なわけだ。

エモーショナルな太田裕美のヴォーカル「ピッツァ・ハウス22時」

4番まで続く、ボタンを掛け違うような男女の掛け合いは「木綿のハンカチーフ」よりもずっと洗練された、都会で暮らす男女の会話。ドラマを見ているように引き込まれる。

お洒落なアカペラコーラスからE♭のキーで始まったこの曲は、歌に登場する男女の心を表すかのように3番で半音上がりEに、4番でさらに半音上がりFと2度の転調を見せる。これはドラマティックだ。

「木綿のハンカチーフ」同様に、1番から4番までアレンジが少しずつ変わっていく。シロフォン、エレキギター、ストリングスのオブリガートが主人公たちの心の機微を表すように音に表情をつけているのには、聴いていてグッと心を掴まれる。とくに3番の「ギターが上手な奴」あたりで聴けるギターのオブリが泣ける。萩田光雄さんの丁寧なアレンジの賜物だ。

22歳で離婚する女友達の話を男性にさらっと聴かせる太田裕美のヴォーカルはとてもエモーショナル。当時は結婚が早かったにせよ、22歳で離婚というのはこの曲を聴いていた大学生たちにとっても衝撃的だったのではないか。

自らを投影? 作詞の松本隆が語る「男は全部、僕かもしれない」

作詞の松本隆は、この曲を書いた20年後の1998年、太田裕美のオフィシャルサイト『水彩画の日々』で、インタビュアーの今野敏博さんに次のように語っている。

今野:(中略)男の子はロックに狂って、なんか不良っぽいんだけど女の子にだけは優しいみたいなところは、御自分を投影されているんですか? 松本:基本的には…、そうなんだよね。僕の詩は、男は全部、僕かもしれない(笑)。

―― このインタビューを読んで、太田裕美、松田聖子や南佳孝などに書いた、数多ある松本隆の作品を私はあらためて思い出してみた。彼の作品上ではあまり具体的な人となりがダイレクトに書かれてはいないものの、纏っていることばによって、あぁ、魅力的な男性だなあと思わせる。

私は、いちどだけ、松本隆さんとは目が合ったことがある。それは2016年9月のビルボードライブ東京で開催されたトークセッション『松本隆の世界 ~風のコトダマ~』にてのことだ。舞台上のクミコさんから最前列にいた私はマイクを向けられた。憧れの作詞家である松本隆さんを間近に目にして、感極まって泣きながら「赤いスイートピー」を、恋したひとのことを思って歌った。そのとき、ステージの松本隆さんから、“これはそんなに泣きながら歌う歌じゃないよ”、と目で言われたような気がした。

「ピッツァ・ハウス22時」を聴きながらこれを書いていて、美味しいお店でワインと一緒にピッツァを食べたくなった。今度、少しお洒落して、どこかに食べに行こうと決めている。誰かと一緒なら、なおいい。

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※2019年7月23日に掲載された記事をアップデート

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